前頭連合野/46野のORIGINAL NOVEL
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※著作権は前頭連合野/46野の管理人、怪物の顔(鮭)にあります。
孔蛾実は一人自室で悶々としていた。体育座りして。
「―――――― ―今日も雨がしとしと降っておりますねぇ・・・」
独り言。
外の薄青い空気の中、透明な雨がアスファルトを弾く。
――――――――――季節は既に露。じめじめと鬱陶しく億劫。
「自由への戸惑いかぁ・・・・」
―――――――― −もう君は呪縛から吹っ切れたんだ・・・・第二希望の保育士や、
やりたくも無い肉屋でもなくって一番の、第一希望の夢を叶えなさい。
―――――――君の心の引っかかりは “自由への戸惑い”
孔蛾は謎の外国人占い師に言われたことを思い出す。
あれから一切あの外国人占い師を見ない・・・オープン初日が閉店。
なんとも奇怪でおかしな話だ・・・。
「・・・・夢ねぇ」
ふと孔蛾は目の前のカラーボックスを見つめる。
――――エロ本とかエロ漫画とかジャ●プとかが並んでいる中に、
一箇所だけダンボール箱が詰められている。
「・・・・」
―――――――夢か、夢。
徐に孔蛾は立ち上がり、カラーボックスからそのダンボール箱を取りだした。
「・・・・・久しぶりに、ちょっとだけ・・・開けてみるか」
そう言うと孔蛾は、ダンボールの開け口を封じているガムテープをピリリッ!と一気に剥がす。
そして、パカッと入り口を開く。すると、中にはギッチリとぶ厚い医学書が詰りまくっていた。
「・・・うぁ〜入れたときのまんまだ。二年前のまんま」
――――――― ―孔蛾は二年前、塚原の事でキッパリと医学とは縁を切る決意をした。
だから医大を辞めて白衣を捨て、そして医学書もこうしてダンボール箱に詰め封印した。
・・・本当は医学書も捨てるつもりだったが、それだけは如何しても出来なかった。
喩えるなら聖書を捨てるのと同じ事をしているような気がして・・・。兎に角、無理だった。
―――――でも、一生開けない気だった。
だが、呪縛から開放された今、再び・・・・・。
「まあ厭きもせずよく読んだよ、ネルソンシリーズ・・・」
孔蛾は一冊手に取り、懐かしそうにそれをペラペラと捲る。
・・・・書かれている内容は全部ドイツ語?英語?アルファベットが犇き過ぎてわけ分からん。
ちなみに孔蛾は全部理解しているらしい・・・・・・。
これは小児科学の本。孔蛾の夢は医者でそれも小児科医。
―――――――――彼は本当に子供が好きなのだ。
「・・・・・・」
「ちょとだけ」とか言っておいて孔蛾はその場にしゃがみ込み、
次から次へとページを捲りどっぷりと読み出している。
その顔つきは真剣で、普段のだらしない彼とは格段に違った。
完璧に、医者を志す者の顔だ。
――――ドンドン・・・ドン!ガタン!
「―――――― ―孔蛾さん!昨日のお使いのお釣り、
ちゃんとカヨ子さんに返しましたか!?返さないと、またこっ酷く怒られますよ!」
「?!―――― −あっ!ちょ!!」
―――――げっ!!春日子!
行き成り春日子が部屋の戸を開ける、孔蛾は突然の事に吃驚し、
如何してか、思わず読んでいた医学書とダンボール箱を背の後ろにガササッ!と隠す。
「―― −!?あっ!今何か咄嗟に隠しましたねぇ〜」
孔蛾の不審な行為に早速、疑いをもつ春日子。
だが孔蛾は「別に何も隠してねぇーよ!!」と突き返す。
「・・・へぇ〜ほんとですかぁ?」
「・・・・ホントだよ」
「・・ものスッゴク!疑わしいんですけど」
「・・・・・マジ、マジでなんでもない。なんでもないからっ!」
「・・・ふぅん」
「・・・・・」
苦笑いの孔蛾、ジロジロと何度も孔蛾の後ろを覗き込もうする春日子。
「・・・・・」
「・・・・いや、ほんと・・・ほんと何も、無い!」
大きな背中で、いっぱいいっぱいに後ろの物を隠す孔蛾・・・。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・ふん!まあいいです。どうせ、エッチな本かなにかでしょう!」
「――― ―!エッチって・・・しかも何だよ、どうせって・・・・・」
「だって、それしか無いじゃないですか。孔蛾さん」
「・・・それしかって」
――――――――俺、コイツ(春日子)にこんな風(エロい人)にしか思われてないのか!!
――チッ!ちょ、悔しいじゃねぇーかっ!!屈辱以前に男を舐めている!!(どのへん?)
――――― ―よし、ちょっとからかってヤル・・・。
・・・・何を考えているのやら、孔蛾は怪しげな笑みを浮かべると、
すくっと立ち上がり春日子に向かって「――― お前、自分は・・・本当は男だ男だって言い張っているけど、根拠あんのかよ。
豊かな胸に可愛い女のお顔、お前のドコが本当は男だよ!!」と言い放った。
「――――――――――― ―!!!!!」
―――――――――ビカーン!!ドーン!ゴロゴロゴロ・・・・。
しとしと降っていた雨はいつの間にか土砂降りに変わり、大きな雷が一つ落ちた。
「―――えっ?」
孔蛾の言葉に春日子はキョトンとする。
「―――――そういえばお前、『今は女の子だけど、悪い奴の魔法が解けたら男の子に戻れるんです』って遊園地での食事の時、
言っていたよなぁ・・・なぁ!?あれ、どういう意味なんだよ!」
――― ―今は女の子だけど、悪い奴の魔法が解けたら男の子に戻れるんです。
確かに春日子は言った。一字一句間違えなくそう言っていた。
よくもまあ孔蛾は、まるっと覚えていたものだ・・・矢張りIQ148以上の頭脳を持つ男。
記憶力は抜群に良い。しかし・・・まったく社会に貢献していない!
「――――!それは・・・」
どうした事か、春日子は急にオロオロと焦りうろたえだす。
「――――はぁ〜ん、やっぱり夢か。夢オチでしたか・・・魔法をかけられた夢!」
「――ちっ!違います!!夢なんかじゃありません!!」
「――――だったら根拠!」
「――――― ―うっ!」
―――――――う〜ん、困っている困っている♪
― −いいぞいいぞ!この調子!
追い詰められる春日子・・・孔蛾はその表情にしめしめと思った。
普段の仕返しだ。仕返し。
「――――無いんだな、根拠」
「――!あっ、あります!!」
「――!?」
「――――根拠ならあります!!あるったら、あるっ!!」
―――ついに春日子が啖呵を切った。
孔蛾は卑しい顔して「――ほぉ〜根拠、是非聞かせてもらおうじゃないか!その根拠とやらを!」と返す。
すると春日子は凛々しい顔でこう言い放つ、「――――ボクは、ボク会ったんです!“魔法使いに”」と。
「――――――?!はぁ?」
――――――― ぶっ飛びな答えに孔蛾は一気に気抜けした。
―――――――――――――魔法使い?何言ってだ春日子?
「・・・ボクは昔、魔法使いに会ったんです。うそじゃありません。そして、ボクに教えてくれたんです。
“君は・・・本当は男の子なんだよ。でも悪い奴に魔法をかけられているから今は女の子になっているんだよ”って。
“その悪い奴の魔法のせいで君が女の子になっているから、お母さんがいなくなってしまったんだよ。
でも魔法が解けたらお母さんは必ず迎えに来てくれるよ”って!!言ったんです!」
「―――――はぁ!?ちょっ!何だそれ?誰に言われたそんなこと?そいつはお前に何を吹き込んだ!?その魔法使いと名乗る奴は?」
「――――――――吹き込んだ?違います。教えてくれたんです!!
魔法使いは魔法使いです!魔法使いの“ユポ”!!優しい魔法使いです!!」
「――――?!はぁ?ユポ?優しい魔法使!?」
「――そうです!!ボクの前に現れた魔法使いはボクにこう言いました、“ボクはユポ、君の魔法使い。優しい魔法使い。”って。
そして、こうも言いました、
“ボクが大人になって強い魔法使いになったら、また君の前に現れて君にかけられた魔法をといてあげる”って!」
「―――なぁ!?」
「―――――――だから、ボクは何時か男の子に戻れるんです!!
また魔法使いが、ユポが来てくれて僕にかかった悪い魔法をといてくれるんです!!これが“根拠”です!!!」
春日子は激しく熱弁した・・・・。ゼイゼイと息を切らし、肩を震わせて。
―――――――――本気だ。本気の本気で春日子はそう思っている。
悪い奴の魔法が解けたら男の子に戻れると。そう信じている。微塵も疑わず。
―――――――――――――――あり得ない、俺が否定してやる。
「・・・・・・夢だよ!!」
「だから何度も言っているんじゃないですか!!夢じゃないって!!本当だって!!
どうして信じてくれないんですかぁ!?何で疑うんですか!!
自分は疑われたり、嘘つき呼ばわりされるのが嫌いなくせに!自分勝手ですよ!!孔蛾さんは自分勝手です!!!」
「――――――――っ!!自分勝手だと!?俺が?」
―――――――――――――うっ!そうだ、確かに今の俺は自分勝手だ。
―― ―自分の一番されたくないことを彼女にしている。
「―――― ―ええ、孔蛾さんは自分勝手です!!!」
―――――――――――――だけど、俺が自分勝手な事をするのには訳がある!
「・・・・・・だから何?」
「―――――――――っ?!」
――パシッ!!
鋭い眼をした孔蛾が、行き成り春日子の細い腕を掴む。
「―― −自分勝手がなんだぁ!!?」
「――――――――?!きゃあっ!!!」
――――そして、ドン!!とそのまま彼女を勢いよく床に押し倒した。
―――――――――上下に重なり合う二人・・・・。
「・・・・・・え゛っ?」
春日子は一瞬自分の身に何が起こったのか、まったく訳がわからなかった。
ただ、自分の上に見慣れた大きな男・・・孔蛾が乗っている。
―――――― ―重い・・・苦しい。
春日子は頑張って孔蛾を押しのけようとするも、力の差は歴然で、あっけなくそれは失敗した。
「――――――― ―俺は自分勝手だよ。確かに、間違えなく自分勝手だよ」
「・・・・・」
――――――― ―怖い。
―――――――――何時もの孔蛾さんじゃない。
春日子は怯えた・・・・・。
今、自分の上に乗っている男は何時も自分が見ている男と違う。
変な色気があって、熱く潤んだ瞳でこちらを睨んでいる。
――――――――知らない・・・。
――知らない。知らない、知らない!知らない!知らない!!この人、誰?
―――――――そこには、男の孔蛾がいた。
男性本能剥き出しの孔蛾が。
「・・・あっ、孔蛾さん」
「・・・・」
「―― −こっち見ないで下さい!」
孔蛾と眼が合うのに耐え切れず、春日子は顔を逸らす。
「・・・・・なんで?こっち向こうよ」
―――――グィっ!!
しかし孔蛾はそれを許さず、春日子の顎先を掴むと無理やり自分の方へ顔を向けさせる。
「――――?!なっ!」
「好きだ!」
「――――っ?!」
――――――――― ―そして、強引に彼女の唇を奪った。
口付け。
その口付けは、春日子にとってファーストキスだった。
―――――――――ビカーン!!ドーン!ゴロゴロゴロ・・・・。
また雷が落ちた・・・・。
「・・・・」
「・・・・・・」
・・・・・いったい、どれぐらいの時間がたったのだろうか?一分ほどだろうか?
ようやく孔蛾の唇が春日子の唇から離れた・・・。
「・・・・・やわらけぇ」
「――――― −!最低!!」
―――――――――――――バシィ!!!
「――――?!イッ!痛いっ!!」
春日子は力一杯、孔蛾の頬をビンタしていた。
―――――――おかげで孔蛾の顔は真横を向き、頭が真っ白になった。
そして、正気を取り戻す。
「――――――――――− ―おっ、俺は一体何を・・・」
「―――――――なっ!何が俺は一体何を・・・ですか!!どいて!!どいて下さい!」
「――!!あっ!えっ・・・ごめっ」
―――――――俺、何時の間に・・・いや、覚えはあるんだけど。よくこんな大胆な事を。
青い顔して孔蛾は春日子の上からどく。
すると春日子は「―――――――孔蛾さんの馬鹿!!最低!エロ男!!嫌い!大嫌い!!!」と叫んで逃げていった。
涙流しながら・・・・。
「・・・・・・・・えっ?」
―――――――――ビカーン!!ドーン!ゴロゴロゴロ・・・・。
またまた雷が落ちた・・・・。
―――――――嫌い!大嫌い!!!って・・・・・。
「え―――――――――っ!!」
―――あれ?何これ・・・こんなはずじゃ、俺はちょっとあいつを懲らしめてやろうと。
日頃の復讐、このあいだの正拳突きの復讐をと・・・。
えっ?なのに俺、押倒して告白してキスした。こっ、こんなつもりじゃ・・・。
――――完璧だ。完璧に嫌われた・・・しかも大嫌い。
「―――うっ、ううっ・・・ぅ、俺何にやってんだろ?最低じゃん・・・最低」
気づけば孔蛾は泣いていた・・・男泣き。
「・・・・・でも、ホントやわらかかった〜」
孔蛾は泣きながら春日子の唇を思い出していた・・・・。
―――――――やっぱり最低エロ男だ。