「!!―――――――― ― ―!!」
真夜中、ガバッ!!と孔蛾がベッドから起き上がる。
目を開き、べっとりと掻いた冷や汗を拭う。
「――――― ―夢・・・」
彼は夢を見た。それはなつかしくも、美しくも、恐ろしい夢だった。
「・・・・・」
枕元のランプを点け、カレンダーを見る。
孔蛾はしばらく黙って「――――― ―塚原・・・・」と呟き、頭を抱え蹲った。
罪悪と取り返しのつかない過去の過ちが、黒い影の怪物となってこの青年を包み隠す。
そして、影は彼を連れ去った。
"もうこれ以上、ここには居られない"
日曜日の朝、
春日子が「――――― ―わーっわぁーっわぁ―――――――っ!!」と叫びながら家の中を走り回る。
「――!?どうしたの?春日子ちゃん!?まだ五時前よ!!眠いわ〜」
カヨ子が何事かと寝室から出来た。
ピンクのネグリジェ着て、頭にカール巻いて、眠そうにあくびをしている。
「かっ、かっ、カヨ子さん!!」
カヨ子に気づいて、騒がしい春日子の動きは大分おさまったが、まだ足はタンタンと床を足踏みしている。落ち着きがない。
「なんだい朝から?いったい何があったんだい!?ゴキブリでも出たのかい?
だったら殺虫剤・・・は、もう空だから馬鹿従業員を起こして、スリッパを持たせて・・・叩かせればぁ――」
「――――― ―その馬鹿従業員がいないんです!!どこにもいないんです!!」
「―――――――えっ!?」
カヨ子は、春日子の衝撃的な一言で完全に眠気が吹っ飛んだ。
「―――― ―ちょ、ちょっと何よ、何よそれ!?どういうこと!?」
「――― ―カヨ子さんこれ読んで!!」
春日子は戸惑うカヨ子をキッチンのテーブル前へ引っ張る。
そして「――― ―これ!これ!!」と、テーブルの上に置かれた一枚の便箋を必死に指差す。
「――― ―!?何これ!?」
カヨ子はその便箋をピラッと取って見る。
―――― ―便箋には汚い字で何か綴られている。
それをつらつら読むと、カヨ子は「!!あら!あら・・・あら、あららら・・・」と思わず言ってしまった。
便箋に綴られた内容―――― ―それは、ボールペンで書かれた、
『大変お世話になりました。
いままで、迷惑かけてごめんなさい。
色々有難う御座いました、さようなら。 孔蛾』
の三行。
「これって、あんた・・・ちょっと・・・出て行くって言う、置手紙じゃ・・・・」
そう、それは・・・"さよならの手紙"だった。
「ボク、トイレへ行きたくなって目が覚めて、それで下へ降りたらテーブルにこれがっ!!
驚いて家中孔蛾さんを捜し回ったんです!でも・・・・どこにもいなくって!!」
春日子はそう話すと、苛立って床踏みがより一層激しくなる。
「一体何があったんだい?昨日だってあんなにふてぶてしい態度してたじゃない!
何時も文句とワガママ言っていたじゃない!人をババァ呼ばわりして・・・・。
なのに、なのに何さ!こんな味も素っ気もない様な置手紙なんてしちゃってさ!
お世話になりましたなんて書いて!何よ!何も言わずにここを出ていくなんて!!
泣いた顔して勝手に来たくせに・・・勝手に出て行った!」
カヨ子は半分怒って半分悲しい顔をした。
自然に・・・目から涙があふれ出る。
「孔蛾さん・・・失踪しちゃった。孔蛾さんが失踪しちゃった!!
また何処かで首吊っていたらどうしよう!!もう手遅れだったらどうしよう!!うわぁぁぁぁっん!!!」
妄想が膨らみすぎて、春日子が声を上げて泣き出す。
カヨ子は「大丈夫よ、春日子ちゃん!!きっと大丈夫!!警察来てないから!」と言い聞かし、春日子を安心させようとするも、
全然聞かず、春日子は「うわぁぁぁぁっん!!死んじゃいやだぁ!!ボクがせっかく救った命なのに!!如何してですかぁ―――っ!!何でどっか行っちゃうんですか!?絶対問い詰めてやる!!一喝してやる!ボク、ボク孔蛾さんを地球中捜しにいきます!!」と叫んで外へ勢い良く飛び出した。
「――― ―!ちょ!ちょっと春日子ちゃん!!春日子ちゃん!」とカヨ子は呼び止めるも、春日子はもう行っちゃった。