ある日、心清い少年と心優しい少女が街を歩いていた。
―――――― ―パチン
誰かが指を鳴らす・・・・世界という空間に微かにその音が響く。
すると、キラキラ輝く沢山の欠片が流星の様に空から降ってきた。
ふと空を見上げた少年の目と心臓に小さな欠片が突き刺さる。
以来、少年は卑屈と嫌味しか言わない、歪んだ性格となった。
***
「右に見えるサイドボートが英国アンティーク、その上に載っている壺はマイセン、横にはウワン・ガラスに清朝の磁器と茶器。
左の中国アンティークのローボードに並べているトロフィーは父、宇佐美純一が日本アカデミーで新人俳優賞取った時の、
その次は主演男優賞、その次も主演男優賞、その次がカンヌ国際映画祭で助演男優賞を取ったもの。
トロフィーの隣にあるゴルフボールセットは祖父、宇佐美純之助が地区のゴルフ大会で取ったブービー賞。
で、壁に飾られている徒競走一等賞や英検2級の素晴らしい賞状の数々がこの僕、宇佐美純の小学校から現在まで軌跡!! そしてそして―――この飾り棚がぁ――」
バカみたいに広いリビングで宇佐美がペラペラ喋る。
よくもまぁこうも舌が回るものだと、高級ソファーに腰掛けた孔蛾と春日子は感心した。
二人は、「幽霊屋敷で助けてくれたお礼に僕の家に招待してやる」と宇佐美に呼ばれたはいいが、
もう20分近く家の自慢を聞かされている。聞いている側とすれば他人の自慢話なんてウザくってたまらない。
しかし、喋っている本人は自慢を自慢と思っていないのだ・・・・そこが恐ろしい。
「宇佐美・・・・もうわかった、部屋の説明はもうわかったから・・・」
うんざりした顔で孔蛾が「もうわかった、十分だ」と言う。
「―――え?まだ少ししか言ってないのに」と宇佐美は言うが、
「そんな喋っていたら時間がどんどん減るだろう!!」と孔蛾は軽く切れた。
「――――そんなにカッカしないで下さいよ〜もう、これだから教養のない人は嫌なんですぅ。
まぁ、そんな人にも僕は優しいので取って置きの物を君達に見せてあげますよ〜」
宇佐美はそう言うと、パンパンと手を叩き「ジィ、あれ持ってきて!」と叫ぶ。
――すると、十秒もしないうちにとコツコツと靴音が聞こえパタン!!と部屋の扉が開く。
「――坊ちゃま、これでございますね?」
やってきたのは黒のスーツに蝶ネクタイを締めた70代ぐらいの老人・・・・しかも藤村俊二似の。
あれ?藤村俊二似・・・・どっかで見たような・・・。
老人は楕円の形をした大きな鏡を丁寧に持っては、宇佐美に見せて確認する。
宇佐美が「うん、これこれ」と頷くと「左様でございますね」と納得する。
誰なんだろう?と言うより、一体何者なんだろう?という感じで老人を見ている孔蛾と春日子に気付くと、
宇佐美は「紹介しよう、執事の田沼だ」と老人こと執事の田沼を二人に紹介する。
「――どうも田沼です。坊ちゃまにはジィと呼ばれ親しまれております・・・」
田沼は挨拶し頭を下げた。
「―――あれ?どっかで会いませんでしたっけ?・・・・あ!喫茶店のマスターでしょ?」
孔蛾は田沼の顔を見るなりそう言った。この顔には見覚えがある。
瓜二つそっくりなのだ、喫茶ミューズのマスターと。
しかし、「―――いいえ、喫茶店なんて知りません。私はこの宇佐美家の執事一筋でございます」と否定された。
孔蛾はアラ?と首をかしげた。似ているのになぁ―――凄く。でも違う。喫茶ミューズのマスターと執事の田沼。
「ジィ、これのこと説明して―――」
宇佐美は田沼が持ってきた鏡を指差す。
田沼は「はい、わかりました」と返事し持っている大きな鏡を胸のあたりまで掲げ、「この鏡はイタリアロココ時代の壁掛けミラー。
当時王室でも使われていた、貴重なアンティーク物でございます。
大変豪華絢爛な作りとなっていまして、とても庶民の皆様が買うような品ではございません」と孔蛾と春日子に鏡の説明をしだす。
二人は「また自慢話かよ」と思った。
しかし、「――ですが、見ての通り残念ながら鏡の下半分は殆どかけて無くなってしまっています・・・・」と田沼はオプション説明を付け足す。
確かに、純金製で美しい細工の鏡まわりしているが、鏡の下部分はゴッソリと欠けてなくなっている。
「そして――聞いて驚くな!なんとこの鏡、"悪魔の鏡"という異名があるのだ。
丑三つ時・・・魔の刻にこの鏡を覗いて見ると違った姿をした自分が映るらしい・・・」
突如、宇佐美が口をはさむ。
低い声のトーンでホラーなことを言い出すので、怖い話が苦手な春日子は「―――キャアッ!」と思わず小さな悲鳴を上げた。
そしてこれ以上聞きたくない、嫌々と耳を塞ぐ。目の前の鏡が怖いので目もキュッと瞑る。
その姿に隣の孔蛾は迂闊にも一瞬「かわいい」とか思ったが、 「オイ!何が取って置きだ、チビ助が怖がってんじゃねぇーか!
もし隣で泣かれたりしたら鬱陶しいんだよ!」と宇佐美に抗議。
そして「――帰る!!」と言って春日子の袖を掴んで立ち上がる。
「!!――まって下さいよ!そんなぁ〜!!ちょ、ちょっと待って下さい!!お願いですからぁ!!」
帰ってしまいそうな二人を態度一変して引きとめる宇佐美。 物凄く必死なので仕方なしに二人は戻る。
「実はこの鏡、預かり物なんですぅ!!知り合いの人が引っ越しの邪魔になるから、宇佐美家でこの鏡を一週間ほど預かってくれって!!
僕のじい様は"よそ様の大事な預かり物だから、純、お前が責任を持って自ら夜見張っとけ"って言うのね!!
でも変な曰く付きだし、高価な骨董品だから一人じゃ見てられないの!!
御願い!!一緒にしばらく泊まって―――!!二人とも夜に来て泊まって!!!」
宇佐美は絶叫して孔蛾にすがる・・・・。
―――― ―なるほど、こいつの本当の目的はこれだったのか・・・・・お礼として俺達を家に招待するとか適当な事を言って、
本当は預かった鏡の見張りが怖いから呼んだんだな!!アレだけ散々カッコつけて自慢しやがって!!この馬鹿野朗っうううっ!!
孔蛾の中で宇佐美に対しての怒りが沸々と湧いて出てくる。いや・・・マグマみたいにボコボコドロドロと湧く。
―――― −なんか騙された。
顔には出さないが、春日子にも怒りが湧く。
「―――知るか!」
凄い剣幕で孔蛾はすがる宇佐美を振り払う。たまらず宇佐美は「―― −ああっ」と涙声を出す。
そして、捨てられた仔犬のような潤んだ目をして懇願する。
孔蛾は「今度は泣き落としか?」と思ったが、「野朗の涙なんか興味ねぇよ!カス!」と宇佐美を罵声した。
「一人で見るのが怖いなら、執事のジィと一緒にいればいいだろう!!なんで俺達なんだよ!!」
孔蛾はピシィッ!と田沼を指差す。
すると宇佐美は「駄目だよ!ジィは頼りにならない!!」と言う。
「何でだよ!」と孔蛾が怒鳴って聞くと、
「――――だって歳だから夜九時にはもう寝ちゃう!!」と宇佐美は答えた。
「ハァ!?―――― ―!九時就寝・・・」
孔蛾はどうしようもない衝撃を食らわせられる。年寄りは寝るのが早い・・・・なるほど・・・・。
田沼は「申し訳のうございます坊ちゃま・・・・睡魔には勝てません・・・」と言って悲しい顔している。
孔蛾は「事情はわかった・・・・けど、仕事終わってからだから行くの少々遅いぞ?」と冷静にもどって言った。
宇佐美は「大丈夫です!!」とオッケーする。・・・・急に元気になった。実に調子のいい奴・・・・。
「ジィ、岡松精肉店に電話しろ!二人の事をちゃんと説明しろよ!」
「―――はい。わかっておりますとも坊ちゃま」
田沼は宇佐美に指示されて岡松精肉店へ電話をかけ、カヨ子にあれこれと話す。
カヨ子は「――別にいいよ、仕事と学校終わった後行くんだったら」と了承。
話の流れからして強制的に・・・てか、当たり前のように春日子も行く様になっている。
春日子は「――ボク、何も言ってないのに・・・」と心の中で呟いた。
こうして孔蛾と春日子は、夜に宇佐美の家へわざわざ泊まりに行かなくてはならなくなった。
なんとも傍迷惑である――――― ――。
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