前頭連合野/46野のORIGINAL NOVEL

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※著作権は前頭連合野/46野の管理人、怪物の顔(鮭)にあります。





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「おばちゃん、コロッケ1つ頂戴」

腹の虫が鳴るお昼時、店の前で一人の少年がコロッケを注文する。
洗濯洗剤のCMに出てくるタレントみたいに、なんとも爽やかな笑顔で。
着ている、黒のブレザーに薄い灰色のシャツ、ワイン色のネクタイは、地元の名門高校の制服だ。
カヨ子は「はい、80万円」と昭和なギャグを言いながら80円を受け取り、
注文のコロッケを小さなビニールに入れ「今日は学校お昼まで?」と訊く。
少年は「ええ、テスト期間ですから」と答える。
この親しげな問いかけから察すると、どうやら少年は馴染みの客のようだ。
おかげで春日子も孔蛾も顔と名前はよく知っているし、話したりもする。ちょっとした知人関係。

「お昼ご飯のおかずにコロッケ一個とは、少食だこと・・・」

奥の厨房でジャガイモを潰しながら孔蛾が嫌味を言う。どうにも鼻に突くらしい。
その理由はただ一つ、この少年がイケメンの上優れた頭脳をもつ"勝ち組"だから。
自分もかつては、このイケメンの上優れた頭脳をもつ"勝ち組"と呼ばれていたが、 今はその面影は微塵も無い。
しかも少年は追い討ちをかけるように"芸能人の息子"という親の七光りも持っている。
なんせ彼は人気俳優宇佐美 純一の一人息子、宇佐美 純であるのだから。
ついでに祖父はこの町内の自治会長。

「違いますよ〜僕が食べるんじゃなくって犬にあげるんです。犬に」

宇佐美は厨房を覗き込み、孔蛾に嫌味を言い返した。
すると孔蛾は「餌かよ!オイ!」と荒く突っ込む。
宇佐美はそれを無視してカヨ子に「もっと広くものごとは解釈しないと!
孔蛾さんってホント頭弱いですねぇ〜!これじゃー女将さんは出来の悪い従業員をお持ちで大変ですね。
じゃ、僕急ぎますから」と言い、あっと言う間に去って行ってしまった。

「・・・なにアイツ、感じ悪っ!うざっ!」

ジャガイモを潰すのに力が増す。出来の悪い従業員と言われ孔蛾は頭にきた。

「出来の悪い従業員、ほらアンタ宛ての手紙だよ。
ポストには四日前ぐらいに届いていたんだけどさ〜取った時、沢山のチラシと一緒に入っていたから気付かなかったのよ。
今日チラシ整理していたら見つけちゃった。よかった捨てないで!はい、四日遅れの手紙。
あと、イモ潰し終わったら今日は特別に午後はお休みにしてあげる」

カヨ子は孔蛾がジャガイモを潰しているボールの横にパサッと封筒を置く。
孔蛾は潰れていくイモを見ながら「わかった」と生返事をした。







***







作業を終えた孔蛾は封筒を手にすると二階の部屋に篭った。




「・・・いったい誰からだ?」

孔蛾はじっと封を見つめる。
家族からだろうか?いやいや、それはない。
借金で迷惑をかけまいと、自分は家をとび出して以来一切連絡を断っていて家族には何一つ知らせていない。
だから、家族は手紙の出しようが無い。何よりも達筆で「孔蛾  実 様」と書かれている。
この「孔蛾  実 様」は実に見事な達筆で、残念ながら自分の家族は誰も達筆ではない。
悲しくもこれは一発で判断できる。だったら、友人関係だろうか?いや、それも無い。
なんせこれも借金が切欠で、彼らはあっと言う間に自分の周りを去って行ってしまった。
関りたくないと思っている相手から手紙なんて届くはずが無い。
・・・・もしや、金融関係か?と焦ったが、この手紙の封筒はまったくソレっぽく無いのだ。
というか、自殺未遂してからというもの何故かピタリと借金の催促が途絶えた。
まーなんと言っていいのか、つまりこの届いた封筒は一般でよくやり取りされている個人的な私的な手紙の一つなのだ。
封筒は藤色をした品のある洋封筒で、裏を見れば左下に「今井 絵理加」と送り主の名が控えめに書かれている。
――――― ―今井 絵理加。
孔蛾はこの人物の名を知っている。春日子がよく口にしている「絵理加先生」だ。
春日子宛ではないかと疑ったが、確り「孔蛾  実 様」と自分宛てに出されているのは確認済み。
何故会ったことも見たことも話したこともない、春日子の口から聞いたことしかない、
今井絵理加から自分に手紙が来るのか孔蛾は不思議でならなかった。

「・・・・」

無言で孔蛾は封を切り中身を取り出す。
切り方が雑なため、途中で手紙が引っかかって少し皴が入ってしまったが、全く気にすることもなく広げて読む。
内容は薄い便箋一枚に宛名同様達筆な字でこう綴れている、


孔蛾実様

前略ごめんください
突然ですが一度私とお会いして頂けませんか。
私は孔蛾様に如何しても会ってお話したいことがあるのです。
私の都合上、勝手ながら会っていただく日時と場所は予め指定させていただきました。
細かな事は同封したメモに記しております。
何とぞ、ご引見くださいますようお願い申し上げます
取り急ぎ乱筆悪文のためお見苦しいかと存じますがお許しください。

かしこ



○○ ▲×年 3月●日
今井絵理加



読んで見ると随分一方的で押し付けな感じがする文だ。急いでいる気もする。話の内容も不透明でよく見えない。
しかし非常に「どうしても会ってくれ」という熱が伝わる。
貰った相手は、会わなくてはならない気がする。何故だろう。
それはともかく、孔蛾は、メモ?そんなものあったか?と思い再び封筒の中を探る。
ちゃんと奥に、葉書サイズのメモ用紙が二つ折りになって入っていた。最後まで確認していなかったのだ。
メモには『三月▲○日ミューズに午後3時30分来てください。先に私は中に入り、奥の席にて待っています。
ミューズが何処かご存知でなければ下に簡単な地図を書いておきました。それでお確かめください。』
と書かれている。
ミューズは喫茶店の名前。大手でも有名でもない喫茶店。極めてローカルな喫茶店。
ミューズは一度も利用したこと無いが、地図を見なくてもわかる。かなり近所だから。
なんせこの商店街近くにあるただ一件だけの喫茶店。
しかしその喫茶店、どう見ても見た目が廃墟と化しているので「営業しているの?」と疑問だが、 噂によれば営業しているらしい。
そんなことより、問題は場所よりも日時だ。
――――― −三月▲○日・・・・ヤバイ、今日じゃないか!カヨ子(もはや呼び捨て)もっと早く渡せよ!
てか、人の手紙を四日も広告チラシと一緒に混ぜるな!!放置するなよ!

一瞬冷やりとするが待ち合わせの時間は3時30分。
今の時刻が3時7分を少し過ぎたところ・・・ココから待ち合わせの店までの徒歩10分ほど。

――――― −よかった、間に合う!
孔蛾は大急ぎで着替えて支度を整えると、店を走ってとび出した。




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