前頭連合野/46野のORIGINAL NOVEL

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※著作権は前頭連合野/46野の管理人、怪物の顔(鮭)にあります。





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次の明くる日の夕暮れ前、

「――――ねぇ、ちょっと見て奥さん・・・」
「――まぁ、なにアレ・・・気持ち悪いわぁ〜」

商店街中の買い物主婦達がヒソヒソしている。
皆誰もが眉間に皺を寄せてチラチラと同じ所を見ている・・・。

――――――その視線の先には・・・芽衣子。芽衣子がいた。
芽衣子はジプトのミイラの様に顔と手足を包帯でグルグル巻きにし、初夏だというのに黒のトレンチコートを羽織っている。
そして、そんな格好で商店街の中央をフラフラと歩いていた・・・・いや、まるでどこか遠くを彷徨っているかの様だ。
眼はがらんどうで何も映そうとしていない。

―――――――――皆が私を見ている・・・・。
――――今まで見ようとしなかった皆が私を見ている。
―――――――――――――そうか・・・やっぱり、今まで私は―― −。

そのまま芽衣子は商店街の奥へと消えていった・・・・・。






***







「――――みんなぁ〜もう直ぐ焼肉パーティー始めるわよ♪さぁ、準備準備!準備して!」

パートから帰ってきた芽衣子の母が嬉しそうにはしゃぐ。
芽衣子の兄弟達も「―――わ〜いっ!」「肉だ!肉!」「祭りダァ!」とか言って騒いでいる。
父も黙って嬉しそうに微笑んでいる。
―――一家の幸せな光景。だがそこに・・・芽衣子自身の姿はない。

――――ピンポーン♪
玄関のチャイムが鳴る。

「――――あっ、誰か来たみたい」
「―――ああ、きっと肉屋さんよ。あれ?でもちょっと来るのが早いわねぇ・・・。
まぁ、いいわ、和樹ちょっと出て頂戴」

母は芽衣子の末の弟の和樹にそう言い付けると、和樹は「は〜い」と返事して玄関へ向かった。
――――――そして、ためらう事もせずドアを開けた次の瞬間、

「――――っ?!」

―――――――――――――――――――――――――ドス!と腹部を包丁で刺された。

――――――ゴポッ!と和樹は口から血を吹いて即死した。

「・・・・・・・和樹、久しぶりだったね」

刺した相手は――― −芽衣子。久々の外出から帰ってきた芽衣子だった。
・・・・・・彼女は商店街をふらついていた姿のまま。
冷たい床の上で動かなくなった弟をほんの暫く見つめた後、
包丁をそのまま刺しっぱなしにして。芽衣子は・・・ヒタ、ヒタ、とリビングへ向かう。
人の気配を感じた母が「―――和樹お肉とってくれたぁ?」と声を響かせる。
―――ガラッと戸が開き、人がリビングへ入ってくる。
残念ながらその入ってきた人物は和樹ではなく、別の人物・・・娘の芽衣子。
芽衣子は「―――――――お肉?お肉はまだだよ」と和樹の声真似をし、ニッと卑しく微笑んだ。

「――――??!芽衣子!!!」

母が驚く―――−。兄弟たちも。そして父も。
父は「――――めっ、芽衣子!お前、おま、お前なんだ、なんなんだ一体その格好は!?」と
包帯だらけのミイラみたいな芽衣子の姿に反応した。


―――――――――――――お父さんが五年ぶりに私に話しかけてくれた。
――――うああああっ・・・なつかしぃなぁ〜。懐かしいよ、この感覚。
――――――――――――――やっぱり見えているからなんだ。
――――包帯巻いてコート着ているから私が皆見えているんだ・・・・うれしい。


けれども芽衣子は父の質問に答えることをせず、そっと右手をコートの内に入れる。
―――――そして、その内からある物をパっと取り出した。



「――――――――――――?!きゃああああああああっ!!!!」

その瞬間悲鳴が生まれる。家族は青ざめた――‐。
それもその筈、目の前にピカピカと光った “銃”が掲げられているのだから。
・・・・・芽衣子がコートの内から取り出したもの其れは小型ライフル銃。

―――――――――――――――凄い。皆が私に注目している。皆が私を見ている。
―――――――嗚呼・・・皆私を無視していたのは、私がいままで“見えなかった”からなのね。
――――――――でも大丈夫、これからは皆私を無視したりしない。だって、見えているから!

芽衣子はカチャリと銃をセットし、撃つ準備をする。

「――――――っ!?芽衣子!やめなさい!!」

父は震えた声で「ヤメロ!」と何度も芽衣子に叫んで止めた。

「――――――――――芽衣子やめなさい!芽衣子やめるんだ、やめろ!!」

―――――――――――何処からかパチン!と指を誰かが鳴らす。音が響く。
――――頭の中で低い男の声がする。
その声の直後・・・芽衣子は父をドンッ!!と一発撃ち殺した。

悲鳴と紫煙が上がる―――― ―。

「―――――――――――――――――私は見えている。皆は私を愛している、私も皆を愛している。
なのに、どうしてだろう。愛しているのに―― −“息苦しい”」

そう言葉した後・・・芽衣子は、ドン!ドン!ドン!ドン!!と残りの家族を撃ち殺した。
その後、芽衣子はボトッと銃をその場に捨てると、シュルシュルと巻いていた顔の包帯を解き、手に巻き取る。
「―――ああ、これでもう私はまた“見えなくなっちゃった”」と呟く。
そして家中の窓を締めると、キッチンへ行きガス線を開いた―― −。






***







「―――――え〜と、×▽#団地の三丁目・・・3−27って、あっ、ここか」

孔蛾は、とある家の玄関前にいる。その後ろには春日子も。
二人は昨日孔蛾が取った注文の肉を届けに来たのだ。

「―――なんで、ボクが孔蛾さんの宅配に付き添わなくっちゃいけないんですか!」と春日子はご覧の通りご機嫌斜め。
されど孔蛾は「いいじゃん、帰りそこ(商店街)で丁度会ったんだから!ついでだよ、ついで!」と嬉しそうである。

「――――・・・何がついでですか!さっさと用を済ましたら如何ですか」

相変わらず浮つく態度の孔蛾に春日子はそう言って責める。
孔蛾は仕方なしに「―――あーん、分かってるよ!ハイハイ、届けますよ届けます!」と言う。
春日子は「―――――じゃ、僕はここで待っていますからね」と、出てきた家の人に見られないようにと、
ずいぶん遠く後ろに下がった。律儀に下がりすぎ。家からずいぶん遠く離れている・・・。

「――オイ!そんなに下がってどうする・・・」

――――――俺を拒否したいのか?と孔蛾は腹立ったが、無視して仕事に取り掛かる。
孔蛾はピンポーン♪とチャイムを鳴らした。

―――――しかし家の人は出てこない。

「―――あれ?鳴らしたのになぁ・・・」

孔蛾はもう一度ピンポーン♪とチャイムを鳴らす。だが・・・一向に家の人は出てこない。

「―――?」
「――――?」

遠く離れているも、二人は顔を見合わせて不思議がる。
春日子は「―――もう一度、もう一度チャレンジしてみましょう」と聞こえるように大きな声で孔蛾に言う。
孔蛾は「ああ、うん・・・・」と返事し、またチャイム鳴らす。――――――――――反応なし。
その後、めげずに何度もピンポーン♪ピンポーン♪ピンポーン♪と鳴らすもまったく反応はなく、
暫く待ってもみたがやっぱり誰も出てこない。最後はチャイムが壊れているかと思いトントン!と戸を叩いて「すみませーん!宅配に来ました岡松精肉店でーす!!」と名乗ってみたがそれも無駄だった。

「・・・・・お留守か?」

そう思うも、いや・・・なんか、そんなはずは・・とも思う。

孔蛾は何気にドアノブに手をかけ、ガチャガチャとやってみた・・・すると―‐ガチャと開いてしまった。
「―――――――え゛っ?」と思わず驚く孔蛾。孔蛾は後の春日子に「・・・如何し様?」と聞く。
春日子も如何し様といった感じでいるが・・・「と、兎に角・・・開いたんだからお肉、届けましょう」と言った。
孔蛾は「――あっ、うん。うん、それもそうだな・・・」と言って、肉を届ける為にドアを開け玄関の中へと入っていく。

「――――――――――失礼しまーす!岡松精肉店−っ?!!えっ!!うぁぁぁああっ!!!」

―――――ドサッ!!

――――孔蛾は中へ入った瞬間、悲鳴を上げた・・・そして手に持っている肉を落としてしまった。

「――――――――っ、しっ、ししししししっ、死体ィ!!?死体いいいいっ!!!!」

――――――――そう、孔蛾は見てしまった。玄関の廊下で死んでいる芽衣子の弟・・・和樹を。

胸に包丁を刺したままの・・・和樹を。
孔蛾は震え上がる――― ―しかし、この家の異変はそれだけでは無い。

「―――――っ?!!くっ、くせぇ!ガスくせぇ!!ゲホッ・・・」

―――――――――――――――――――――――家中ガスの臭いに満ちている。

「―――ゲホッ!ゴホッ!!コホッ!ゴホッ!!ゴホッ!!ゴホッ!!」

最初気付かず、思いっきりガスを吸い込んでしまった孔蛾は咽、苦しそうに喉を押さえた。
苦しくって苦しくって涙も出てくる。

「―――――だれ?誰かいるの?」

リビングから芽衣子が出てくる――― ―。

「――――――――?!ゲホッ!ゴホッ!!コホッ・・・おっ、女の子・・・」

孔蛾は涙目ながらも芽衣子の存在を確認する。
芽衣子は「―――――――えぇっ!?私が見えるの?貴方」と驚き・・・その後、
「――あっ、そっか・・・顔はあれだけど、コートはまだ脱いでいないんだ。だから、この人は私が見えるんだ」と一人納得する。
芽衣子は孔蛾に「貴方、お肉屋さんでしょ?」と言うと、
孔蛾は「―――――?!ゲホッ!きっ、君は・・コホッ!いえ、家の人?」と芽衣子に尋ねる。
芽衣子は「――――ええ、そうよ。お肉屋さん」と答えた。
孔蛾は出せる精一杯の声で彼女に「――――けっ・・・警察、警察を」と言う。
けれど・・・・芽衣子は「警察?無駄よ、そんなの呼んでも。だって、私・・・私は“透明人間”だもの」と言う。



「――――――――――――はぁ?透明人間・・・・」

――――――――――――――――何を言っているんだ・・・この人。
―――――――――――もしや・・・この床に転がっている死体は・・・彼女が。

孔蛾は気付く。この女は“狂っている”と、そして何を尋ねても無駄だと。
「――透明人間。そう誰も見えない。もう誰も見えない。誰も気付かない。“孤独な透明人間” 。
嗚呼―青白い炎に包まれて…その身が業火に燃ゆる・・・・・」と呟き、懐からシルバーの“ライター”を取り出す。
その瞬間孔蛾はハッとする。
―――――――――――――充満したガス・・・ライター・・・火が点けば。

「―――――――――――――――――――――宅配ご苦労様」

―――――――――ヤバイ!殺されるっ!!!!!
孔蛾は血相を変え、瞬時にドアに手をかけた―――その時、芽衣子がカパッとライターの蓋を開ける。

「受け取って、これが御代よ―― −」

そして、カチャと火を点ける!

ド―――――――――――――ン!!!!!!!!!という爆発音が家に響く。

「―――――イャアアアアアアアッ!!!」

外では春日子の悲鳴が響く。
―――――――――――――――――家の中に孔蛾さんがいるぅぅうっ!!居るのに!!

春日子は「――――――――あながさぁあああんっ!!!
孔蛾さーん!イヤアアアアアッ!!孔蛾さんが死んじゃったぁあああっ!!」と泣き叫ぶ。
すると、突然ガバッ!と後ろから誰かに抱きつかれる。

「――!?」

春日子は驚き、直ぐさま後ろを振り向く。すると、そこには見慣れた顔の男が・・・。

「―――――っ?!あっ、孔蛾さん!!」
「――――――オイ!死んでねぇーよ!!俺は死んでねぇ!勝手に人を殺すなっ!」



―――――孔蛾だ。孔蛾が春日子を抱きしめていた。

「――――いっ、生きているっ!孔蛾さん生きてるぅぅっ!!よかった!ホント良かった!」

春日子は緊張の糸が切れて、崩れそうになる・・・。そこを孔蛾がやっぱり支える。

「――――なっ、なんで生きているんですか?
もしかして・・・死んだことに気付かないだけで実は幽霊?」
「――――――馬鹿!だから俺を殺すなっ!」
「――えっ?じゃあ・・なんで?」
「―――――間一髪で脱出したの!奇跡の生還!!」

爆発音がしていた時、孔蛾は既に家の外へ出ていたのだ・・・・。
―――――助かっていた。ギリギリセーフ!!しかも末恐ろしい事に無傷!

「―――でもボク、家から出てくる孔蛾さんを見てない」
「――その時、お前は目を瞑っていたんだろうが!爆発に驚いて!!」
「――――あっ!そうだ・・・ボク吃驚して目を瞑っていました」
「ほ〜ら」
「・・・・・ごめんなさい」

しょげて謝る春日子を孔蛾は力一杯抱きしめて、耳元でこう囁いた。
「これからもずっと君だけを抱きしめる」と。
・・・その言葉は、母に抱きしめてもらえなかった彼女に彼が言った言葉。
それを聞いた彼女は、つ――ぅと一筋の涙を流した。

―――――――ド―――ン!!!!!と家が二次爆発する。
急いで二人は安全な場所に避難した―― −。






***







それから三日後、

「・・・・・・如何して、如何してあの家、爆発しちゃったんですか?」

春日子はテレビから流れるニュースを見ながら、弱々しくそう呟く。
――――燃え盛る家が画面に映っていた。芽衣子の家が。
二人が遭遇した事件は・・・引っ切り無しにテレビの中で流れていた。
それを二人は複雑な気持ちで見て聞いている。特に孔蛾はより一層。
――――――――――引きこもりの長女が一家殺害、その後家に火を点ける。
事件の内容は救いようの無い、切ないものだった。

「―――各々の部品が少しずつズレて、歪んでしまったんだ。
だから・・・・“歯車が噛み合わなくなり、大事な何かを維持出来なくなった”」

春日子の隣で孔蛾がそう冷静に答える。

「――――――――そうなんですか・・・・凄く、凄く悲しいです」
「――ああ、悲しくって馬鹿な奴らだ!“何もかも見ている積りで、本当は何も見えていなかった!
目の前に見なきゃいけないそれはあるのに・・・呆れるほど上っ面ばかり見ていて!!”」

―――――――――――――――――画面の中でも、愚かな歯車で出来た家族の箱が燃えてゆく。
―――――もちろん、その箱の中で透明人間も燃えていた。
――孤独な透明人間が。



―――――――――――もう、燃えた物は“二度と元には戻らない。”


―――二度と・・・・。



やるせない気持ちでいっぱいの孔蛾は「―――パチンコに行く」と言って家を出て行った。


「・・・・・十七歳少女一家殺害事件、とどまらぬ少年犯罪。家庭崩壊の危機・・・」

道でクシャクシャな新聞の切れ端を拾い、それを何気に読む。
――― ―偶然にもその切れ端には芽衣子が起こした事件が書かれていた。
新聞もこの事件を当然取り上げている。



「――――――家庭崩壊の危機・・・か」

そう呟くと、孔蛾は拾った切れ端をクシャと丸め潰しポケットの中に押し込んだ。

――――――――――俺も哀れだな、“何時も巻き添え食らっている”なんて。

「――――――――そうだな、何時もお前は巻き添え食らっている」
「――――っ?」

聞き覚えのある声が天から降ってくる――−。
孔蛾はパッと頭上を見上げた。

「――――――魔王!」

魔王だ。魔王が電柱の天辺に立っている。
※危険ですので、電柱には登らないでください。
真似しないと思いますが、絶対に真似しないでください。責任取れません。

「・・・・・やぁ、またまたまたま〜たまた会ったね、テセウス君」

魔王はお馴染みの挨拶をするとニィタァと此方に不気味に笑った。

「―――今、お前・・・俺の心を読んだのか!?」

孔蛾がそう訊ねると、魔王はさらりと「嗚呼そうさ」と答える。
「悪趣味?」と更に訊ねると「―――うん、悪魔だからね」と答えた。

「―――――――なんでまた、お前がこんな所にいるんだ?」
「――――連続で質問?君、質問好きだねぇ〜子供みたい」
「――――――答えろ!」
「――――散歩さ!散歩!ここも僕の散歩コースなの!」


面倒臭そうにそう答えると魔王は顔を背け、遠くにある全焼した家を見つける。それを指差す。
そして「―――あ〜あっ、あそこの家燃えちゃったんだよ!
知ってる?お肉焼くはずが、家ごと焼いちゃった☆しかも丸焦げぇ〜アハハハハハッ!!」と孔蛾に笑って言った。

「―――――!?おっ、お前!!」

勘の鋭い孔蛾は瞬時に気付いた・・・・・魔王は孔蛾が巻き添え食らった事件の家の事を言っていると、
そして確実にその事件に魔王が関わっているとも。

「―――――――――――お前また何かやったんだナァ!!この悪魔!」

凄い剣幕で孔蛾がそう責めると、魔王は顔色一つ変えずに「そうさ悪魔だよ、それが如何した?何か問題でも?」と言う。
そして、かつて無いほどこう熱弁した、「――――言っておくけど僕は今回そんなに悪い事はしちゃいないよ。
ただ僕は勇気づけただけ、“躊躇わず撃っちゃえよ!”って。ただそれだけ。
――あの女は何時も“孤独”だった・・・・・だが“孤独過ぎた”。
耐えられなかったのさ。他の誰からは愚か、実の家族にすら嫌われ忘れられる事に。
見られる事も苦痛だが見られない事も苦痛、その見られない事が長く続きすぎてとっくに精神が病んで麻痺したんだよ、彼女。
彼女は“自分が透明人間だと思い込んでしまった。”
そして一番愛して気付いてほしかった家族は、誰一人として彼女のそのSOSに気付かなかった。
そればかりか彼女を捨てよう捨てようとしていた。だから罰が下ったまでさっ!
いいか、聞け!もう奇麗事は言わせないぞ!!人は “孤独な生き物”だ、何故か分かるかね?
“愚かだから”だよ!!!愚か!!結局愚かだからなんだよ!
“傷つきたくない傷つけたくない、触れられたくない、
でも捨てられたくない、愛されたい!そんな事をしているから”孤独なのさ!
アフリカのサバンナの動物なんざ強いよ、同じ孤独でも。
彼らは何時だって独りになる・・・食うか食われるかの世界は何時も独り。
いや・・・生まれた時から孤独な者は“孤独という概念がない”のかもしれない。
――――孤独なんて所詮、人間が作った言葉の一つであり状況の一つさ・・・・
現にあの透明人間は家族に“居場所を奪われる状況になり、孤独になった”」と。
すると孔蛾は何時ものように激しく反論する事もなく「―――――――嗚呼、そうだな。お前の言うとおりだよ。
人間が孤独なのは愚かだから・・・俺もそう思う」とあっさり魔王の言葉を認めた。


「―――――えっ?!」


何時もと違う反応に魔王は思わず拍子抜けしてしまった。
―――――――けちょんけちょんに叩きのめしてやろうと思ったのに!と正直がっかりする。
だが、孔蛾は真剣な顔をして魔王にこう訊いた「―――けれど、けれど“その透明人間のように本当に居場所の無い人間は如何すればいい?”そして、“何処に行けばいいんだ――‐?”」と。
すると魔王は「――――――――居場所なんて自分で皆見つけるんだ。探しても探しても見つからなかったら見つかるまで探せばいい。それでも駄目なら・・・“居場所なんて作ればいい”」と諭した。
ついでに「これ、何時もなら君が言うべきセリフだよ?」と付け加えて。
―――たしかに、今の魔王のセリフは孔蛾の言うべきセリフだ。
しかも“魔王らしくないセリフ”でもあった。
如何してだろうか?そんな事を言い出したこの悪魔が、ただ・・・どことなく“疲れて弱っている”様に見えた。

「――――――――――では、居場所を作る力も無い者は如何するんだ!?
本当に誰からも愛されない、誰からも必要とされない、強くもなれない弱い奴は如何すればいいんだ!もう一度訊く、
何処へ行けばいいんだっ!!何処へ行けばそいつ等の居場所が見つかる?」

―――――――――孔蛾は縋る様に叫んだ。

「―――――知らないよ!!!そんな事は知らないよ。
一言断っておく“俺はお前と同じ無知なる者だ!!”ただ・・・言うなれば・・・
“何処へ行くかではなく、何処を彷徨うか”だ・・・・行き場なんて本当は何処にも誰にもない。 ただ彷徨うだけだ・・・・」

―――――――――――――魔王は突き放すようにそう答えた。

そして「―――あとは自分で考えな!」と言う。
―――――――何処からともなく強い風かブァーン!!と吹き、魔王を煽る。
その瞬間また彼は何処かに消えてしまった。

「・・・・・・・彷徨うだけ・・・か」

魔王がいなくなった電柱を見つめ孔蛾が呟く。
―――――――自分に居場所が無いわけではない。
――――無かったけれど、見つけた。手に入れた。それも強引に。
――――――――――――――ただ・・・怖くなったのだ。“失う事が”。
―――――――――“失わない自信があっても”。

ねぇ、知ってる?不思議だね、
人は欲しい物が手に入ると、失くさないかとかえって何時も不安になる。

それが・・・大切な物であればあるほど。




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