「――――みんなぁ〜もう直ぐ焼肉パーティー始めるわよ♪さぁ、準備準備!準備して!」
パートから帰ってきた芽衣子の母が嬉しそうにはしゃぐ。
芽衣子の兄弟達も「―――わ〜いっ!」「肉だ!肉!」「祭りダァ!」とか言って騒いでいる。
父も黙って嬉しそうに微笑んでいる。
―――一家の幸せな光景。だがそこに・・・芽衣子自身の姿はない。
――――ピンポーン♪
玄関のチャイムが鳴る。
「――――あっ、誰か来たみたい」
「―――ああ、きっと肉屋さんよ。あれ?でもちょっと来るのが早いわねぇ・・・。
まぁ、いいわ、和樹ちょっと出て頂戴」
母は芽衣子の末の弟の和樹にそう言い付けると、和樹は「は〜い」と返事して玄関へ向かった。
――――――そして、ためらう事もせずドアを開けた次の瞬間、
「――――っ?!」
―――――――――――――――――――――――――ドス!と腹部を包丁で刺された。
――――――ゴポッ!と和樹は口から血を吹いて即死した。
「・・・・・・・和樹、久しぶりだったね」
刺した相手は――― −芽衣子。久々の外出から帰ってきた芽衣子だった。
・・・・・・彼女は商店街をふらついていた姿のまま。
冷たい床の上で動かなくなった弟をほんの暫く見つめた後、
包丁をそのまま刺しっぱなしにして。芽衣子は・・・ヒタ、ヒタ、とリビングへ向かう。
人の気配を感じた母が「―――和樹お肉とってくれたぁ?」と声を響かせる。
―――ガラッと戸が開き、人がリビングへ入ってくる。
残念ながらその入ってきた人物は和樹ではなく、別の人物・・・娘の芽衣子。
芽衣子は「―――――――お肉?お肉はまだだよ」と和樹の声真似をし、ニッと卑しく微笑んだ。
「――――??!芽衣子!!!」
母が驚く―――−。兄弟たちも。そして父も。
父は「――――めっ、芽衣子!お前、おま、お前なんだ、なんなんだ一体その格好は!?」と
包帯だらけのミイラみたいな芽衣子の姿に反応した。
―――――――――――――お父さんが五年ぶりに私に話しかけてくれた。
――――うああああっ・・・なつかしぃなぁ〜。懐かしいよ、この感覚。
――――――――――――――やっぱり見えているからなんだ。
――――包帯巻いてコート着ているから私が皆見えているんだ・・・・うれしい。
けれども芽衣子は父の質問に答えることをせず、そっと右手をコートの内に入れる。
―――――そして、その内からある物をパっと取り出した。
「――――――――――――?!きゃああああああああっ!!!!」
その瞬間悲鳴が生まれる。家族は青ざめた――‐。
それもその筈、目の前にピカピカと光った “銃”が掲げられているのだから。
・・・・・芽衣子がコートの内から取り出したもの其れは小型ライフル銃。
―――――――――――――――凄い。皆が私に注目している。皆が私を見ている。
―――――――嗚呼・・・皆私を無視していたのは、私がいままで“見えなかった”からなのね。
――――――――でも大丈夫、これからは皆私を無視したりしない。だって、見えているから!
芽衣子はカチャリと銃をセットし、撃つ準備をする。
「――――――っ!?芽衣子!やめなさい!!」
父は震えた声で「ヤメロ!」と何度も芽衣子に叫んで止めた。
「――――――――――芽衣子やめなさい!芽衣子やめるんだ、やめろ!!」
―――――――――――何処からかパチン!と指を誰かが鳴らす。音が響く。
――――頭の中で低い男の声がする。
その声の直後・・・芽衣子は父をドンッ!!と一発撃ち殺した。
悲鳴と紫煙が上がる―――― ―。
「―――――――――――――――――私は見えている。皆は私を愛している、私も皆を愛している。
なのに、どうしてだろう。愛しているのに―― −“息苦しい”」
そう言葉した後・・・芽衣子は、ドン!ドン!ドン!ドン!!と残りの家族を撃ち殺した。
その後、芽衣子はボトッと銃をその場に捨てると、シュルシュルと巻いていた顔の包帯を解き、手に巻き取る。
「―――ああ、これでもう私はまた“見えなくなっちゃった”」と呟く。
そして家中の窓を締めると、キッチンへ行きガス線を開いた―― −。
「―――――え〜と、×▽#団地の三丁目・・・3−27って、あっ、ここか」
孔蛾は、とある家の玄関前にいる。その後ろには春日子も。
二人は昨日孔蛾が取った注文の肉を届けに来たのだ。
「―――なんで、ボクが孔蛾さんの宅配に付き添わなくっちゃいけないんですか!」と春日子はご覧の通りご機嫌斜め。
されど孔蛾は「いいじゃん、帰りそこ(商店街)で丁度会ったんだから!ついでだよ、ついで!」と嬉しそうである。
「――――・・・何がついでですか!さっさと用を済ましたら如何ですか」
相変わらず浮つく態度の孔蛾に春日子はそう言って責める。
孔蛾は仕方なしに「―――あーん、分かってるよ!ハイハイ、届けますよ届けます!」と言う。
春日子は「―――――じゃ、僕はここで待っていますからね」と、出てきた家の人に見られないようにと、
ずいぶん遠く後ろに下がった。律儀に下がりすぎ。家からずいぶん遠く離れている・・・。
「――オイ!そんなに下がってどうする・・・」
――――――俺を拒否したいのか?と孔蛾は腹立ったが、無視して仕事に取り掛かる。
孔蛾はピンポーン♪とチャイムを鳴らした。
―――――しかし家の人は出てこない。
「―――あれ?鳴らしたのになぁ・・・」
孔蛾はもう一度ピンポーン♪とチャイムを鳴らす。だが・・・一向に家の人は出てこない。
「―――?」
「――――?」
遠く離れているも、二人は顔を見合わせて不思議がる。
春日子は「―――もう一度、もう一度チャレンジしてみましょう」と聞こえるように大きな声で孔蛾に言う。
孔蛾は「ああ、うん・・・・」と返事し、またチャイム鳴らす。――――――――――反応なし。
その後、めげずに何度もピンポーン♪ピンポーン♪ピンポーン♪と鳴らすもまったく反応はなく、
暫く待ってもみたがやっぱり誰も出てこない。最後はチャイムが壊れているかと思いトントン!と戸を叩いて「すみませーん!宅配に来ました岡松精肉店でーす!!」と名乗ってみたがそれも無駄だった。
「・・・・・お留守か?」
そう思うも、いや・・・なんか、そんなはずは・・とも思う。
孔蛾は何気にドアノブに手をかけ、ガチャガチャとやってみた・・・すると―‐ガチャと開いてしまった。
「―――――――え゛っ?」と思わず驚く孔蛾。孔蛾は後の春日子に「・・・如何し様?」と聞く。
春日子も如何し様といった感じでいるが・・・「と、兎に角・・・開いたんだからお肉、届けましょう」と言った。
孔蛾は「――あっ、うん。うん、それもそうだな・・・」と言って、肉を届ける為にドアを開け玄関の中へと入っていく。
「――――――――――失礼しまーす!岡松精肉店−っ?!!えっ!!うぁぁぁああっ!!!」
―――――ドサッ!!
――――孔蛾は中へ入った瞬間、悲鳴を上げた・・・そして手に持っている肉を落としてしまった。
「――――――――っ、しっ、ししししししっ、死体ィ!!?死体いいいいっ!!!!」
――――――――そう、孔蛾は見てしまった。玄関の廊下で死んでいる芽衣子の弟・・・和樹を。
胸に包丁を刺したままの・・・和樹を。
孔蛾は震え上がる――― ―しかし、この家の異変はそれだけでは無い。
「―――――っ?!!くっ、くせぇ!ガスくせぇ!!ゲホッ・・・」
―――――――――――――――――――――――家中ガスの臭いに満ちている。
「―――ゲホッ!ゴホッ!!コホッ!ゴホッ!!ゴホッ!!ゴホッ!!」
最初気付かず、思いっきりガスを吸い込んでしまった孔蛾は咽、苦しそうに喉を押さえた。
苦しくって苦しくって涙も出てくる。
「―――――だれ?誰かいるの?」
リビングから芽衣子が出てくる――― ―。
「――――――――?!ゲホッ!ゴホッ!!コホッ・・・おっ、女の子・・・」
孔蛾は涙目ながらも芽衣子の存在を確認する。
芽衣子は「―――――――えぇっ!?私が見えるの?貴方」と驚き・・・その後、
「――あっ、そっか・・・顔はあれだけど、コートはまだ脱いでいないんだ。だから、この人は私が見えるんだ」と一人納得する。
芽衣子は孔蛾に「貴方、お肉屋さんでしょ?」と言うと、
孔蛾は「―――――?!ゲホッ!きっ、君は・・コホッ!いえ、家の人?」と芽衣子に尋ねる。
芽衣子は「――――ええ、そうよ。お肉屋さん」と答えた。
孔蛾は出せる精一杯の声で彼女に「――――けっ・・・警察、警察を」と言う。
けれど・・・・芽衣子は「警察?無駄よ、そんなの呼んでも。だって、私・・・私は“透明人間”だもの」と言う。
「――――――――――――はぁ?透明人間・・・・」
――――――――――――――――何を言っているんだ・・・この人。
―――――――――――もしや・・・この床に転がっている死体は・・・彼女が。
孔蛾は気付く。この女は“狂っている”と、そして何を尋ねても無駄だと。
「――透明人間。そう誰も見えない。もう誰も見えない。誰も気付かない。“孤独な透明人間” 。
嗚呼―青白い炎に包まれて…その身が業火に燃ゆる・・・・・」と呟き、懐からシルバーの“ライター”を取り出す。
その瞬間孔蛾はハッとする。
―――――――――――――充満したガス・・・ライター・・・火が点けば。
「―――――――――――――――――――――宅配ご苦労様」
―――――――――ヤバイ!殺されるっ!!!!!
孔蛾は血相を変え、瞬時にドアに手をかけた―――その時、芽衣子がカパッとライターの蓋を開ける。
「受け取って、これが御代よ―― −」
そして、カチャと火を点ける!
ド―――――――――――――ン!!!!!!!!!という爆発音が家に響く。
「―――――イャアアアアアアアッ!!!」
外では春日子の悲鳴が響く。
―――――――――――――――――家の中に孔蛾さんがいるぅぅうっ!!居るのに!!
春日子は「――――――――あながさぁあああんっ!!!
孔蛾さーん!イヤアアアアアッ!!孔蛾さんが死んじゃったぁあああっ!!」と泣き叫ぶ。
すると、突然ガバッ!と後ろから誰かに抱きつかれる。
「――!?」
春日子は驚き、直ぐさま後ろを振り向く。すると、そこには見慣れた顔の男が・・・。
「―――――っ?!あっ、孔蛾さん!!」
「――――――オイ!死んでねぇーよ!!俺は死んでねぇ!勝手に人を殺すなっ!」
―――――孔蛾だ。孔蛾が春日子を抱きしめていた。
「――――いっ、生きているっ!孔蛾さん生きてるぅぅっ!!よかった!ホント良かった!」
春日子は緊張の糸が切れて、崩れそうになる・・・。そこを孔蛾がやっぱり支える。
「――――なっ、なんで生きているんですか?
もしかして・・・死んだことに気付かないだけで実は幽霊?」
「――――――馬鹿!だから俺を殺すなっ!」
「――えっ?じゃあ・・なんで?」
「―――――間一髪で脱出したの!奇跡の生還!!」
爆発音がしていた時、孔蛾は既に家の外へ出ていたのだ・・・・。
―――――助かっていた。ギリギリセーフ!!しかも末恐ろしい事に無傷!
「―――でもボク、家から出てくる孔蛾さんを見てない」
「――その時、お前は目を瞑っていたんだろうが!爆発に驚いて!!」
「――――あっ!そうだ・・・ボク吃驚して目を瞑っていました」
「ほ〜ら」
「・・・・・ごめんなさい」
しょげて謝る春日子を孔蛾は力一杯抱きしめて、耳元でこう囁いた。
「これからもずっと君だけを抱きしめる」と。
・・・その言葉は、母に抱きしめてもらえなかった彼女に彼が言った言葉。
それを聞いた彼女は、つ――ぅと一筋の涙を流した。
―――――――ド―――ン!!!!!と家が二次爆発する。
急いで二人は安全な場所に避難した―― −。