前頭連合野/46野のORIGINAL NOVEL

※ 無断転載等、持ち帰り等はしないで下さい。
※著作権は前頭連合野/46野の管理人、怪物の顔(鮭)にあります。





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「―――― −ッあっ・・・まぶしっ」

孔蛾が眼を覚ました頃、空はもう朝ぼらけ。

「・・・・」

目を擦りながらゆっくりと体を起こす。

―――― −背中いてぇ。

硬い玄関の床に蹲って寝ていたため背中が痛い・・・。

「・・・・・俺なんで玄関で・・・あっ!顔がぁ!顔が乾いた涙でカピカピニッっ!昨日そうか・・・そうだぁ」

――― −俺給料日だったからDVD借りて寿司食って酒飲んで酔っ払って・・・その帰り変な易者に会って家に帰って・・・それから・・・それから、春日子に春日子・・・・。

孔蛾は昨日の出来事を思い出す。そして春日子に言われたことを再び回らす。

―――僕は絶対に“孔蛾さんとはしたくない”です!!嫌いです!人間としても異性としても!
するなら“死んだほうがまし”です!!

「・・・・ぐすっ」

そしたら涙が目から溢れてきた・・・・・。

「―――――― −ちょっと!何アンタ朝から玄関でメソメソ泣いてんのよ!」

――――――――― −ドサッ!!

「――― −!?」

カヨ子の怒鳴り声とホウキと塵取りが降ってくる。
「・・・・なっ、何?」と間抜けな顔して聞くと「何?じゃないわよ!昨日、散々言ったじゃない、
明日の日曜日は商店街付近の清掃日だからねって!昨日の今日でもう忘れてる、ホント駄目な子なんだからまったく!」と返ってくる。

――――― −あっ、そうだ・・・今日清掃日だ。ヤベ!すっかり忘れていた。

「・・・・清掃って、一体何処やるんだよ?」

孔蛾は面倒臭そうにホウキと塵取りを拾い、立ち上がる。

「―― −傘地蔵公園、もう春日子ちゃんと頭が気の毒な子(水島)は先に行ったよ」
「・・・頭が気の毒な子って、水島?」

―――――水島・・・確かにあいつは頭が気の毒だっ!

「そーだよ!いいから早く行きな!!」
「・・・はいはい」

返事二つして孔蛾は家を出て行った。






***









「――――――― −何やってんだお前ら」

公園に着くなり孔蛾は呆れている。
早朝の公園は誰もいないので掃除をしやすい。なのに、一向に公園の清掃は進んでいなかった。
春日子は同じ所を何度も掃除し、水島は放棄してブランコで一人遊んでいる。

なんじゃこれ。

「・・・あっ、マコりん」

孔蛾に気づくと水島はブランコを扱ぐのを止め駆け寄ってくる。
一方春日子は地面を掃くのに夢中で全然気づかない。

「―― −水島・・・お前は、小学生かっ!」

――――――― −ドガッ!!

「―― −カハッ!」

寄った瞬間水島は孔蛾に膝蹴りされる。
その瞬間、立っている感覚を奪われ猛烈な痛みが足に走った。

「いっ――――― −たあああっ!!何すんのさっ!マコりん!」

水島は衝撃で震える足を無理やり押さえながら抗議した。

「何すんのさじゃねぇーよ、お前さぼって遊んでんじゃねぇーか」

呆れた顔で孔蛾がそう言うと、水島は「いいんじゃん別にちょっとぐらい!元々ここ綺麗じゃん。
それより・・・・ほら」と苦い顔して春日子を指差す。

「・・・・あいつがどうした?」
「・・・なんかずっと同じところ掃いているんだよね、あれじゃ絶対先進まないって」
「・・・・・・・」

―― −たくっ。

「持ってろ・・・」
「――えっ?」

孔蛾は水島に自分の持っている道具を押し付けると春日子の傍へと向かう。

「――― −オイ!春日子!お前効率悪いぞ、同じところを何度も掃いて」
「―― えっ!なぁ!孔蛾さん?」

何時の間に! といった感じで春日子は驚く。

「・・・なんだよ、その反応」
「何しに来たんですか?」

睨むような目で春日子が孔蛾を見る。
その態度に「何しにって、掃除しに来たに決まってるだろう!!」と怒鳴る孔蛾。
「掃除?道具も持っていないのに?」と怪しむと「うるせぇ、水島に預けたの!」と返す。

「・・・・・・・水島さんに?」

春日子は後ろ斜めを振り向く。
水島は孔蛾から預かった道具をほったらかして、またブランコで遊んでいる。

「・・・・捨てられてますよ」
「――!ちょっ!なあ、みずしまぁぁぁああっコラ!!」

孔蛾は拳を掲げながら水島のもとへ走っていく―― ―その時、同時に公園の入り口からも人が走ってくる。

「―― −!!!?」

――― −あれ?

女。
女が走ってくる。
青白い細い手にはげかけの赤いマニキュア、泥だらけのワインレッド色のワンピースを着た女。
手には青々と茂ったバジルの鉢を抱きかかえ、悲鳴と奇声の入り混じった叫びを連発する。
――― ―見覚えがある姿。

「――― −薔薇子ぉおおおおっ!!!まてぇ―― −まつんだぁああっ!!」
「―――――― −薔薇子!薔薇子とまれえぇぇっ!!とまるんだぁ!!!」

後ろから女を追って二人の男が駆けてくる。
中肉中背で互いがそっくりな二人が――― −。



―― −この姿にも見覚えが・・・。

そうだ、間違えない・・・彼らは双子の一郎次郎兄弟だ!そして逃げ回る女は妹の薔薇子!

「・・・・」
「――なっ!?なんだぁ!なんだなんだ??」
「――― −いっ??」

その光景に孔蛾の足がピタリと止まったのはもちろん。
水島の扱ぐブランコも止まった。そして地面を掃く春日子の手も。

「――――― −きょおおおおおおおおぇぇぇっきょぎゃ―――っ!!!」

兄達に追いつかれまいと一心不乱に走り回る女・・・薔薇子。
その薔薇の姿に孔蛾達三人は釘付けになっていた。

「―――――――― ―薔薇子ぉ!!!」

―――――――― ガッ!!

「――――ぎょ!!ぎゃあッ!!ぎゃああああっ!!!」

一郎がとうとう薔薇子を取り押さえる。

「――次郎!押さえるの手伝えっ!!」
「―――わかってる!」

逃れようと暴れまわる薔薇子を一郎と次郎は精一杯の力で止める。

「へへへへっ!やった!やったと捕まえたぞ!!薔薇子!」
「―――さぁ!今日こそはその抱えている鉢とお別れだからな!
もう何度も何度も何度も同じ事を繰り返すのはおしまいだ!!
二度と拾ってこれないように工場の焼却炉で燃やしてやるっ!!」
「ほんと苦労したぜぇ!“どんなに俺達が分からない様に分からない所に鉢を捨てても、
必ずお前は見つけて拾ってくる!!”とんでもない妹だ!不思議でかなわん!」

一郎と次郎は、確りと薔薇子の胴を予め持ってきた長いロープで締め上げる。
そして・・・・縛り余ったロープの端を一郎が握り締める。
すると、たちまち薔薇子はリードを付けられた犬になった。

――― ―自由を失った薔薇子・・・御蔭で女は、追い詰められ。

「ギャ!ギャ――――――――――――― アッ!!あっ!あっ!ああああああっ!」

叫喚する。

「・・・・・」

それを目にして孔蛾は途轍もなく不快を感じた。

一体、彼女が何をしたというのだろうか?
ただ鉢をとられまいと逃げ惑っていただけじゃないか。
いいじゃないか・・・鉢一つぐらい。
何でこうも無理やりな事をする?なんぼ気がふれているからって!
いくらなんでも可哀想だ。縄で縛るなんて!!



「――――――― ―ちょっと!!何やっているんですかぁ!?」

そう叫んだ瞬間、孔蛾はもう彼らの元へ駆け寄っていた。
そして怖い顔して一郎の腕を掴み、グギィ!と音立てて天に捻り上げていた。

「――!?いっ!イダ!痛いあああああっ!!!」

孔蛾の怪力的な力は相手に相当のダメージを食らわす。
一郎は一瞬で痛みを叫び、その場に蹲った。そのひるんだ隙に薔薇子が逃げる。
「―――!?兄さん!!」と次郎が焦ると「ロープ、追え!」と一郎が一言。
次郎はハッとし、全速力で逃げ走る薔薇子を追う。
孔蛾は「しまった!」と思ったが、一郎一人をおさえるのが限度・・・。
そのかいあってか、薔薇子が疲れて弱っているのか、
次郎は薔薇子を簡単に捕まえることが出来た。

「――――はぁ、はぁ・・はぁ・・・ぜぇ・・げへへっ!にーちゃんの言うこと聞いてここで待てしてなっ!!」

「ギャ!ギャ!ギャ――――――アッ!!」

次郎はロープを引っ張る、必然的に薔薇子の体が引っ張られる。

「―――ほらよっ!」

―――薔薇子はジャングルジムに縛られ巻きつけられた。

「さて・・・」

――――――――やっとこさこれで落ち着いた。

そう次郎は一安心して、薔薇子から鉢を取り上げようとした瞬間・・・・背後に気配を感じる。
「――誰だっ!?」と叫んで後ろを振り向いた瞬間、ドガッ!!!と頭のてっぺんをホウキの柄で打たれた。
次郎は「!――――ヴッ!!」と呻くと意識を失ってその場に――ドサッ!!と倒れてしまった。

「――――――‐天罰でおじゃる・・・」

そして、その場には逆さのホウキを手に、仁王立ちする水島。

―― −水島・・・水島だ。水島が次郎をホウキの柄で打ったのだ。

「――――次郎!」
「――― −おっと!お前は動くなっ!!」
「――ひっ!」

一郎は次郎が倒れたことで取り乱し、暴れまわる。

「――――春日子!」

突如孔蛾が春日子を呼ぶ。
ただの傍観者をしていた春日子は行き成り呼ばれ吃驚し、
「―― −ハヒ!」と上擦り声で返事した。

「――手錠!」
「―――えっ!?」
「――手錠!」
「―えっ?はっ??てっ、手錠?」
「手錠!お前のその白の鞄の中に手錠が入っていただろう!?」
「――!ハッ!!」


―――手錠。 行き成り言われてなんじゃそれと思ったが、
春日子は何時も(今も)肩にかけている鞄、麻布の白いカバンから手錠を取り出す。
―――― ―手錠、手錠といってもよく出来たオモチャの手錠。
悪魔の鏡事件の時、春日子と散々利用した手錠。孔蛾はよく覚えていたものだ・・・・。

「これ!?」

春日子は取り出した手錠を孔蛾に見せる。

「――よし!それこっちもってこい!」
「―― ―えっ!?」
「早く!!」

「――ハイ!」

春日子は何がどうだかわからずも、オドオドしながら孔蛾に手錠を渡すとピューと漫画みたいに直ぐ元の場へ逃げ帰った。
すると孔蛾は「・・・・・よし」と呟き、一郎の右手に手錠の片方の輪をカチャン!!とはめる。
そしてそのまま暴れまわる一郎を連れ鉄棒へ、鉄棒の細い握り棒に余ったも片方の輪をはめ鍵をかける。
――――― ―これで鉄棒と一郎が手錠で繋がった。
もうこれで完璧に身動きできない。

「―――――うわっ!!コラ!このやろう!!人にこんなことしていいと思ってんのかっ!?馬鹿!外せ!!外せ!!」

ガチャガチャガチャ!!!ガチャガチャ!!と煩く一郎が手錠の音を立てる。
孔蛾は怖い顔からこれまでに無い冷たい表情を浮かべ、
「・・・何が、人にこんなことしていいと思ってんのかっ!?だ、あんた等は実の妹を犬みたいにロープで引っ張って!」と言う。
一郎は「――――うっ・・・」と言葉詰る。


「――――― ―水島っ!気絶している奴の方はお前が確り取り押さえとけ!!
目が覚めて暴れたら困る!」
「――――――――――わかった!」

水島は孔蛾にそう言われると、気絶している次郎の上にドン!と乗っかり封する。

「―――よし!よくやった」

―――孔蛾の顔が元の優しい顔に戻る。

「おっけ!で、どうすんの?」
「―― −どうすんのって、取りあえず彼女落ち着かせてそれからロープを解いて・・・」

そう説明するように呟きながら孔蛾はジャグルジムに向かい、薔薇子の前へ。

「・・・大丈夫ですか?」

さっきまで暴れ喚きまくったせいで疲れているのだろうか、薔薇子は虚ろな目をしておとなしい。

「・・・・・・」
「・・・・・ロープ外しますね、ちょっと後ろを失礼」

孔蛾はジャングルジムに無茶苦茶に括りつけられたロープをしゅるしゅると起用に外していく。

「―――――よし!外れた」

ロープを外し終えるとパッと薔薇子は自由を取り戻した。

「これでもう大丈夫――!?」

しかし、弱りきって衰弱に近い薔薇子は足に力が入らずズルリと倒れそうになる。
腕も手も力が抜けて大事な大事な鉢もこぼれる――― ―

―――――――危ない!

孔蛾は素早く右手で彼女の体を支え起こす。
そして左手で地面に落ちる寸前の鉢をキャッチした。

「・・・・ハァ!ハァ!!あっ、危なかったっ!――よかった、鉢も無事で」

よかったよかった。孔蛾は「――はい」と薔薇子に鉢を返そうとしたその時、

――――――――?!

「―――−あれ?」

・・・・鉢に妙な違和感を、感じる。

―― −なんかやけに重い。

重い、重いのだ。この鉢は何故か変に重いのだ。
いくら大きな鉢と言えど、土とバジルだけの重さじゃない、それといって鉢事態の重さだけじゃない、
何か他にボーリングの玉か何か入っているような重さを感じる。
ボーリングの玉の重さ・・・・ちょうど人間の頭の重さと匹敵する重さ。
――――――――― ―人間の頭の重さ!?



孔蛾はハッと何かを予感し、一気に緊張した。



「・・・・・・・!まさか!?」



――――ガサガサバサバサ!! 孔蛾は薔薇子に鉢を返すのをやめ、とり憑かれたかのように突然鉢の中の土を慎重に穿り始める。

「―――!?オッ!やめろっ!!何やっている貴様やめろおおおっ!!」

鉢の土を掘り返す孔蛾の姿に一郎が酷く取り乱す。冷や汗が毛穴という毛穴から噴出していた。

――――ガサガサバサバサ!!

「やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろオッ!!!」

唾を激しく飛ばしながら“やめろ”と連呼する一郎――― ―しかし、かくれんぼの鬼は既に隠されしものを見つけ出してしまった。

「――――!!!!?」

――――孔蛾の手がピタリと止まる。

「・・・・・」

――頭皮。

土を捨てていくうちに、人間の頭のてんぺん・・・頭皮が見えてきた!!

「やめろ―――――――――――――――――っ!!!」
「五月蝿い!!!!!」

大きく叫ぶ一郎を、孔蛾は五月蝿いと一喝する。
――――――――やはり、これは・・・

――――ガサガサゴソゴソ・・・と孔蛾は頭皮の周りの余分な土をゴッソリと取り捨てる。
するとポッカリと回りに隙間が開く。

「・・・・・・よし」

孔蛾は頭皮から生えている髪の毛を、右手で確りと握り掴む。
そして、「・・・・・・春日子、お前帰れ」と一言。

「――――――−へっ?」

呆然と立っていた春日子は行き成りそんなことを言われて戸惑った。

「いいから、帰れ」
「・・・・・・・どうしてですか?」
「帰れ!」
「いや・・・」
「・・・いい子だから」
「・・・・・・嫌です!」
「如何してっ!?」
「そっ!そんな怖い声で怒鳴らないで下さい・・・ボクは仲間外れが嫌です。帰りません」
「・・・・わかった、なら、目を閉じろ。耳も塞げ!絶対に開けるなよ!!俺が開けていいと言うまで!」

孔蛾は既に重々知っている。この子(春日子)は諦めが悪いという事を。

「――えっ!?」
「いいからそうしろっ!!」
「―――――――!」

脅すような孔蛾の声に春日子は強制的に目を硬く瞑った。耳も手で塞ぐ。
孔蛾は春日子が目を閉じたのを確認すると「・・・・よし」と呟く。
そして今度は水島に向かって「水島!お前ケータイもっているよなっ!?」と訊く。
「・・・うん」と水島は返事した。

「――――――警察に電話しろ!」
「―――――――えっ!?」
「いいから直ぐにしろっ!馬鹿のお前でも知っているだろ?警察の電話番号ぐらい!」
「ええっ!うん、110?」
「そう、お利巧だから早くかけろ!!」
「――わかった!」

そう返事すると水島は穿いているジーンズの後ろポケットから携帯を取り出す。
そして110を押した瞬間。孔蛾が、掴んでいる頭皮の髪をグィ!!と一気に持ち上げ――― −ズブッ・・・ボコッ!!と引っこ抜いた。

するとたちまち――― ―

「―――!!?うあっ!?うあ、うあああああああああああああああああああああっ!!!!」

水島の悲鳴が辺りに稲妻の様に轟く――――――― ―

―――カシャン・・・

そして耳に寄せつけていた彼の携帯が落ちる。

春日子は水島の悲鳴に怯え、より一層瞼を硬くし耳をきつく塞いだ。

―――――そして、一郎は顔面蒼白でガタガタ震えていた。「ばれた・・・」と微かに呟いて。

「・・・・・」

諸君、『おおきなかぶ』というロシア民話をご存知だろう?
うんとこしょ、どっこいしょ――― −それでもカブはなかなか抜けません・・・
――だが、孔蛾がやっとこそ抜いたカブは・・・カブではなかった。


では、一体何?

孔蛾が引っこ抜いたもの・・・それは・・・・カブではなく、

「――― ―やっぱり、コレだったか・・・」







――――――――――――――― ―“半分溶けた、人間の頭部”だった。 それも、成人男性の。




――― −「ハイ、110番、警察本部です。」
――― ――「事件ですか?事故ですか?」


水島が落とした携帯から、警察の声が漏れて響く。

「――― −!?あっ!」

気がふれそうになりながらも、水島は携帯を拾い「―― −じ、じじじじじっ事件です!!」と声を張り上げた。

「―――――――――――――ひゃああああああああああああああっ!!ちくしょう!!!」

一郎の我鳴る声は・・・・鼓膜が汚れてしまうのではないかというぐらい、汚く濁っていた。

「・・・・どおりで大きくって重いわけだ、この鉢は」

死体の部位を片手に、恐ろしいぐらい孔蛾は冷静だった。
如何してこんなに冷静でいられものだろうか、溶けた頭を持ちながら・・・。
医者を志した人間ゆえ死体は見慣れているのだろうか?それとも単に彼が鬼畜なだけか・・・?
もしくは―――――― ―秘めたる何かか?

――――死体の部位から、付着していた土がパラパラと零れ落ちる・・・。

「―― −殺したのか?あんたら兄弟が?」

凍るような顔、尖った冷えた声で孔蛾は一郎に訊ねる。
・・・・一郎は何も答えず、ただ顔を逸らして酷く怯えていた。


「――――――――ああああああああああっ!!ア―――――――――ッ!!!」
「―――――――――――――――?!!」


―――――――――――――タタタタタタッ!!



―――――――――グィッ!!ベキッ!!

「―――――!??」

突如あんなに弱りきっていた薔薇子が、
全力で走って孔蛾の手から死体の部位を・・・頭を奪い取る!いや、もぎ取る!!
―――――信じられないほどのクソ力だった。
立つことすら困難だった・・・・女が、全速で走り、怪力で奪う。

―――――――――その時、孔蛾は見てしまった。

一瞬、その刹那、薔薇子の目があの“悪魔のように赤く光った”事を・・・・・・。

「―――――――― ―う、ううううっ、うおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!!」

美女が野獣の如く唸る。絞るように獣は鳴き、号泣しだした。
・・・奪った頭、成人男性の溶けかけた頭部を、愛しく愛しく抱きしめ、唸り泣き続けた。

――― −何処からか、美しい賛美歌が聞える。

公園の向かいにある教会からだ・・・・・。

澄んだ賛美歌は響くと、彼女はその賛美歌を口ずさんだ。

―――――どうしてだろう、それがまるでラブソングを歌っている様に聴こえる。

Lovesong・・・。



―――――――――太陽の光が清清しい。



―― ―何処からか、パチンという指を弾く音。



すると、女は男の頭を抱きしめたまま、ゆっくりと崩れ落ちた。



「・・・・・・・・えっ?」



孔蛾はわが目を疑った。



―――――――――えっ?えっ??何コレ・・・・・・・・これは、現実?

薔薇子の側に近寄り、腕の脈をとる。

停止していた。



――――――――――――――死んでる。







ウウウウウウッ―――――――――――――――― ―

パトカーのサイレンが聞えてくる。
警察がやって来た。

そして―――――空の上の雲は何時も通り流れていた。

春日子は、家に帰るまで、耳も目も塞いで閉じたままだった。






***







その後、警察の調べと事情聴取により、一郎と次郎の兄弟は逮捕された。
殺人及び死体遺棄で。

妹の薔薇子には愛する男がいた。だが、男は貧しかった。
薔薇子の兄弟は美しい薔薇子を金持ちに嫁がせて裕福になりたかった。
――――それには、男が邪魔だった。
だから薔薇子の兄弟は、密かに男を闇の下の冷たい土に葬った。
おかげで薔薇子は狂った。
狂って狂って愛する男を捜し求めた。そしてやっと見つけた男はもう変わり果てていた。
薔薇子は気がふれた。
男の死体から首を切断し、その頭部を鉢に入れ土を被せ埋めた。そしてバジルの種を蒔いた。
女は毎日土の中の男に愛を囁き、薔薇香水と涙を与えた。
・・・・見事に蒔いた種は芽を出し、青々と茂った。
ああ・・だがなんと其れが悲劇の元よ―― −
鉢を愛でる妹に兄弟は不審を抱き、ついに鉢を取り上げた。
そして土をそっと・・・穿り返す、あの日の骸が埋まっている・・・。
なんて事か、兄弟は「何故?」と叫び悲鳴を上げ怯えた。
とうとう、鉢は何事もなかった如く頭とともに捨てられた。
しかし不思議と薔薇子は捨てた鉢を拾ってくる。
だから何度も捨てた。だが何度も拾われた。
捨て拾いのくり返しだった、孔蛾が鉢を穿り出すまで。

――――薔薇子の死体は、男の頭部を抱いたまま死後硬直していたという。

まるでこれは、キーツの詩『イザベラ、あるいはメボウキの鉢』の生き写しの様である。






***







後日、

‐ ――――― ザッザッザッ・・・

孔蛾が一人あの公園、傘地蔵公園で地面を掃いている。
事件のせいで掃除できなかったら、今日することになったのだ。
春子は風邪を引いて寝ている。水島はチケット代を渡して追い出した。カヨ子は店。
だから孔蛾一人が掃除している。

「・・・・・・・」

――――――― ―穏やかな日差しだなぁ・・・

孔蛾は手を止め、空を見上げた。太陽が穏やかに万物を照らす。
あったかい・・・。

「―――――――――― ―どう?お掃除楽しいかい?坊や」

突然聞き覚えのある声がした。誰だ!?と思って声のした方を向く。

「―――――――?!魔王!」

すると、魔王がいた。
楽しそうにジャングルジムのてっぺんに座っている。

「・・・・・やぁ、またまたまたま〜た会ったね、テセウス君」

お決まりの紳士気取りな挨拶。
黒髪長髪に青白い肌を持つ長身でこの世のものとは思えない美貌を持つ、
自称悪魔の男――――― −魔王、彼は神出鬼没だ。
陽気な顔して此方に手をそよそよと振っている。

「・・・・楽しくねぇよ、お掃除」

孔蛾はこれでもかというぐらい呆れた顔でそう台詞を吐き捨てた。
「そう、そりゃ残念だったね」とさらりと魔王は返す。

「何でお前がここにいる?」
「さぁ〜?なんででしょう?当ててみて?アハハッ!」

おどけた感じで魔王がそう言うと、孔蛾は「知るか」と素っ気無い返事をした。

「つれないねぇ〜君、結構性格悪い?」
「ああ、大分」
「・・・フン、まあいいや。何で僕がここにいるかって?ただの散歩だよ」
「はぁ?散歩?なんただそれ・・・」
「散歩は散歩さ、悪魔もたまには息抜きが必要でね。ここは僕の散歩のコースなのさ」
「・・・・・散歩コース・・・悪魔が散歩」
「――あっ、そうだ君に悪魔の話を聞かせてあげるよ」
「はぁ?」

―― −グッと孔蛾は顔をしかめる。

「・・・・・・悪魔の話?」
「そう、悪魔の話」
「・・・・」

孔蛾は悪魔の話なんて聞きたくも興味もなかったが、何故か耳は拒絶しようとはしなかった。

「君は、悪魔との“契約”をご存知かな?」
「―― ―さあ?知らん」
「どんな奴も、悪魔と契約すれば命と引き換えに願いを一つ叶えてくれる。それが悪魔との契約」
「・・・・」
「――フフッ、まさに命がけの願いだよね?」
「・・・・」
「その命がけの願い、ついこの間も叶えてあげたんだよ、僕は」
「・・・・」
「可憐で麗しい美女との契約だった」
「・・・・」
「ある日、美女は森の中で男の死体を抱いていた。直ぐ側の地面には大きな穴が空いていた。
僕は“どうしたの?その大きな穴は”と美女に訊ねた。美女は掠れた声で“掘ったの、彼に会うために”と答えた。
埋められた死体を掘り起こしたそうだ。そして美女は僕が悪魔だと知ると、男を蘇らせて欲しいと頼む。
でも僕はそれだけは悪魔でも不可能と言って断った。
すると美女は、ならせめて愛するこの男と永遠に一緒に成れる方法を教えて欲しいとせがんだ。
だから僕は彼女と契約を結び、その方法を教えてやった。ねぇ、それはどんな方法だと思う?」
「――――――――知るか、だがお前ら“悪魔は人を陥れ、不幸しか導かない”だろ?」
「ふははっ・・アタリ」


孔蛾の答えに魔王は小さく笑って頷く。

「――――― −アハハハッ!だって僕は悪魔だもん、悪魔は人の不幸が大好きだから!!俺は悪魔。
どんな願いも命と引き換えに叶えてあげる、悪魔!これは出会ったとき君に言ったね!
ピーターパンも叶えてあげたって!覚えている?あの哀れなピーターパン!!」


魔王の首がリズミカルに左右に揺れる。
まるで幼稚園児が歌のお遊戯で体を楽しく揺らすように・・・

「―――――――――悪趣味!黙れ!!」

孔蛾が声を荒げる。

「失礼な、“不幸は幸福の裏返し”だよ?不幸あってこその幸福、不幸を知れば幸福を知る・・・悪趣味なんて、
とてもとてもれそりゃ失礼だよ君・・・ハハッ!」
「・・・・・」
「――――― ―だから、彼女は喜んで素直にやってくれたよ、僕が教えた事を。
僕はね、ほんのちょっぴりの力とこんな方法を教えてあげた・・・・“その亡骸の首をもいで、鉢に入れて!
そして鉢の中にバジルの種を蒔いて育てるといいよ・・・・そうすれば肉は腐っても肉の養分でバジルは育つ、
そやって彼は生まれまた君の傍に居てくれる。・・・・・その育ったバジルが青々と茂ったら君の命の取引の時間。”と。
植物は逃げない、植物は枯れてもまた種を残し甦る、植物はこちらが離さない限り離れない。
如何?永遠に一緒に成れる方法でしょ?だって、相手は物言わぬ動かぬ存在なんだもん!!
愛する人と永遠を望むなら、相手を物言わぬ動かぬモノにすれば良い!そうすれば己から逃げず離れず何時も一緒。
まぁ、自分の方がどうにかなったら御仕舞いだけどねっ!アハハハハハハハハッ!!」
「―――――――――!!?お前!お前が仕組んだのか!?あんな事!あんな狂った事を!!」

――――――― ―孔蛾の顔が怒りで酷く歪む。

そう、魔王が契約した相手、それは薔薇子。
・・・・・・・・・・・・愛する男を兄達に殺され、己も悲しみと執着に翻弄され死んだ、

哀れな女。

「――――――――あ〜れ?如何したの、突然そんなに怒って」

・・・・・魔王は孔蛾の全てをお見通しなのか、薄ら笑を浮かべてそう言った。
人をからかったり、とぼけたりするのも悪魔の特徴だ。

「―――ふざけるな!!何が契約だ!永遠に一緒に成れる方法だ!
死体の頭を鉢に入れて土被せてバジル育てろだと?
冗談じゃない、気持ち悪い!!馬鹿を言うな!!ただの猟奇的行為じゃないか!“愛と異常”を混ぜるなっ!!
“執着”にもほどがある!!死んだものは死んだもの、受け入れなきゃいけない!!
肉体は抜け殻に過ぎない、だが愛した実態の魂は何時も傍にいる!残された肉体に執着してどうする!?
人間の本当の死は肉体の滅びでない、人間の本当の死・・・それは“忘れ、思い出されない事・・・喪失”だ!!!
目を閉じて・・・愛する者を浮かべれば何時も会える。そうすれば、最後は自分と共に逝ける・・・。
それが“永遠に一緒に成れる方法”だと俺は思う」

――――怒りで歪んだ孔蛾の顔、しかし・・・凛々しい。

「―――――― ―勘違いしているんじゃないよ」

「――――――――― −!?勘違い?」

「お前の言う永遠の愛は“まれに見る幻”さ、馬鹿じゃねぇ〜の?“愛と異常”を混ぜるな?同じさ。
愛なんてものは異常、いや、恋すら異常。どちらもしたら“常に冷静でなくなる”んだから」

一方魔王は、だから何?と言った感じだった。平然な顔して厳しい事を孔蛾に告げていく。

「お前もバレるさ。愛する者を手に入れた瞬間。人間は執着の塊、執着なしでは生きられない。
人間は沢山の欲を持つ、食欲、性欲、睡眠欲・・・そして“独占欲。”
この独占欲は恐ろしい・・・なんたって愛や恋が生まれるとオマケで“必ず付いてくる。
”そしてその時嫌でも気づく、絶対に誰にもあげない、絶対に誰にも触れさせたくない、愛する人の全部が欲しいと。
もうそうなると、髪の毛一本爪の垢でさえ欲しくなる。目を閉じて思い浮かべるだけじゃ満足しない!!
だから世にストーカーが生まれるのかな?独占欲・・・人は何時も同じ人に囲まれているとは限らない。
今日はいても、明日はいないかもしれない。いて欲しい人が当たり前にいるとは限らない。だから独占欲が湧く。
ふふふ・・・君は確か恋をしていたね?あの小さなお嬢ちゃんに。その子をものにしたら。
分かるさ、この意味。特に君は独占欲が強そうだだから・・・いや、君はもう既に・・・ふふっ、ふははははははははっ!!
君は揺れる。絶対に後悔する!この時僕を貶した事を!!人は不思議だ!
何時も何かに翻弄されている、自分に他人に・・・アハハハハハハハハハハッ!!!」
「―――――――――――――― ―しない!!
俺は後悔なんてしない!!絶対にお前を貶し続ける!!俺は揺れない!
彼女を・・・春日子を手に入れても、けして揺れない!!
お前はオカシイ!勘違いしているのはお前の方だっ!!
人は独占欲・・・欲があると同時に“我慢”を知っている!!学習もできる!!人は“イノセント”を保てる!!
だから俺はぶれない、揺れない!!」


――――――――――――― ―悪魔に耳を傾けても、けして貸しはしない!!!
―――貸したとしても絶対に取り戻す!

孔蛾は激しく反論をぶつけると、ハアハアと息を吐き精一杯呼吸を整える。
肩が上下に動いていた。

「フン!また綺麗事を言う。そんなこと言ったって、“現実は仕方のない事だらけ”なのに」
「・・・・・」
「―― ‐!おや?」

魔王は孔蛾の何かにピンと気づく・・・。

「―――――――君、“頭に鍵”かけられたね?」
「―――?鍵?」

――――――――なんだそれ?

わけの分からないことを言われ孔蛾は眉間に皺を寄せる。

「残念だね、これでもう僕は君の頭を覗けない・・・いや誰も覗けない。“鍵を外さない限り”」

ぼんやりと魔王は空を仰ぎ見る―― −薄雲がいつの間にか散っていた。

本日は晴天なり。

「――――― ―鍵?俺の頭に鍵?」
「・・・・鍵、鍵は鍵だよ。君に覚えがなくっても、君の頭には鍵がかけられているのさ。
それも“大した奴”が鍵をかけたのさ、大よそ“君を守るため”なんだろうけど・・・。
いいかい、頭は鍵かがかけられる、だけど“心には鍵はかけられない。”何でか分かるかい?
心は何者にも支配できない物で、また近寄れない物だからね・・・心だけは極めて特別だ」
「・・・・・・・極めて特別」
「―――そう、極めて特別。だから誰も“心の正体”を知らない。
だから人は人を分かったかの如く知ったかぶりをよくする・・・触れられない、知らないから」

魔王が孔蛾を睨む・・・・この眼は悪魔の眼、魔眼。赤く鋭く恐ろしく光る眼・・・・。
先ほどのまで漆黒だった魔王の眼は今、怪しげに赤く光っている。

「―――――――――だがね、人間は無理でも、悪魔には出来るのさ!
なんたって“悪魔は心の隙間に入り込むことが出来る”のだから」
「――――!?」

「――フフフフフッ!フハハハハハハハハハハッ!!アハハハハハハハハハハッ!!!
アーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

―――何がそんなに可笑しいのか?魔王は壊れた様に笑い続ける。
笑袋でもこんなには連続して笑わないだろう。

「・・・・・お前、一体何を知っている?俺の・・・」

――― ―何もかも自分は、この悪魔に見透かされている気がする。

孔蛾は青ざめていた。

「――― −一体俺の何を知っているんだっ!?俺の何を!俺の何をお前は知っている!!?」
「―――― ―ハハハハハハハハッ!知らないよ。知っているけど、知らないよ。君の事なんて」

――――――――――――――――――――― ―愉快。

魔王の口が三日月に歪む。
にたり・・・と笑い、孔蛾にこう一言告げた「―――‐そうだ、お別れにお告げをあげよう。
これは悪魔から君へのお告げさ、よく聞きたまえ!“笑う男”しだいでお前の運命は大きく変わる!!
その男の“行い一つ”でな・・・・・」と。

「―――――――!?笑う男?なっ!?誰だ!一体誰なんだそいつは!!?教えろ!答えろ!」
「―――――――――――今、君の運命を握り締めている人間達の中の一人!」
「―― ―それが答えか?」
「それが答えだ」
「・・・・・・・随分アバウトな答えだな」
「そう?」

魔王がニッと微笑む。立ち上がり「―――――またね、bye-bye!」と一言。
そして、ジャングルジムからピョンと飛び降りた。

「―――――――!?」

―― なっ!?

そして、消えた。

魔王は、飛んだ瞬間消えたのだ。跡形もなく。

「・・・・・・・」

公園は、また孔蛾一人になった。

「――――――――― ―魔王ォオオオッ!!お前は、本当は何者なんだぁ!!!!!」

――― ―孔蛾は叫ぶ、青空へ。

静かなる青空へ・・・・・・・・。







その後、孔蛾が悶々と日々を過ごす中、また水島が岡松精肉店に押し掛けてきた。
ドンドン!と激しく戸を叩きながら「―― ―マコりん!!マコりん!マコりんまた助けて!!
マコりんがくれたチケット代でSMバーにいったら、また、お会計の時怖いおじさんが来て沢山のお金を搾り取られたよー!!
それても足りないからってまた時追いはぎにもあったよー!助けて!また、中国に帰るお金ない!」と叫ぶ。
このままだと彼はきっと無事じゃない。

――――― ―ドンドン!!

「――――――――― ―マコりんたすけてぇ!!!」

しかし、岡松精肉店の戸は二度と水島の為には開かなかった・・・・・。

水島貴一 23歳、学習の無い男。

「―― −ちょ、まっ・・マコり〜ん!!助けてってば!たすけてぇ――−っ!!
今度、渋谷で売っていた女子高生の生ブラあげるから・・・・」



―― ―そして、変態だった。

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