前頭連合野/46野のORIGINAL NOVEL
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※著作権は前頭連合野/46野の管理人、怪物の顔(鮭)にあります。
―――――――――――――――――チュウチュウチュウ
薄暗い部屋の中の檻の中、白い二十日鼠が一匹鳴いている。
―――――――――――――――――コツコツ
その薄暗い部屋を目指して、薄暗い部屋以上に薄暗い廊下を誰かが靴音立てて来る。
―――――――――――――――――チュウチュウチュウ
―――――――――――――――――コツコツ
―――――――――――――――――チュウチュウチュウ
―――――――――――――――――コツコツ
―――――――――――――――――チュウチュウチュウ
―――――――――――――――――コツコツ
―――――――――――――――――チュウチュウチュウ
―――――――――――――――――コツコツ
―――――――――――――――――チュウチュウチュウ
―――――――――――――――――コツコツ・・・コツ・・・・・コツ
急に靴音が止まった。
そして、『第6資料保管所』と書かれた白いドアがカチャリ―‐と開く。
「――――――スマイルさん、追加資料もって来ましたよ」
鼠が鳴く薄暗い部屋に、喪服を着た若い十代後半の男が入ってくる。
・・・・腕に厚いファイルを二冊抱えて。
「――――――ああ、ご苦労様ですドラゴンさん」
声が返ってくる。
薄暗い部屋には人がいた。これまた、喪服を着た若い十代後半の男が。
――――――――――――二人の喪服の男。
喪服。
黒のスーツに白のシャツに黒のネクタイ。
彼らは常にこの喪服を着用している。
この服装は彼らにとって敬意ある服装で・・・正装。
彼らは"ウォッチャーズ"と呼ばれる、とある組織の役員達。
―――――――皆、外の世界を嫌って捨てた者。
小さな島に篭り、そこを"エデンの園"と称して住み着いている。
「―――――この部屋、暗くないですか?電気点けてないでしょう?」
"ドラゴン"と呼ばれている喪服の男の方が部屋の電気を点けた。
―――――カチン― −カッチン―ジジジィ
「――――あれ?切れかけ?」
天井に付いている二本の蛍光灯はチカチカと付いたり消えたり点滅する。
「――――――だから、付けていなかったんですよ、電気。鬱陶しいでしょ?チカチカして」
"スマイル"と呼ばれている喪服の男がニコニコ笑ってドラゴンにそう言う。
スマイル。
笑う。
smile
笑う男・・・・スマイル。
彼はよく笑う。常に微笑む。だから、スマイル。
そしてスマイルは良く似ている・・・・あの子に。あの子・・・春日子に・・・。
彼の特徴、小柄で華奢で、大きな目、髪は黒くってショートカット。
簡単に説明すれば春日子をそのまま男にして、成長させたといった感じ。
ただし、彼は春日子と違って確りした緊張感があり、背も166pある。
男性としては小柄の方だが春日子よりはずいぶん高い。
―――――――――――――――――チュウチュウチュウ
「――――――うん?この鳴き声・・・」
ドラゴンは鼠の鳴き声に気づく。
「――――――チュウチュウ?チュウチュウって何?鼠?鼠じゃん!
あっ!スマイルさん!なに餌とかやっているんですか!?」
―――――――――――――――――チュウチュウチュウ
ディスクの上に置かれた鼠の檻。
さっきからスマイルはずっと、檻の隙間から餌のチーズを鼠に与えていた。
「かわいいでしょ?」
「可愛いでしょって・・・それどうするんですか?まさか、ここで飼うつもりですか!?
駄目ですよ、ペット禁止なんですから!見つかったら上の役員の人が煩いですよ!」
「――――――いいじゃない、そう固くならなくっても・・・。
ハーメルンも資料の一部です。大事に世話してあげましょうよ」
―――――――――――――――――チュウチュウチュウ
鼠が黄色いチーズを齧る。
「――――――ハーメルン!?なに勝手に名前付けているんですか!!」
「いい名前でしょ?ハーメルン。グリム童話の『ハーメルンの笛吹き男』からとってみた」
―――――――――――――――――チュウチュウチュウ
スマイルはチーズを檻へ押し込む・・・すると鼠が齧りに来る。
「いいんですか?好き勝手して。他人のペットですよ?」
「いいんです。こんな可愛い鼠ちゃんを置いて行っちゃうご主人様なんて、ハーメルンにはいりません」
スマイルが「ねぇ、ハーメルン」と鼠に問いかける。鼠はチュウチュウチュウと鳴いて返事した。
「―――ほら!」
「―――ほら!って・・・言われても」
ドラゴンは、腕抱えた厚いファイル二冊をドン!と鼠の檻の隣へ置いた。
その衝撃に驚いて鼠がチュウ!と高く鳴いた。
「――――あっ!ハーメルンを怖がらせたな!駄目ですよ、動物は愛護しなきゃ」
「呑気な事言ってないで、今もって来た追加資料の方もちゃっちゃっと処理してください」
「はいはい・・・わかっていますよ」
スマイルは鼠に餌を与えるのを中断し、ドラゴンが持ってきた資料の処理に取り掛かる。
「――――――――それにしても、嫌になりますよね〜」
「何が?」
「"塚原"ですよ!」
「塚原さんの何が?」
「捜索!」
「――それが我々の仕事です。捜索班が捜索しなくってどうするんですか?仕事放棄ですか?」
「・・・・放棄・・・したいよ。俺ヤダよ。初仕事が"好きな男の尻追っかけて失踪した男"の捜索なんて!」
「仕方ないでしょ、ボクも気が進みませんがこれは重要な仕事。塚原さんが居ないと、これから我々は困ります。
なんせ・・・彼はこの島の現所有者・・・。土地に何を建てるも如何するも、彼の許可が必要となってきますからね。
それに、新人の僕等にこんな出世に繋がる旨い仕事そうそうきませんよ!
カインが起こした乱の処理で今空いている役員が極端に少ない非常事態。
人手不足のおかげで、めぐって来たこの仕事。ラッキーチャンス!」
「――――――――スマイルさんは良いな〜ポジティブで・・・」
「はい、それが取り柄ですから」
ニコニコ笑ってスマイルは追加資料をペラペラ捲っていく。
「――――――――――――そうだ、ドラゴンさん」
ふいにスマイルがドラゴンに話しかける。
「――――――――?なんですか?」とドラゴンが返事を返す。
「―――『青い鳥』って知っていますか?メーテルリンクの童話の」
「ええ、知っていますよ。チルチルとミチルの兄妹が青い鳥を求めて旅する話でしょ?」
「はい、その通りのお話です」
「それが、どうかしたんですか?」
「――――――――ドラゴンさん、これはボクが勝手に思っている事なんですが、
人はチルチルとミチルの様に青い鳥を捜し求める旅人で、
旅人は欲深く、どうしても青い鳥を手に入れたくって、他の者から奪ったり、あるいは殺したりしてでも手に入れたがる。
そして青い鳥を捕まえたら捕まえたで、逃げないように頑丈な鳥籠に閉じ込めてしまう。
そして、不安になったらその鳥籠の中の青い鳥を覗いて安心するんです"自分は幸福"だと・・・
しかし、動物は死ぬものです、また旅人は不安になり青い鳥を探し始める・・・・その繰り返し。
ボクは、旅人ではなく青い鳥自身に成らねばと・・・そう思うのです。そうすれば"永久に幸福になれる"でしょ?」
「――― ―突然、銃で撃ち殺されても、犬に食われても?永久に幸福と?」
「ええ、なんせ青い鳥は"自身が幸福"なのですから」
「つまり、青い鳥は"生まれて死ぬまで幸せ"って事かぁ〜」
「はい」
「なるほどね・・・」
「――――――――!?」
スマイルの作業が、二冊目のファイルに挟んである一枚の写真を見た途端急に止まる。
「――――?如何したんですか?突然手を止めて・・・・めずらしい」
「――――――ドラゴンさん」
「はい」
「・・・この資料写真は?」
「―――ああ、その資料写真は今日、外部捜索班の連中が撮ってきた物ですよ。
逃げた塚原の手掛かりにと、我々にくれました。それが何か?」
「・・・・いや、少々確認したいのですが・・・映っているこの男は誰です?
小柄な少女を抱きしめている・・・背の高い天然パーマの男」
「――――――ああ、そいつは"孔蛾実"って言って、好きな男の尻追っかけて失踪した男、塚原の"好きな男"です。
まぁ、好かれている男の方はまったくのノンケですがね」
「――――――――――――そうですか・・・孔蛾実ですか」
孔蛾実――――――――――――――――――――――――やっぱり。
スマイルの笑顔が一瞬固まった・・・。
「―――― −ドラゴンさん、外部捜索班に引き続き"孔蛾実"の近辺を探るように頼んでください。
塚原の目当ては彼です、彼の前に何時か必ず現れる・・・」
「―――――――――――――わかった、今直ぐそう報告してくるよ・・・外部捜索班班長、軽部さんに」
「よろしくです」
「――――はいはい、じゃあ!」
――――ガチャガチャ
―――――――パタン!
――――――ドラゴンは報告をしに部屋から出て行った。
行動が実に素早い・・・。
部屋の中は鼠とスマイルの一匹と一人だけになった。
「・・・・我々の未来は決まっている。
ミカエルが光の剣でサタンを貫き、ガブリエルがラッパを吹いた時から」
スマイルは鼠の檻の下に隠してあった二枚の写真を取り出し、それを追加資料の写真と一緒に並べ直す。
―――――三枚の写真は、マジシャンがトランプを並べた時みたいに綺麗に並ぶ。
写真の全部は同じ人物を写した物。
――――――――――孔蛾と春日子。
一枚目は遊園地で孔蛾が春日子の目を手で覆い、きつく体を抱きしめている写真。
ピーターパン事件の時のだ・・・。
二枚目はコインランドリー前で孔蛾が、呆然としている春日子の肩を痛いぐらい掴んでいる写真。
これはオランピア騒動の時の・・・。
そして最後の三枚目は、塚原の墓の前で孔蛾が春日子をギュッと抱きしめている写真。
今日撮られた一枚。
三枚目以外の写真は失踪前の塚原が役員を利用し手に入れたもの。
ちなみに利用された役員は幹部にバレ、即処分された。
「―――― ―孔蛾実・・・お前はウェンペクル(悪人)可愛いボクのマタパ(妹)を誑かすウェンペクル」
――――――――――――――――ドス!!!
スマイルはペン立から錐を取り出し、勢い良く三枚目の写真の、孔蛾の顔をぶっ刺す!
――――――チュウチュウ!!と鼠が怯えて鳴いた。
―――――――――もう彼(スマイル)の顔に笑顔は無い。
「チルチルとミチルの兄妹は青い鳥になる・・・チルチルとミチルの兄妹だけが、青い鳥」
―――――カチン― −カッチン―ジジジィ――――ジジジィ・・・ジィ
――――プツン!
ついに切れかけの蛍光灯が切れた・・・。
部屋は真っ暗になった。
―――――――――"ウォッチャーズ"何時かこの先彼らは現れるだろう。孔蛾達の前へ。
Story4終了、Story5薔薇香水と涙に続く。