前頭連合野/46野のORIGINAL NOVEL

※ 無断転載等、持ち帰り等はしないで下さい。
※著作権は前頭連合野/46野の管理人、怪物の顔(鮭)にあります。





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ねぇ?


実――――――――――――――――――――――――‐僕はね、怖いんだよ。
何時も僕のそばに居る君が、居てくれる君が・・・何時か、僕の目の前から・・・声も無く、姿もなく、
触れる感覚さえなくなって消えていくんじゃないかって――――――――――――― −‐


ねぇ?


如何したら、ずっと手を繋いでくれる?


―――――――― −‐もう天使の手じゃない僕の手を。


ねぇ?


間違っているのかなぁ・・・・・・・・僕の・・・わがままは―――――――― −‐―






***







「―――――塚っちゃんは、絶対自分を中心でしか生きていけない人だった。
それと違ってマコりんは周りが中心だった。だから・・・ド壷に嵌った。塚っちゃんの"罠"に引っかかった」

――――――――何処からか小さな白い羽根が宙を舞う。
本当に何処から来たのだろうか?そんな事はちっともわからないが、
羽根は風に乗って水島の背中をあっという間に横切った。


「・・・それにしても、凄いですね。塚原って人は、とことん束縛の雁字搦め。
好きな人を引き止めておく為に自分を傷つけるなんて卑怯だ!!この僕でさえ聞いていて腹が立つ。
ワガママで言いたい放題・・・・まあ、それをキッパリ叩きのめさない、孔蛾さんにも問題はありますけど・・・」

宇佐美は塚原に腹を立てながらも、複雑な気持ちでいっぱいだった。
――――――――隣の春日子は黙って俯いている。
おそらく、彼女にとってこの話は、聞くだけで精一杯なのだろう。

「・・・・きっと二人とも何時の間にか自分を見失っていたんだよ。
見失ってしまって・・・・捜そうとしたけど、逆にラビュリントスへ・・・迷った」
「ラビュリントス・・・ギリシャ神話に出てくるクノッソス宮殿の地下にある迷宮の事ですね」

ラビュリントス・・・入ったものは誰も抜け出すことが出来ない永久の迷路。
その奥底には牛頭人身の怪物、ミノタウロスが居座っている・・・・・・・・。
――――宇佐美の頬に何故か言い知れぬ、嫌な汗が流れた。


「そしてとうとう二人は、ラビュリントスに潜む怪物の餌食なった。ミノタウロスの・・・餌食に」
「――――餌食?」
「そう、餌食。二人は迷った挙句、最悪最低の道を選んだんだ」
「最低・・・最悪・・って?」

水島は、はぁ―― −と深いため息をついた後、事の結末を告げる。

「――――マコりんが、病室を出た五時間後、塚っちゃんは果物ナイフで手首を切って・・・"自殺"した」
「――――――――!!?じっ、自殺!!?」

――――――――――――――――四月九日 午後5時17分 塚原 麗 自殺。衝撃的な最後。
四月十日、通夜。
四月十一日、葬式。

友人知人が式場に足を運ぶ中、孔蛾は式場手前までで踏み止まる。
彼は重い罪悪のせいで通夜も葬式も参れなかった・・・・・・・・・。
ただ、小雨降る空の下、黒い喪服着て胸に香典しまって・・・蝙蝠傘差して一人ずっとつ立っていた。
――――――虚ろな目をして式場の入り口を見つめる。心は、がらんどう。
人は何時だってそう。大事な物は無くなって初めてその価値の重さを知る。そして後悔する。
人は・・・弱い、弱い、弱い生き物だから・・・・。

「――――――そう、自殺。自殺したんだよ」

―――――――――― −バサバサバサバサ!!

近くの林から白い鳥達が一気に羽ばたいていく―― −おそらく、さっき風に乗って飛んでいった羽根は、この鳥達のものだろう。
鳥は群れを成して遠く太陽の方へと向かっていった。

「―――――――――!わかった!なるほど・・・そういう事だったのか」

急に宇佐美の頭にピンと何かが来た。

「塚原は有言実行したんだ!! "永遠に忘れない、ずっと僕に翻弄されて生きる、そういう形で実は僕を愛していく・・・
ずっと"究極の束縛!!なんて、凄いっ!なんて、えげつない!死と引き換えに、相手の心の中に自分の存在を刻み、焼き込む・・・
狂ってる!狂っているよ!!こんなの、狂っている!!!」

―――――― ―震え上がる愛の形。
己の身を滅ぼしてまで手に入れたい愛。でも手に入れた愛は歪んでいた。
はたして・・・はたしてそれは、愛と呼べる物なのか?

――――――――――――― ―塚原が死んで、四十九日が経った日、孔蛾は黄色い菜の花咲く畦道に立ち、水色空に向かって叫んだ。「全部の幸せ捨てるよ!」と。

「――――――マコりんは、塚っちゃんの自殺は全部自分のせいだと決め付けた。
それから自分を責めて責めて今も責め続けている・・・・。口癖みたいに"償う"って言う。
マコりん、大学辞めて医学とは全然関係ない不動産会社へ就職した。
まあ、そこは地元で一番大きくって有名だったんだけど、就職して三ヶ月でその会社がまさかの倒産」
「・・・・・就職して三ヶ月で倒産って・・・とことん不幸ですね、孔蛾さん」
「いや、もっと不幸になっていくんだってこれが・・・・」
「・・・・どんな?」
「借金、謝金地獄じゃ!」
「しゃ、借金地獄!?」
「――――これから何とかしなきゃってマコりんは、勤めていた不動産で知り合った知人と事業興したんだけど、
その知人に騙されて多額の借金を払うはめに・・・」
「・・・・本当に不幸を絵に描いたような人だ、孔蛾さん」
「うん、まあ・・・マコりんはそこで半分試したんだと思う。自分の優しさがはたしてお人好しかどうか。
頭が良いから失敗するってわかっていても、マコりんは人を信じてしまう。
嘘つき呼ばわりされた自分を信じてほしいから・・・でも結果、優しさはお人好しで、相手にも裏切られた」

淡々と会話する水島と宇佐美。そして黙って俯いたままの春日子。
春日子は水島の言葉に、孔蛾との事を思い出す。以前孔蛾が坂下のコインランドリー前で看板を蹴飛ばした事を。
―――――――――――――尋常じゃなかった。あの時の孔蛾さん。
―――事件の事がきっかけで孔蛾さんは疑われる事に、信じてもらえないことに敏感になっていたんだ。
―――――――――ごめん、ごめんなさい・・・孔蛾さん、ボク・・・軽率でした。
春日子は過去の自分の行動を軽はずみだったと悔いる・・・・。

「――――そして、多額借金を背負ったマコりんは突然この町から姿を消した。失踪」
「・・・・・・失踪・・・不幸の定番じゃないですか」
「そうだね、定番だね」
「・・・・で?失踪した孔蛾さんの行方は?」
「なに言ってんの!?失踪したマコりんが、最後にたどり着いた先は君らの町じゃん!
言っとくけど、この二年間マコりん行方知れずで!
俺、友達の宮内の弟が野球部の遠征の帰りたまたま寄った商店街の肉屋でマコりんを見たって情報を伝に探り当てたんだからね!!
夜中、道迷いながらバイク走らせて頑張ってやっと朝着いた途端、なんかぶつかってバイクひっくり返るし!
マコりんとはすれ違いだし!あんた等連れて行くはめになるし!!」
「――――知りませんよ!!そんなの!言っとくけどぶっちゃけ俺は孔蛾さんなんて捜す気無かったんです!
これっぽっちも!!商店街の客のよしみで捜索に参加しているだけ!大体あんた馬鹿だろうが!!
なんで電車使わないでバイクなんだよ!明らかに電車の方が速いだろうが!!それですれ違わずに済んだだろうが!」
「――――馬鹿野郎!!俺はそこまで頭が回らんかったんじゃ―― −!!!」

水島は宇佐美に責められて、じんわりと涙が滲む・・・・・。
※水島君は頗る頭が悪いです。しかたありません。

「――――――――グスン・・・。兎に角、マコりんは失踪した後、借金抱えてお宅らの町に行き着きましたとさ。
そんで、今日は四月の九日・・・塚っちゃんの命日で三回忌なので異空町に戻っているに違いない!
マコりんは一人静かにずっと塚っちゃんの墓の前にいるはず!!この道を抜けた墓地に!」
「何でそんな自信たっぷりなんだ!何か確信でも・・・・」
「確信?確信なんて無いよ――――勘!!!」
「―――勘!?勘?」
「そう、勘!」
「――――――――――――――――勘で人を説得するな!!」

宇佐美が、切れた。水島のあまりにも適当さと温さに切れた。
宇佐美は後ろからグイッ!と水島の襟を掴み、水島の体を後ろへと回転さる。
そしてギリギリと首を絞める・・・・。

「―――――グッ!ぐるじい・・・!」
「コラ!!温いのもいい加減にしろよ!何が勘だ、その場所に孔蛾さんがいなかったらどうする!?
だいたい置手紙を肉屋に残して孔蛾さんは失踪しているんです、これじゃあ、肉屋にも僕等の町にも戻ってきません。
他にあてないんだろ?もう捜しようがねぇーじゃんか!!ボケ!何が勘だ!」
「だって、そうじゃん!人間最後は勘じゃん!!マコりんは絶対墓地にいますとも!」
「まだいい加減な事言うか!?」
「い゛・・いっ、いい加減だけど・・・いい加減じゃないって!マコりんはずっと墓地にいる!
そんで一日中この二年間のことを塚っちゃんの墓前に報告していると思うから・・・・マコりんはそういう人!!
ぐっ、ぐるじい・・・いい加減はなして」
「・・・・・・・」

―――――ドサッ!!
宇佐美は水島の妙な説得力に負けて、掴んだ襟を離し水島を開放する。
やっと呼吸が自由になった水島はしばらくハアハアと荒い呼吸を繰り返した。



「―――――――――――――――あっ、孔蛾さん?」

突如、春日子が前を指差してそう声を漏らす。

「―――――――――――――――――――――――――――――えっ!?」

水島に気を取られていた宇佐美は前を向く。

「――――――――あ!?孔蛾さん!!」

宇佐美の目の前に墓地が広がり、その墓地の中に一人ポツンと孔蛾の姿があった・・・。
何時ものだらしない、よれたシャツに古いジーパンではない、きちんとクリーニングにアイロンをかけられた黒の喪服を着ている。
髪は染めたまんまだが、手入れされポニーテールにしている。
こうして綺麗にしてみると、孔蛾もかなりの男前だ・・・・。

―――――――――― ―異空霊園、ここは墓地。
気がつけば春日子達三人はいつの間にか道を抜けて、目的の地へたどり着いていた。
そして、そこに間違いなく孔蛾はいた。
水島が仕切りに勘!と喚いていたが、勘は見事に当っていた・・・・・。

孔蛾は塚原の墓前に手を合わせ、静かに目を瞑っている。
おそらく水島の言うように、一日中この二年間のことを塚原に報告していたのだろう。
――――――――借金抱えて、色んな事に疲れて自殺未遂したこと。
――――――――少女に命を助けられたこと。
――――――――命を助けられた少女を好きになってしまったこと。
――――――――このまま少女と一緒にいることが幸せだと気づいてしまったこと。
――――――――だから・・・・少女の前から消えたこと。
――――――――誓った通り・・・・全部の幸せを捨てたこと。

これが償い。幼馴染の自殺をとめられなかった自分への。
―――――いつの間にか小さな白い羽根が一枚、孔蛾の靴の上にひっそりと載っていた。

「―――――!羽根?」

孔蛾は羽根に気づき、それをそっと優しく手に取り、スーツの内ポケットにしまう。

「―――――――― ―お〜いっ!!!マコりん!!俺だよ!俺!ダチの水島が会いにきましたぜぇ!!」

水島は孔蛾に向かって大きく手を振って呼ぶ。
春日子と宇佐美はなんだか見つかったらまずい気がして、墓地の直ぐ傍の木陰に急いで隠れた。

「―――――――― !!?みっ、水島!?みずしまぁ!?」

孔蛾は聞き覚えのある声に反応して後ろを振り向く。
そこには・・中学時代、散々迷惑かけられ悩まされた友達の姿があった。

「―――――――オイ!?水島、何でお前がここに!?」

――― −一体どうなっているんだ?
俺がここにいることは誰も知らないはずなのに・・・・。

「マコりん!捜したよ!!つーか久しぶり!!」
「―――――捜したって、オイ!お前確か"中国に行っていた"はずじゃ!?」
「マコりんの馬鹿野郎!!確かに俺はドラゴンボー●を探しに中国までいっていたが、
宮内の弟の目撃情報を聞いて日本に戻ってきたんだよ!!
てか、先週にわざわざ凄いものが中国の俺のアパートまで送られてきたんだよ!!
それ見せるためにマコりんを捜していたようなものなんだYО!!ヘイ!チェケラッチョ!!」
※余談ですが、水島君のドラゴン●ール探しは本気です。

水島は遠く離れた中国の哈爾濱( ハルピン)に滞在していた。
そして先週、ありえない人から、ありえない物が届いた。
そしてその三日後、友人の宮内から「弟が、孔蛾らしい人を見たって!!」という情報を聞く。
水島は、これは天から与えた運命と思い、孔蛾に会いに急いで日本へ帰国したのだ。

「―――――マコりん!!」

水島はダッダ!と走り、孔蛾の目の前に仁王立ちする。
その妙な迫力が気持ち悪くって孔蛾は「――なっ、何だよ・・・おまえ」と怯む。

「――――――――――いいか、マコりん!心して聞け!!これから俺が言うことを!!」
「―――――はっ、はぁ!?」
「―――――いいか、マコりん・・・」
「・・・何だよ」
「・・・・・・」

―――――ガサツ・・ガサガサがサッ!バッ!!
塚原は素早く背負っているリュックから、アルバムを取り出す。
―――――そのアルバムは・・・定食屋で春日子と宇佐美に捲って見せていたアルバム。

「―――――アルバム?」と孔蛾が呟く。

「――――――― ―マコりん、塚っちゃんは"生きている"」
「!!?――――――― はぁ!?」
「―――――――塚ちゃんは生きているんだよ!!間違いなく!!」
「はぁ!!?――――――― はぁ!?はぁ!!!?」

―――――――はぁ!?何言ってんだ、行き成り・・・!?突然人の目の前に現れてアルバム出して。
塚原が生きているだと!?アホか!!
突然の水島の言動に孔蛾は困惑する。

「―――――――馬鹿か!!冗談もほどほどにしろ!!お前頭悪すぎてついに壊れたか!?アホ!
死んだ人間が生きているわけ無いだろうが!?通夜も葬式もしといて!!!」
「――――――――それが生きているんだよ!!この写真を見て!!」

水島は取り出したアルバムの最後のページを孔蛾に広げてみせる。

そのページは春日子も宇佐美も見ていない・・・ページ。

「――――――――!!!!!?つ、塚原っ!!?」

孔蛾はそのページを見せられた途端、顔が変わった。目を大きく見開き息を呑む・・・。
――――アルバムの最後のページに載っていた物・・・・それは、塚原が写っている真新しい写真。
写真はつい最近撮られた様な物で・・・・妖艶な微笑を浮かべた塚原がアップで写っている。
――――――――信じられない・・・死んだはずなのに!
孔蛾はあんまりにも衝撃過ぎて、愕然とし「――――うそだぁ・・・」と呟く。

「―――――――このアルバム、高校の時に塚っちゃんに貸したんだよ。そしてそのまま返してくれなくってパクられた!!
俺は馬鹿だからそんなことはとっくに忘れていた。それら月日が経ち、ある日このアルバムが手元に帰ってきた!!
わざわざ中国いる俺のところまで!!すげぇ一体どうしたんだろう森の妖精の仕業かと、送り主の住所と氏名確認したら 、
なんと塚っちゃんの名前が書いてあった!!住所は書いていなかったけど・・・。
俺は度肝を抜いた!!死者からの贈り物に!!そしてアルバム捲れば最後ページにありえない物が貼ってあった!
今年の日付入りの塚っちゃんの写真!なあ、ありえないだろ!?
だって貸す前のアルバムの最後のページは何も貼ってなかったんだぜぇ!なのに戻ってきたら最新の写真が貼ってある!!」

―――――水島はゼイゼイと息を切らしながら必死に喋る。

「多分、この写真はアングルからして自分で自分を撮った物だ・・・そんで自分でアルバムに貼って俺の中国の住所調べて送った」
「―――――それは・・・それは一体何の為に?」
「・・・・わからないけれど・・・多分アピール?自分は生きているっていうアピールだと思う。
如何してこういう方法をとったかは不明だけど・・・」
「なんで・・・なんで今更そんな事を」
「マコりんは式場の手前で立っていただけだから、式の内容は全然知らないよね?
実は不可解な通夜と葬式だった・・・・塚っちゃんは自分の事を多くは語らない人だったけど"家族も親戚も一人もいない"って以前言っていた・・・なのに式には塚原麗の"伯父伯母夫婦と名乗る親戚"が喪主を勤めていた・・・・更に従兄弟と名乗る人もいた。
それに俺とか宮内とか・・・その他の達友達とかが、最後のお別れに塚っちゃんの顔を拝ませてほしいとお願いしたら頑なに拒まれた。
だから誰も塚っちゃんの死に顔を見ていない・・・・火葬も拒まれて誰も立ち寄っていない。
ただ・・・塚原が自殺したっていう情報だけが流れた。
俺は葬儀屋の息子だからそのへん変に気になって、少し探りを入れてみたけど・・・塚っちゃんの葬祭に関しては無理やり消されたみたいに、不自然に何も無い」
「―――――どうなっているんだ・・・それ」
「俺が思うに、塚っちゃんの自殺は本当だと思う・・・ただし"未遂"。
塚っちゃんの自殺は未遂だった・・・・未遂で生きていた・・・きっと本人も命が助かっていたとは思っていなかった。
なのに、どういう訳が・・・死んだということになっている。それは予期せぬ"誰かの"仕組みと策略の御蔭で・・・・・」
「―――――いくらなんでも話が膨らみすぎじゃないか!?」
「そうかも・・・しれないけど。そうだ!確かめよう!!」
「―――えっ!?確かめるって!?どうやって!」
「―――――簡単だ!骨壷を開ければいい!!それで骨が入っていなかったら生きているって事だよね?」
「――なっ!?骨壷を開けるって!?馬鹿!!そんな罰当たりなことが出来るか!」
「やるんだよ!!確かめるんだ!!!じゃなきゃマコりんは、何時まで経っても不幸のままじゃん!!」
「―――――水島!」
「いいか、マコりん!マコりんの幸せに、塚っちゃんの生死は関係ない!
塚っちゃんが死んでようと生きていようと関係はないだ!!
人は誰だって幸せになりたい生き物なんだ!!それに逆らっちゃ駄目だ!!
全部の幸せを捨てて罪を償うなんて、塚っちゃんの単なるワガママじゃんか!聞くなよ!
そんな自分勝手なワガママを!マコりん、わかれよ!
マコりんが幸せにならないと、幸せになれない人だってこの先いるんだよ!!!馬鹿!
さあ、骨壷開けろよっ!!!」

―――――強烈な水島の説得。
―――――マコりんが幸せにならないと、幸せになれない人だってこの先いるんだよ!!!という水島の言葉が深く心に突き刺さる。
――――――――――孔蛾はようやく目が覚めた。

「――――――――――!わかった、開ける!!」

孔蛾は骨壷を開けることに決心し、ガタン!!と、目の前にある塚原の墓から骨壷を取り出す。
―――――――そして、その骨壷をカパッ!と急いで開けた。

「――――――――――!!!?」
「!――――――!!!?」

―――無い。
無い無い無い、無い。
―――――――――――――――――――――――――――――壷の中に・・・骨は無かった。
一本も。
無い。


「・・・・・ない・・・骨が、無い」
「・・・・かっ、からっぽ!!」

まさかとは思ったが、二人はこの現実に恐怖と衝撃を感じた・・・・。


――――――――――――――――――それじゃ、塚原は生きている!?
骨が無いということは・・・生きているという事になる・・・。
それにしても不可解。骨壷はあるのに骨が無いなんて・・・・・・。
一体如何して、骨が無い!? ――――――――――――――――――本格的に謎が深まった。



―――― 一方、近くの木陰に身を隠している春日子と宇佐美は、じっと二人の様子を窺っている。

「――――さっきから、あの二人何話しているんでしょうね?ここだとイマイチ会話が聞きづらい」
と宇佐美がぼやいていると、隣の春日子が「――――宇佐美くん、ボク孔蛾さんに言ってやりたいこと事があります!」と言って勢いこんでいた。

「――えっ?」
「ボク、今回の孔蛾さんの失踪許せません!自分勝手です!ボクにはガツンと言ってやる権利があるので行って言ってきます!!」

春日子は言いたいことがあり、それが我慢ならず木陰から孔蛾の元へ一直線に向かって走っていた。

「――なっ!えっ?ちょ!ちょと、いいの!?」と言う宇佐美の言葉なんて耳に入っていない。



「―――――――――― −孔蛾さ―――ん!!」と叫んで春日子が孔蛾の元へと向かってくる。

「――――――――――!!?は、春日子!?」

――――――猛スピードで駆けてきた春日子に孔蛾は驚く。



――――――はぁ?何でここに春日子が??

もう次から次へと沢山ショッキングなことがありすぎて、孔蛾の思考回路はパンクしそう・・・。

「―――――!!?オイ!春日子!?春日子なんでお前がここに?」
「――――――うるさい!そんなことは今いいんです!!」
「オイ!」
「オイじゃない!ボクは言いたいことがあります!黙って聞きなさい!!孔蛾実くん!!」
「――――――えっ!?」

春日子は凄く怒っていて・・・何故か・・・口調が先生みたいになっている。 そして、孔蛾を"くん"付けで呼ぶ。

「――――――孔蛾実くん、貴方という人は本当に最低でどうしようもない人ですね!
世話になっておきながら、あんな汚い字の置手紙一つ置いて失踪するなんて!!人間として最低です!
何も言わず人前から消えるなんて!!訳も理由も言わないなんて、置いていかれたボクやカヨ子さんの気持ち考えたことありますか!?
どんなに心配したかわかりますか!?カヨ子さん泣いていたんですよ!!あのカヨ子さんが!
ボクは孔蛾実くんが・・・孔蛾さんが・・・また・・また自殺しようとするんじゃないかって、心配で、心配で・・・堪りませんでした!!!」

ポロポロと春日子の目から涙が溢れ出る・・・・・・・・。
我慢して張り詰めていた緊張が・・・一気に崩れていく。

「―――もし、もう一度、自殺なんて詰まんない事を孔蛾さんがしようとしていたら、
ボクは馬鹿者!と一喝し、命を粗末にしてはいけません。命を粗末にするとバチが当たるよ!って、
もう一度言ってやるつもりでした!!そして、一発殴ってやるつもりでした!!駄目ですよ!死んだら!!
孔蛾さんの命は孔蛾さん一人だけのものではありません!僕が助けた命でもあるんですから!!
ボクは孔蛾さんに死なれたら不幸になります!せっかく助けた命です!生きていてほしいです!
生きていてくれたら僕は幸せです!!!孔蛾さん、ボクは迎えに来ました!帰りますよ!!カヨ子さんのところへ!」

―――――マコりんが幸せにならないと、幸せになれない人だってこの先いるんだよ!!!

孔蛾の脳裏に再び水島の言葉が甦る・・・・そして、急にあの人の言葉も。

―――――幸せは誰もが手に入れる"チャンス"よ。

喫茶店での今井絵理加の言葉。



――――――――――今日一日中、塚原の墓を参ったら・・・・明日は遠い何処かへ消えるつもりだった。
二年前この町を出て行ったと時みたいに・・・ふらっといなくなるつもりだった。
二年間・・・・色んなところを彷徨った。借金取りに追い回されながら。
―――――ある日、それに疲れた。
死にたくなった。
死のうと、目に付いた橋にロープ括って首吊って死のうとした。
そしたら・・・天使が微笑んで、俺を助けてくれた。



――――― ―ああ、そうか・・・また俺の前に天使が現れてくれたのか。

塚原、決めたよ。
もう君のワガママは聞かない。
俺は、自分の幸せを手に入れるよ!取り戻す!!





「―――――死なないよ」
「!――――――――――!?」
「―――――俺は死なないよ、自殺なんてしない。君の言うとおり、君が助けてくけた命だ。
俺は生きるよ、君の幸せの為に・・・・・・・」

気がつけば孔蛾は、春日子をギュッと強く胸に抱きしめていた。

「――――――――――!?孔蛾さん?」

・・・突然抱きしめられた春日子は呆然としていた。
如何していいかわからず、兎に角泣いて真っ赤に充血した目を擦る。
春日子にとって、この抱きしめは親が子を抱きしめる抱擁に近いものだった。
だけど、孔蛾にとっては違う。この抱きしめは・・・愛する人、恋人を抱きしめる事と同様だった

「――――帰ろうか、迎えに来てくれたんだから・・・帰ろう家に、一緒に手を繋いで帰ろう。岡松精肉店へ」

――――――――――昔、誰かが俺をヒマワリと呼んだ。
どうして、俺がヒマワリなのかはわからない。
だけど、俺がヒマワリならこの子(春日子)は太陽だ。俺を唯一照らす特別な存在・・・太陽だ。
俺はこの先ずっとこの子の方を向いて咲き続けるよ。

――――――人は・・・弱い、弱い、弱い生き物。
だけど、愛を手に入れたに人間は・・・強い、強い、強い生き物。

おそらく彼は、強い生き物になる。
――――――天使の羽根を手に入れたから。



「――――――――――――マコりん」

春日子を抱きしめる孔蛾を、赤い顔(感動して泣いた)して水島が見ていた。
そして、聞こえない小さな声で独り言を呟く。
「・・・・マコりん、巨乳ロリータお役人の事が好きなのね・・・・・マコりん、
でも・・・・犯罪じゃんロリは・・・・あと、俺・・・この後SМバーに飲みに行くから、勝手に帰るね」と。

※巨乳ロリータお役人=水島の中での、春日子のあだ名。密かに付けたあだ名である。




忘却の水色空は忘れられても、忘れはしない。
全部を全部遠く繋がっている宇宙へと刻んで繋げている。

ただし―――――彼の存在は・・・・忘れ去られていた。

「―――――――――――どうしよう・・・俺、出るに出れない」

木陰にぽつんと立つ尽くす一人の少年・・・・その名は宇佐純。
彼は出るタイミングを逃し、出るに出れなくなっていた・・・・。

――――――――――――――――――――――哀れ。



この後、孔蛾と春日子と宇佐美は何故か三人手を繋いで帰りました。
水島君はいつの間にか消えていました。


ラビュリントス・・・ギリシャ神話に出てくるクノッソス宮殿の地下にある迷宮。
そこに迷い込んだ者はけして帰ってくる事はない。
だが、アリアドネからもらった麻糸玉を使い脱出した者がいる。
その名はテセウス。彼ただ一人だけが生きて帰ってきた。


これは遠い昔の伝説・・・いや、神話である。ギリシャの。



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