前頭連合野/46野のORIGINAL NOVEL
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※著作権は前頭連合野/46野の管理人、怪物の顔(鮭)にあります。
――――――――――――――異空町―――異空町――次は異空町です。
「――!!」
車内にアナウンスが響く。宇佐美はそれにハッと気づき目を覚ます。
つい、カタンコトンという揺れが心地よくって転寝してしまっていた。
宇佐美は水島に言われた異空町で降りる。
「電車に一度も乗ったことがない」と言っていた宇佐美だったが、なんとか無事目的の地へ着いた。
異空町、異空町駅は、小さく古く周りが林だらけのド田舎駅。
しかし、地元の人は結構利用している様でちらほらとそれなりに人が居る。
―――――――――――――着いたらそこで待っていろよ!こっちが着いたそっちのら駅まで迎えに行くから!
そう水島が言っていたので、宇佐美は大人しく駅のベンチで迎えを待つ。
待つ、10分待つ。待つ、30分待つ。待つ、一時間待つ。
待つ・・・・浸すら待つ・・・しかし待っても、待っても来ない。
―――――ついに待つこと2時間、「―――――宇佐美く〜ん」と春日子が手を振ってやってくる。
その後ろに水島。やっとこさ、二人が迎えに来た。
待ちに待たされ続けた宇佐美は完全に気分を悪くして、「遅い!!遅すぎです!!いくらなんでも遅すぎる!!」と怒りの言葉を吐いた。
「―――ゴメン!ゴメン!バイクなもんで!!」
水島はケロッと答える。水島は人を待たせて悪いとあまり思わないタイプ。
余談だが小学校時代、毎日必ず平気で遅刻していた。中学になって孔蛾に叩かれまくり(調教)少々直った。
「――――まぁ、腹減ってんだろ?もう十二時だし!丁度いい、飯つれてってやるよ!」
水島はすぐそばの駐輪所にバイクを止め、「早くこっちこいよー!」と言って二人を急かす。
「――――いいんですか!?そんなのん気な事言っていて!
いくら居場所の見当がついているって言っても、本人が動いちゃっていたら間に合わないじゃないですか!
ご飯よりも先に孔蛾さんを捜さないと!孔蛾さんを!」
あまりにも、のほほんとしている水島に春日子は怒って荒っぽくそう言う。
しかし水島は落ち着いたまんまで「――――大丈夫〜大丈夫!マコりんは今日一日あの場所から"絶対動かない"から!」と言った。
「何ですか!?その、あの場所って!ボクは見当じゃなくって、直接具体的な場所を知りたいです!教えてくださいよ!
それに何で、絶対孔蛾さんがそこから動かないってわかるんですか!?その根拠は?
そもそも、あなた本当にわかっているんですか?言い方も説明も全部適当でいい加減すぎます!
今更ですが・・・なんか怪しいです」
キッと春日子は水島を酷く睨む。そしてその目の眼差しは、疑いの眼差し・・・・・・・。
「なっ!オイ、疑うなよ!疑っちゃいやだよぉっ!!心が傷つくだろ!
本当に知っているよ、わかっているさっ!――――具体的な場所は墓地!マコりんはこの先5キロの墓地におりますげなっ!!
何で絶対そこから動かないかと申しますと、説明すると長くなるので後で教えます!
兎に角、ガッペ俺はわかっているの!マコりんが何しているかぐらい!
俺はマコりんとは、あんたらより付き合い長いんだよ、金魚の糞ぐらい長いんだよ!
信じなさい!信じて!!信じてくだせぇ、おねげぇ〜します!
巨乳ロリータお役人さん!巨乳ロリータお役人さ――ぁん!!」
あらぬ疑いをかけられ、水島は冗談じゃないよとうろたえるも、手を合わせ、真心込めて「信じて」と訴えた。
彼は真剣だった。途中わけのわからない方言と・・・・・最後「巨乳ロリータお役さん」と意味不明な事を言ったが。
※余談だが、金魚の糞はそう長くないと思うよ、水島くん。
「・・・・ごめんなさい、疑ったりして・・・信じます、ボク貴方を信じます」
春日子は水島の必死さと"何か"に怯み、哀れみ・・・一気に怒りが覚めた。
隣の宇佐美はドン引きしている。
「――――よし!なら、早速ご飯を食べに行こう!!慌てない、慌てない、慌てても良い事ナイナイ☆」
何事もなかったかのように水島のテンションが一気に元に戻った。いや、一段とハイテンションに・・・。
「―――――――なっ!」
「――――――ヴぇ?」
―――――――――――――この人切り替えはハヤッ!!!!!
春日子と宇佐美はその切り替わりの早さに驚き、呆れた。そして、水島についていけるか"突如不安"になった。
水島はそんなことお構いなしに「こっち、こっち!ここにうまい天丼出す食堂があるんだって!」と一人はしゃいで駅裏の細い路地へと入っていく。
春日子と宇佐美もしかたなしに水島の後ろをトボトボとついていった。
途中宇佐美は「はぁ〜」と思わず深いため息ついた。春日子はずっと下を向いて歩いた・・・。
***
天丼、天丼定食、天ぷらうどん、カレー、カレー大盛、ラーメン(しょうゆ)、ラーメン(とんこつ)・・・・
「――――――――どれも、おいしそうですよね〜どれがいいでしょうかねぇ?」
郷愁漂う定食屋の中、春日子が壁に貼ってあるメニュー表を眺めて言った。
水島は迷う春日子に「天丼が美味いよ、天丼が!」と言い、天丼をすすめる。
「そうですか、じゃーそれにしようかなぁ〜」
春日子がそう呟くと、「ご注文はお決まりですか?」とグットタイミングで厨房から割烹着のおばちゃんが出てきた。
春日子はハッと一瞬驚いた後、「天丼一つお願いします・・・」と注文。
それに続いて宇佐美も「僕も天丼一つ」と注文。
最後に水島が「俺も天丼だけど、天丼の"天ぷら抜き"でお願いします!」と注文した。
―――――――――――!!!?
――えっ?今なんて?
――天丼の天ぷら抜きですって?
―――はぁ?
――――――――――――――――何言ってんだコイツ?
水島の考えられない注文に、春日子、宇佐美はもちろん、この店の客全員が「こいつ馬鹿か?」そう思った。
「―――はぁい?」
・・・・・思わず店員は聞き返す。
「えっ?だから、天丼の"天ぷら抜き"でお願いします!」
聞き返された水島はオバちゃんだから耳が遠いのかと勘違いし、
声を大きめにゆっくりと喋って、してもう一度注文しなおす。
しかし、「はぁい?」とまた店員は聞き返す。
二回も聞き返されてイラつく水島は「だ・か・ら!天丼の"天ぷら抜き"!!」とキツく言って注文をぶつける。
すると、店員の顔がみるみる熱く赤くなっていく。体はワナワナさせ頭から湯気を出す・・・・。
そしてついに、ヤカンが沸騰してカタカタピーピー鳴るように店員もカタカタピーピー鳴った。
「―――何言っているんだい!!あんた!いい加減にしておくれ、うちを馬鹿にしているのかい!?
天丼の天ぷらはうちの看板だよ!!命だよ!なのに、天丼の天ぷら抜きなんて頼んでどうすんの?
天丼の醍醐味無しじゃない!ただの天汁丼じゃん!!冗談じゃないわよ、天丼の"天ぷら抜き"なんて注文!
こんな屈辱絶対に受け入れられないわ!
このテーブル(春日子達のテーブル)のお客様は全員天丼ね!!わかった!ハイ、天丼3つ!!!」
―――――――――――――――キレた。店員が切れた。切れちまった。
ぶち切れちまった店員は素早く伝票に『天丼×3』と書き記し、バン!とそれをテーブルに置く。
――――――おかげでテーブルがガクン!と揺れた。そして定員はさっさと厨房へ戻っていく。
何か言い返したい水島だが、言い返す隙が1ミクロンもなかった。しかたなく、強張った表情のまま口黙る。
春日子と宇佐美は"私たちは他人です"といった感じでひたすら水島から顔を背け視線を外す。
てか、存在の空気を消す。
それまで店の和気藹々としていた雰囲気が一気に崩壊した。
―――――――――――――――水島一人の力で。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・・・」
しばらく長い沈黙が続く。
―――――――八分後。
「―――――――あの・・・あのさぁ〜」
この沈黙に耐えられなくなって水島が口を開く。
「・・・・なっ、なんですか?」
嫌々春日子が言葉を返す。
「・・・・その・・・マコりんの事なんだけどさ」
何を話し出すと思えば、孔蛾の事。春日子は「―――!あっ、はい」と気を取り直して熱心に聴く準備をする。
「―――――――まず、コレ!見てくれ!!」
「―――――――!?」
―――――――ガサッゴソ・・・ドン!
突然水島が背負っていたリュックからドンと分厚い大きな本を一冊取り出す。
「・・・・アルバム?」と春日子が呟くと「そう、アルバム」と水島が答える。
――――――水島が出した物、それは『よき思ひで〜Part15』と書いて貼られたタイトルのアルバム。
この絶妙なタイトルのアルバムに「・・・これが如何したんですか?」とつい宇佐美が口を挟む。
「まあ、兎に角開いて捲るから一緒に見ようぜぇ」
水島はそう言うとピラリとアルバムの表紙を捲る。
どれどれと春日子と宇佐美はアルバム覗く。
学ランを着た一人の少年のアップ写真が一ページ目に一枚貼ってあった。
「―――――あっ!もしかしてこれ孔蛾さん?ねぇ、孔蛾さんでしょ?この焼きソバヘアー!」
写真を見た途端春日子がそう声を上げた。
「ほんとですねぇーこの焼きソバヘアーは間違いなく孔蛾さんだ」
つられて宇佐美も言う。
水島は「うん、そうだよ!中二のマコりん」と答えた。
「―――――はい、天丼3つ!」
その時、丁度さっきの店員が現れ、出来立てホカホカの天丼をテーブルに三つ置いて行った。
三人は腹が減っていたので、アルバムを覗きつつ天丼をかきこむ。
アルバムに貼られ孔蛾は、今と違ってあどけない顔をしていた。
「なんか幼い顔をしていますねー」と宇佐美が言う。
水島は「あははっ!そりゃー十年前の顔だもん、当たり前だよ」と笑って言った。
「孔蛾さん眼鏡かけていたんですね〜」
春日子は十年前の孔蛾に話しかけるように、写真の孔蛾にそう言った。
「ああーウルトラセブ●眼鏡(スケルトンタイプ)でしょ?」
水島が懐かしそうに語りだす。
「マコりんそれがトレードマークで、あだ名が、セブン、セブン隊長、セブン委員長とかだった!
そんで、俺が忘れ物とか失敗する度にグーで殴ってくるんだわーそれがこれまた痛くって、痛くって、痛くって・・・
頬がえぐられるように痛くって・・・痛すぎて、俺ドMなんだけどさーあの痛みはどんなドMでも快感と感じられないなぁ・・・嗚呼、本当に懐かしいな、マコりんが殴る瞬間そのセブン眼鏡が反射してキランって鋭く光るんだぁ・・・キランって・・・・」
最初は楽しい思い出だったのに途中から暗黒な一面が甦る・・・・。気づけば水島は遠い目をしていた。
どうやら孔蛾のバイオレンス(暴力)はこの頃から既に存在していた模様。
宇佐美は「うっうっ・・・ヴヴ゛ッ」と嗚咽していた。話を聞くだけでもらい泣き。
宇佐美にはわかるのだ・・・・水島の気持ちが嫌というほど。何故ならば、宇佐美も孔蛾の拳を浴びた男。
その痛みは絶対に忘れられない・・・・・・・トラウマ。
「・・・・・・そ、それにしても孔蛾さんって眼鏡かけていると随分頭良さそうに見えますね!」
沈んだ空気を換えようと春日子が頑張る。
「何!?何言ってんだよ!お譲ちゃん、いいかい!マコりんは頭良さそうじゃなくって、頭が良いの!!
それも、すっごく良いの!!俺は寝ていて当たり前に0点とっていたけど、マコりんは寝ていて当たり前に満点とっちゃうの!!
てか、テスト満点しかとったことが無い人なの!!だから"異空町の神童"って呼ばれていて町じゃ有名天才児だったの!!
メンサに入れちゃう頭脳もってんの!!わかった?マコりんは超天才なの!!
ついでに、人を叱るときも説得す時もわざわざホワイトボードとか黒板とか使ってたっ!!」
※メンサ=ローランド・ベリルとランス・ウェアによって1946年にイギリスで設立されたクラブ。
会員をIQが高い者に限定したクラブで本物の天才しか入れない。
かの有名なアイザック・アシモフもかつてこのメンサのメンバーであった。
春日子の一言は一気に水島を激しく熱気させた。
この事態は予期せぬ事態・・・・・。
「えっ!?そっ、そんな・・・・そんな熱くならなくっても・・えっ!えっ!」
如何しようと春日子は戸惑う。
宇佐美は「はぁ?孔蛾さんが天才?そんなアホな、人の名前も聞き間違える人がとてもメンサ入れる天才なわけがない!!てか、
天才が肉屋でコロッケ揚げているわけがない!!」と水島の発言を強く否定してやった。さっきまで同情していたのに・・・宇佐美。
「な〜にィ!?信じないのか!?」
水島は聞き捨てならないと宇佐美を睨む。
「ええ、信じませんよ!信じるわけがない!!」
宇佐美も水島を睨み返す。
二人の間にバチバチと火花が散る・・・・・・・。
水島は「なんで、何で信じねぇーんだよぉ?」とドスの利いた声を出す。
宇佐美は「証拠は?証拠、証拠はあるの?」と冷ややかに訊ねる。
「証拠か・・・・・・・」
「しょうこ、しょーこ」
「・・・・・・しょうこ・・・」
「証拠」
「しょーこ、しょーこ・・・しょうこ、相田翔子・・・」
「コラ!ふざけんなっ!」
「証拠!・・・・証拠なら・・・・証拠なら・・・・・・・あるよ☆」
「―――――!!あるんかいっ!?」
「あははは☆」
宇佐美の引きつった顔の前で、水島はアルバムをパララララッ♪と捲り・・・・そして最後から二番目のページをポンと開いてみせる。
「はい、これが証拠☆医大生時代のマコりん!!」
水島はとびっきりの笑顔でそう言った。
「―――――――なっ、何!!?何これ!!!!」
「―――――――だっ!?誰!!?誰なんですかこれ!!あっ、孔蛾さん?これ、孔蛾さん!?」
「すっすごいっ!!眼鏡かけている!」
「髪染めてねぇー!!」
宇佐美と春日子は、水島によって開かれたそのページに勢いよく食いつく。
そこには、白衣着て首から聴診器ぶら下げた、三年ほど前の孔蛾の写真が貼ってある・・・・・・・。
孔蛾は四角い黒のフレーム眼鏡をかけ、黒髪をオールバックにしている。
その姿は大変凛々しくかっこよく、インテリ系の頂点を極めた知性漂う若き青年・・・。
「・・・・これ、これ本当に孔蛾さん!?ほんとに、ほんとに孔蛾さん?ねぇ?孔蛾さん!?」
春日子は何度も「孔蛾さん!?」とアルバム指差して水島に聞く。
水島は、にんまりと微笑んで「うん、マコりんだよ」と答える。
「かっ・・・髪型一つで全然違う・・・」
春日子の頬が薔薇色に染まる・・・・・・・迂闊にも過去の孔蛾の姿に見とれてしまっている。
一方、宇佐美は見ちゃいけないものを見てしまったかのように青い顔している。
「医大生・・・・肉屋の孔蛾さんが医大生・・・」と呟く。
――― ―肉屋の駄目従業員、孔蛾がいだいせい・・・・・・・医大生。
信じられない事実に遭遇してしまって、確実に宇佐美坊ちゃまは気分を害された。
「・・・・・それにしても、すごい・・・今の孔蛾さんとこの写真の孔蛾さんはまったく違うっ!!
同一自分物だが同一人物に見えない!!顔は何一つ変わっていないのに!!今と昔の落差って・・・・・・」
宇佐美は過去と現在の間に一体何があったのが頭の中で精一杯想像してみるも、結果何一つ想像できなかった。
想像しようも・・・あまりにもギャップがありすぎて想像力に限界が・・・。
するとその横で春日子が「・・・そうですよね・・・・今と昔に何があったんだって話しですよね。
それにしても、この昔の孔蛾さんは清潔感があります・・今の孔蛾さんと違って
、とても"一週間同じシャツを着続けている"人には見えません。(カヨ子に殴られるまで着続ける!!)心のアカが無さそう。
それに無欲そうです・・・今の孔蛾さんと違って、煩悩の塊には見えません。
買い物頼んだら絶対におつりを返してくれないという"物欲"はもちろん、コンビニでアダドルトDVDをやたら買い込み、
そ知らぬ顔で夜な夜な居間で見ている"淫欲"も無さそうです・・・・・・
もう完璧な聖人君子にしか見えません・・・"昔の"孔蛾さんは」と淡々と喋った。
今度は春日子が遠い目をする・・・。宇佐美も遠い目をする・・・。
水島が「・・・・今のマコりんって・・」と呟くと、春日子は「ただの"駄目男(だめお)"です」と即答した。
「―――――――駄目男!!!マコりん!!」
水島は泣いた・・・・・・・・ブァッと涙を溢れさせて泣いた・・・。水島は知らない・・・過去の孔蛾しか。
「・・・・今のマコりんは駄目男かもしれないけど、お穣ちゃんの言った通り昔は聖人君子だったんだよ!
マコりんは、強くって優しくって頭も良くって確りしていて、みんなの人気者だった。
人の悪口絶対言わないし、見捨てないし、困って泣いていたら助けてくれるヒーロー」
水島はおしぼりで涙を拭きながらそう語る。
「―――――――だからかもしれない・・・・だから・・・あんな目に・・・」
涙でしょっぱくなったおしぼりを置くと、水島はまたアルバムをパララララッ・・・と捲る。
そして真ん中らへんのページを開き、「・・・このページに貼ってある上下二枚の写真を見て、あっ!最初上の方から」と言って春日子と宇佐美に見せる。二人はそのページを覗く。
上下に貼られた二枚の写真、上に貼られた一枚はちょっと変わった雰囲気を写していた。
紺の衣装を身に纏い、髑髏を手に妖艶に微笑む人物。
綺麗な一重が特徴で坊ちゃん狩り風のショートカットが良く似合っている。
美しいアジア美人だ。
「―――――――綺麗な女の人・・・・」
思わず春日子がそう声を漏らすと、「・・・・・女の人に見える?」と水島が尋ねる。
春日子は「うん!見える、だって女の人でしょ?」と答えた。
しかし、「いいや、男。男なんだよ。彼の名は"塚原 麗(つかはら うらら)" 名前も麗って女みたいだけど男。
ピアノがスッゴイ上手くって、どんな難曲でも弾けちゃう天才!マコりんの幼馴染なんだよ」と水島が言う。
それを聞いた宇佐美が「―――――――えっ!?男!?この顔で?マジかよ・・・詐欺じゃん」と顔を引きつらせた。
「つーか、何このポーズ・・・なんで髑髏・・・」
「――――怪しいでしょ?この写真。俺が撮ったんだよ、写真部だったから。高校の文化祭に展示した時の一枚。
塚っちゃんにモデルになってもらったんだー!テーマは『アジアンビューティー午後の地獄絵図』おかげで金賞とったよ!!」
水島は鼻高々に写真の説明をする。
「オイ!別に自慢とか聞いてないし!!――――で、何でこの人を僕等に見せるの?」
「え〜☆まーその一枚は、塚っちゃんについての紹介と俺の自慢なんだけどー、
ぶっちゃけ話に関係あるのは下の中学時代の写真〜まー見てみて・・・」
ホレホレと水島は下の写真を指差す。
下に貼ってある写真は修学旅行の時に撮られた一枚。
お土産売り場で笑う五人の男子生徒が写されている。
「――――これ、修学旅行の時の写真なんだけど、真ん中の一番目立っているのがマコりん、マコりんの左で鼻たらして変顔しているのが俺、俺の隣で仏像マスクをカメラに見せているのが宮内って奴で、一番右端で抹茶アイス食べているのが坪井って奴、そしてその横・・・"マコりんにベッタリくっ付いて離れない"奴が塚っちゃん」
写真の中の塚原は・・・最初見た上の写真とまったく変わらない妖艶な微笑を浮かべている・・・。
「・・・・なんかゲイっぽい・・・・この人」
宇佐美は言っちゃいけないと思うも、塚原を見てそう口にしてしまった。
「・・・ゲイじゃないけど、ゲイだよ!塚っちゃん」
「――――!?何それ!!」
水島の「ゲイじゃないけど、ゲイだよ!」という発言に宇佐美が突っ込む、春日子も「何ですか!?それって!」と続けて突っ込む。
「・・・う〜ん、俺、頭むちゃくちゃ悪いからちゃんとした事は言えないけど、塚っちゃん・・・塚原は"男の人しか愛せないとかじゃなくって、
愛したのがマコりん"なんだよ。つまり、恋愛として好きになった相手がマコりんだったって事」
水島は普段使わない脳みそを一生懸命使って春日子達二人に説明する。
「――――えっ!?じゃ・・・じゃ、孔蛾さんもゲイ?ゲイってことなんですか!?」
春日子は顔を赤くしてそう言う。
「――――うげぇっ!ぐっぼ・・・コホッ!」
宇佐美が青い顔して吐き気を催す。春日子の「孔蛾さんもゲイ?」発言のせいで、
一瞬色んな想像が彼の脳を駆け巡った・・・結果、物凄く気分悪くなった。
一生懸命吐かないように宇佐美はノドを押さえる・・・涙目で。
「・・・なんか勝手に誤解しちゃっているけど、"マコりんはゲイじゃないよ、異性愛者!
"誤解しないであげて・・・・一方的な塚っちゃんの片思いなの!!」
水島がほろりと涙を流しそう言うと、春日子はダークな顔して「ですよねぇーコンビニでアダドルトDVDをやたら買い込み、そ知らぬ顔で夜な夜な居間で見ている人ですもんねぇー」とぼやく。
そしてその横で、まだ青い顔した宇佐美が「本当にしょっぺぇー人だな・・・・」と呟く。
―――――――――――――――――――――まっ、マコりん!!!
水島はこの二人の態度に心引き裂かれそうなぐらいの痛みをわずらった・・・・。
「いいか、二人とも!今のマコりんはマコりんだけど本当のマコりんじゃない!!
本当の、本当のマコりんはとっても凄いんだぞ!!聞け!
―――――マコりんは不思議な人で、人に好かれる才能があった。それは一種のカリスマみたいなものかも。
だから皆マコりんに引き寄せられちゃう。男女関係なくマコりんに惹かれてしまう。
マコりんは"ヒマワリ"なんだよ。くるくる回って皆に元気を与える、大きくって黄色いヒマワリ・・・。
でも皆は知っていた、このヒマワリを抜いてけして自分だけの物にしてはいけないと。
だけど、一人だけそのヒマワリを抜いて自分だけのものにしようとした奴がいた・・・それが塚っちゃん。
塚っちゃん・・・・・・塚原は我慢ならなかった、幼馴染で一番の親友であるマコりんが自分の物にならないのが。
耐えられなかった・・・・・・・皆と仲良くするマコりんが自分から離れていく気がして。
だから、だからマコりんの優しさを利用して、マコりんを引き止めようとした・・・・・・・・。
けれども・・・結局それは・・・・・悲しい結末になって終わった。
そして――――――――――――――マコりんは、幸せになれなくなった」
そう語ると、水島は目を伏せ、パタン― ‐と開いたアルバムを閉じる。
「――――――――水島さん・・・幸せになれなくなったって何なんですか?」
急に春日子が切ない眼差しで水島にそう尋ねる。
大きな黒い目が潤んで、それがとても艶かしい・・・。
「―――――えっ?」
これに一瞬水島はドキンとする・・・・。
――――――何この子・・・・この子・・・今、今急に女の顔に・・・・・。
「―――――――どういう事なんですか?孔蛾さん何で幸せになれないんですか!?」
「――――――あっ・・・その・・・えーと・・・それは、それは深い内容だから一言でまとめられないけど、
マコりんは"自分が幸せになることを自ら放棄"したんだ。
その時、俺は見ていて色々辛かったし何も出来なかった・・・それが今もずっと悔しい」
「放棄?―――――――如何して?如何してそんなことをしたんですか?孔蛾さんは!どしてぇ・・・・」
「・・・・それが、それがマコりんにとって塚っちゃんに対する"精一杯の償い"だからだよ」
「償い?償いって―― ‐!孔蛾さん如何して償わないと―− 」
「もう、ここでの湿っぽい話は終わりにしよう――――――― −」
― ‐カタン。
水島は急に立ち上がり、
「―――――――さぁ、そろそろ出ようか・・・」と言ってアルバムをリュックにしまう。
春日子はまだ聞きたい事が山程あったが、水島がこれ以上話したくない様なので仕方なく諦める。
宇佐美は天丼を食べ終わっちゃっているので、「そうですね・・・」と言って席を立つ。
「・・・・言っとくけど、割り勘だからね」
!!―― ‐えっ!?なっ!?割り勘?
―――――――――えっ?割り勘?わわわ割り勘?
予想外な水島の一言に、春日子と宇佐美は一瞬我が耳を疑う。
−‐えっ?えっ?―――――――――――――――――――――割り勘ですって?と・・・。
「割り勘!」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
――――――――――――――――――割り勘?
「何?二人ともその目」
― ‐あの―――――――――――――僕等年下なんですけど?
―――――――――貴方一応、目上の人ですよね?
「・・・・いえ・・・」
「・・・・何も・・・・・」
「――じゃ、一人580円ね」
―――――――――――――――――――――本当に、割り勘?
「・・・・・五百・・・」
「八十円・・・」
「一人ね」
「・・・・・」
「・・・・・・・」
―――――――――――――――本当に、本当に割り勘?
「なんかあるの?」
「・・・いえ」
「何もないです・・・」
「なら、別にいいけど」
「・・・・」
「・・・・・」
「俺がレジ行くから、支払い立て替えておくね!後で徴収するから」
「・・・・」
「・・・・・」
―――――えっ?徴収?
――今なんて?徴収?徴収・・・。
―――――――――――――――――――――本当に、本当に割り勘なんだ!!
「―――― −じゃ、ちょっくら払ってくるわ!小銭用意しとけよ!」
「・・・・」
「・・・・・」
――――――――――――オイ―――――――――――立て替えないでそのまま奢れよ!!ケチ!!
春日子と宇佐美の心の叫びは水島に届くはずもなく・・・・結局三人は割り勘して、店を出た。