前頭連合野/46野のORIGINAL NOVEL
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「―――――― −このドアの向こうに例の占い師が居るんですね・・・・」
宇佐美は目の前の白い一枚のドアに緊張する。
その緊張のせいでさっきからドアノブに何度も手をかけるも、決心できず開けられない・・・・。
ようやく「――――いざっ!」と踏ん切りをつけたところ、
後ろの孔蛾が「さっさと開けろよ」と言ってすんなり開けちゃった・・・「!あっ・・・・」と思わず宇佐美は声を漏らす。
「―――――― −どなたぁ?」
ドアを開いた瞬間、透き通る様な女の声がするのと同時に、ブァアッ―― −と一気に白く輝く煙が辺り一面湧いて出た。
孔蛾達は、行き成り何が起こったのか訳が分からず驚く。これは何かの演出なのだろうか?
そして煙が消え去った頃、部屋の奥に眩いばかりの白い女が丸い水晶を前にして座っていた。
女は美しく、白銀の長い髪をキラキラ輝かせていた。白いベールに宝石をちりばめた銀のティアラを被っている。
その側には夏流雫の幼馴染、安藤海・・・・海が氷の様に冷たい顔して立っていた。
「―――――― −海!!!」
夏流雫は海を見つけるや否や、彼のもとに駆け寄ろうとする。
しかし孔蛾が「―― −待て!まだ危ない、何が起こるか分からない!!」と叫んでグィッと夏流雫の右腕を掴んで彼女をとめた。
「―――――― −あらら、貴女はあの時のお譲ちゃん・・・・如何したの?そんな大勢でやって来て、悪魔の鏡は持ってきた?」
凍る様な眼で女は夏流雫を見る。
―――――― −女は確り夏流雫のことを覚えていた。
「―――――― −あんた占い師?」と孔蛾は女に訊ねる。
女は「ええ、そうよ。水晶で人を占うの・・・・でも本当は"雪の女王"よ」と答え薄く微笑む。
その微笑みは美しいが不気味だ・・・・。
「―― −さむっ!」
宇佐美が身震いする。
入ったときからだが、この部屋は途轍もなく寒いのだ。シャツ一枚の孔蛾も顔をしかめて肩と腕を擦る。
宇佐美がカタカタ歯を震えさせながら、思わずその寒さに孔蛾に話し掛けた。
「四月になったばっかりだよっ・・・南の国じゃあるまいしクーラー普通入れる?
てか、何であの人達これで平気なわけ?ここに水の入ったバケツ置くと絶対凍るよ!!」
すると「きっとロシアか北極か南極かの出身なんだよ・・・」と孔蛾の適当な推測が返って来る。
しかし―――― ―彼らは気付いていなかった・・・・この部屋には"クーラーなど無い"事に。
「―――― ―鏡はちゃんと持ってきました」
夏流雫は宇佐美が抱えている毛布の塊を指差す。
「!・・・・毛布?」
それを見て女は顔をしかめる。
その反応にヤバイと思った宇佐美は急いで毛布を剥いで鏡を取り出す。すると、女は目の色かえた。
「――― ―悪魔の鏡だわぁ・・・・」
女は腰掛けていた青いガラスのイスから立ち上がり宇佐美に近寄ると、鏡に触れようとする。
「――― 待って!!鏡より先に海を帰して!」
そこを――― ―パシィッ!と夏流雫が女の白い手を撥ね除けた。
「!?何をするの痛いじゃない・・・」と女が言うと夏流雫は「海が先よ!」と言う。
「――― ―せっかちな子ね・・・まあいいわ、先に帰してあげる」
女は側に立っている海の腕を掴むと、夏流雫の前へ連れた。
「――― ―海!!かいぃっ!!会いたかったっ!!」
夏流雫は海を思いっきり抱きしめ大泣きする。
しかし海は無反応・・・如何してだろうか?海は夏流雫の事を忘れてしまったのだろうか・・・。
海の体はひんやりと冷たいが、心も冷えて凍っている。
それでも夏流雫は冷たい体を温めようとたくさんたくさん彼を抱きしめた、
そして夏流雫のあったかい涙は彼の胸に染み込んで心臓に流れ込む・・・・その刹那、
彼の中で大変な変化が起こり「――― ―うっ!わぁああっ!!!」と叫んでボロボロと次から次へと溢れんばかりに涙を零す・・・・。
海の目尻がキラリと光り、
ポロリポロリと何かが零れ落ちた・・・それは欠片だ、鏡の欠片が二つ出てきた。
涙で洗い流され出てきたのだ。
一つは目の分。もう一つは心臓に刺さった分。
「―――――― −!あれ?夏流雫・・・・如何したの?何かあったの?大丈夫?」
海は元の心清い海へと戻った。夏流雫の事もちゃんと分かる。
青白かった頬に赤みもさしてきた。
「―― −!海!!海もとに戻ったのね!!かいっいぃ!!」
夏流雫は元の海に戻った事に喜び、再び大泣きして彼を抱きしめた。
孔蛾達もこの奇跡の瞬間にもらい泣きする。
「ココドコ?この人たちは・・・誰?」
海はキョロキョロと周りを見る。如何して自分がここに居るのか、海はそれがちっとも分からなくなっていた。
「・・・・・・」
一方、女は誰も見ていないうちに海が目から零した二つの欠片を拾う。そして、そっとそれを服の袖にしまった。
手際がいい。まるでコレ(欠片が外に出ること)が狙いだったかのよう・・・・。
感動の中、孔蛾が宇佐美のかかとをツン蹴る。それは"早く逃げるぞ"の合図。
宇佐美はハッと気付き、視界からドアを隠すように女の前に移動。
孔蛾はそっとドアの前へ行き、音を立てずにドアノブを掴み回した。
そして一気に―― −ガタン!!とドアを開ける。
それに気付いた夏流雫はコクンと頷き、ガッ!と海の腕を確り掴みドア目掛けて一直線に走った!!
―――――― −どうやら夏流雫達を先に逃がす作戦の様だ。
「!―――――― −夏流雫?」
「――――― −いいからこのまま走って!!」
海は戸惑ったが夏流雫の言葉を信じてそのままついて走った。
二人が無事部屋の外へと出て行ったのを確認すると「――――― −宇佐美!!」と叫ぶ。
次は宇佐美が逃げる番。「お先にぃっ!!」と言って勢い良く宇佐美が外へと駆け出す――――― −しかし、
「――――― −!?」
―――――― −ガタン!!と、突然こけてしまった。
「!!――――― −如何した宇佐美!?」
「足!―――−あしがぁ!あし・・・」
「足?足が如何した?」
「うご・・・動かないっ!」
「なっ!・・・・とにかく立て!!」
孔蛾は蹲る宇佐美に手を添えて、立たせようするが宇佐美の左足が氷のように固まって動かない・・・・。
「―――――― −あなたは逃げちゃ駄目よ、坊や・・・・・鏡を持っているんだから」
女の眼が鋭く恐ろしく赤く光っている・・・。それは人間の眼ではない奇怪なもの。
その怪しい眼の光に孔蛾は見覚えがある・・・・そう、この眼は―――――― −"悪魔の眼"だ。
―――――― −!!もしかして・・・コイツの正体は・・・・・・。
孔蛾は「―――――― −宇佐美、鏡を俺に渡せ」と言って宇佐美の手から鏡を取り上げる。
すると――― −スッと痛みが引くかのように宇佐美の固まった左足が元に戻った。
「――― −あれ?元に戻った・・・」
宇佐美は今のは一体なんだったのだろうかと不思議でかなわない。
その代わりに鏡を手にした孔蛾の足が固くなった。
孔蛾は「・・・宇佐美、はやく逃げろ」と宇佐美に言う。宇佐美は「・・・・でも、鏡が」と戸惑う。
「鏡は何とか守る・・・」
「もし、駄目だったら?」
「駄目だったら・・・」
「駄目だったら?」
「その時は・・・」
「その時は?」
「潔く諦めろ!!」
「!そんなぁ―――――っ!!」
宇佐美は納得いかないが、もう怖いので結局走って逃げていった。
部屋には孔蛾と女だけだ。
「―――――― −さぁ、鏡をこっちに渡して」
女が孔蛾に近づく。まだその眼は赤く光続けている・・・。
足は固まって全く動かないが手は動く。孔蛾は鏡を背中後ろへと隠した。
「――― −そんな事をしても無駄よ、ささやかな抵抗ね」
女は孔蛾の後ろへまわり孔蛾の手から鏡を奪い取ろうとする。
「―― −!」しかし、孔蛾の鏡を握る力はとても強く全く奪えない。まるで鏡と手が引っ付いているみたいだ。
「―――― −鏡を放しなさい・・・」
「・・・・・・」
「放しなさい」
「・・・・・」
「とっとと放しなさい!」
「・・・・・・」
放せと言う女の言葉を孔蛾は無言で拒否する。
「―――― −大した馬鹿力と根性・・・でも、いいの?
貴方自身の身はどうなっても構わないかもしれないけれど、
逃げた三人と・・・・外にいる"お譲ちゃん"を私は"傷つける"かもしれないわよ・・・・・フフ」
女は孔蛾の耳元でそう言って脅す。冷たい白い息が掛かった・・・・。耳が凍りそう。
「・・・・・・・」
孔蛾は手の力をそっと抜く・・・・待っていましたと女は鏡を奪う。
女が瞬きすると眼の赤光は消えた・・・・。孔蛾の足も元に戻る。
「―――――― −どうもご苦労様。さぁ、どうぞ帰って」
女はにっこり笑って帰れと言う。鏡さえ貰えればそれでいい、他はもう用済みなのだ。
「・・・・・・」
しかし、孔蛾は何時までたっても帰らなかった。五分経っても十分経っても。
ずっと冷ややかな視線をこちらに向けている。
「―――――― −如何したの?如何して帰らないの?」
帰らない孔蛾を女は不審がる。
「―――――― −見てやろうと思って」
黙っていた孔蛾がようやく口を開く。
「何を?何を見てやろうと?」と女が言うと、孔蛾は「―――― −あんたが"悪魔に戻るところ"を」と一言。
すると女はことさら不気味な笑みを浮かべる。
「あらそう―――――― −へぇ〜気付いていたんだ・・・・勘がいいね」
透き通った女の声が、低い男の声へと途中変わった。
女はふぅ―――――― −っと、口から白く輝く息を吐き出す。
息は煙の様にもやもやと広がりあっと言う間に女の姿を隠す、
そして煙が消えるとそこには・・・・・・黒髪長髪に青白い肌を持つ長身でこの世のものとは思えない美貌を持つ、
自称悪魔の男――――― −魔王が立っていた。
「――― −やっぱり」
孔蛾は白い女が黒い悪魔へと戻った魔王を見て、呆れたようにそう呟く。
「やあ〜またまたまた会ったね、テセウス君」
魔王は、お決まりの紳士気取りな挨拶をする。でもやっぱり服装はビジュアルバンドマン。
―――――― ――占いが当たった。
"面倒にも災難な事に巻き込まれ、しかも会いたくない人物と出会ってしまうでしょう"
災難に巻き込まれた。会いたくもない悪魔との再会。確かに今日の運勢は最悪だ。
孔蛾は怖いくらいにドンピシャリな結果が嫌になる。
「素晴らしく美しかったでしょう?僕の女性の姿は」
魔王はニッと笑い、自慢げに自分の髪を掻き揚げる。
「気持ち悪いよ」と孔蛾が冷ややかに言うと、魔王は「フン!見る目が無いねぇ〜」と嫌悪した。
「悪魔に女装趣味があったとは驚きだ・・・」
「ハハッ!女装趣味じゃないよ、本当に僕は雪の女王になっていたんだよ。
なんせ、"悪魔は何にでもなれる"のだからね」
悪魔は何にでもなれる・・・・その言葉は嘘ではない。
確かにほんの前まで彼は女の体だった・・・・。
「そんな欠けた鏡なんて、手に入れて如何するんだ?」
孔蛾は魔王が奪った鏡に目をやる。
「―――― −手に入れてって、これはもともと僕の鏡!僕が作った鏡なんだよ!
手に入れたというよりも、取り返したって感じ」
―――――― ――悪魔が作った鏡・・・だから悪魔の鏡。
この悪魔、よほど手先が器用なのだろう。動くマネキンも作れば鏡も作る。
「僕はある日、折角作ったのにうっかり空から鏡を落としてちゃってね。
おかげで、割れて出た沢山の破片は時間と時空を越えて拾い集めるのが大変だったよ。鏡自体もなくすし。
まあ、今回ので全部揃ったけどね」
魔王は鏡を床にそっと寝かすと、右足の黒いブーツを脱ぎ、そのブーツを鏡の上でひっくり返す・・・・すると、
ザラザラと大量の破片がキラキラ輝きながらブーツの中から流れ落ちる。
中の破片が全部無くなると魔王はブーツを履いて足に戻す。
そして「―――― −さて、残るは欠片があと二つ」と言って袖からポロロンと二つの欠片を取り出す。
その最後の二つをパララ―― −ッと鏡に落とした。
次の瞬間――――― −ジャリッ――― −パリバリ―――ジャリジャリジャリリリッリリ!!!と沢山の破片が鏡の中をまるで生き物の様に這い回り、
破片と破片が細胞みたいにくっつき繋がる、同化する。
鏡は見る見るうちに元の姿―――――― ――ヒビ一つ無いつるりとした鏡に戻った。
「これで完璧元通り」
魔王は床から鏡を拾い、ニッと笑う。
「・・・・・」
孔蛾にとって今の光景は、巻き戻しの映像でも見ているかの様な不思議な感覚だった。
―――― −割れた鏡が自動で元へ戻っていく・・・・。現実世界ではありえない。
矢張りこれも "悪魔の力"なのだろうか?
「――――― ――如何してそんなくだらない鏡を作った?」
孔蛾がそう問うと、魔王はニャリと笑って「君は気になってしょうがない様だね、
この鏡の事が・・・・君はこの鏡に関する質問を二度もした。
一度目は"そんな欠けた鏡なんて、手に入れて如何するんだ?"と鏡の所有目的に関して聞き
、二度目はたった今"如何してそんなくだらない鏡を作った?"と鏡の製造目的について聞いた。
そんなにこの鏡の事が知りたいのなら教えてあげるよ。
鏡の所有目的は欠けた鏡を直すため、この修理過程はつい先ほど君も目にしたよね?これで所有目的については解決。
もう一つ、製造目的については、ただ単に僕が遊んで楽しむため。これが製造目的。簡単で単純でしょ?
――――― ― ――さて、今度は僕が君に質問する番だ。
如何して君は鏡の事が気になったの?もしかして、君はこの鏡に自分の姿を映してしまったんじゃないかい?
― ――そして見てしまった"もう一人の自分"を・・・・・・・僕が当ててあげようか?
どんな君が映っていたかを、う〜ん、そうだなぁ・・・"眼鏡をかけて白衣を着た、お医者さん姿"の君。
どう?僕の予想は当たっている?ねぇ?」
「!!!!?――――― ――五月蝿いっ!!!黙れ!!ベラベラ喋るな!!!喋るな!!喋るな!!」
長い間冷ややかな表情をしていた孔蛾が突然息巻く。
彼は憤慨した。――――― ――けして言ってはいけない"タブー"を言われ。
その怒りは凄まじく、魔王を睨んだ眼が赤く充血していた・・・・・。
今直ぐにもでもこの男の口を塞いで顔をボコボコに殴ってやりたい。だが、そんことは出来ない。
そんな事をしたら、"逃げた仲間と大切な人を傷つけられるかも知れないから"。
「― ――あれぇ〜?如何したの?そんな怖い顔しちゃって。アハハ!
それよりちゃんと答えてよ、僕の質問に。僕はきちんと答えたよ、君の質問に!」
怒り苦しむ孔蛾を魔王は更に追い詰める。もう愉快でたまらないのだろう。
「――――― ―欠けた鏡なんて珍しいから気になっただけ、あとは知らない。
知るか!俺は鏡になんか映らなかった!」
孔蛾は必死に自分の気持ちを抑えて答える。しかし声は怒りで震えていた・・・・・。
しかし「フハハッ―――― ―嘘!」と魔王はその答えの偽りを見破る。
「嘘をつくなよ、テセウス君。君らしくないじゃないか、
"正義の権化"である君が、嘘をつくなんていけないよ!うん、いけない!実にいけない!
僕は悪魔だから"君に嘘をついた"けど、君は僕に嘘をついては駄目だ。
君は間違いなく鏡に姿を映した・・・・・その証拠を僕は見たんだからね、ほんのさっき。
鏡が元に戻っていく途中、ざわめく破片たちが映していたんだよ、もう一人の君を!
だから僕の予想は絶対当たっているのさ!僕はそれを知っていてわざと君に聞いた。
意地悪してゴメンヨ!アハハハハ!」
魔王はからかって笑う。これが、心底楽しくって仕方ない。
「―――― ―それにしても、君はその様子からすると"もう一人の自分の事が大嫌い"の様だね?」
「――――― ― ――ああ、嫌いだよ。"殺したいくらい"」
「アレ?なんだ、もうそれ認めちゃってるじゃん。やっぱり映ったんだ、鏡にアハハハハ!」
「・・・・・・・」
「そう怖い顔してずっと睨むなよ。君の顔、彫りが深いから睨むと怖いんだよ。折角の男前も台無しだよ?
まぁ、君が何を言いたいかは知っている、"いい加減にしろ"って言いたいんだろ?
でも僕は言ってやりたいんだよ、人間である君に、人間であるがゆえの君に・・・」
「・・・・・・・何を?」
孔蛾は眉間に寄せた皺を更にグッと寄せる。すると魔王はニッと笑い、得意げに語り始める。
「"人間の本性は滑稽"だってことを。
僕は昔、作ったこの鏡で色々な物を映して遊んだんだ。
面白かったよ、この鏡で世界を映すと、世界が全部歪んで映った!!
美女と呼ばれた貴婦人が鏡の前では醜い老婆!
豪華絢爛の衣装を身に纏った王様もピンク色した、太った豚!戦好きで勇敢な将軍もチーズの周りを走り回る鼠!
番犬さえも、ただの小さな仔犬にすぎなかった!皆鏡の中では情けの無い醜い歪んだ自分が映る!!
僕の作った鏡は悪魔の鏡。
言われたものを言われたとおりに素直に映す、正直者の魔法の鏡じゃなくって、
言われたものを言われたとおりに映さない、世界を歪んで映す捻くれ者の悪魔の鏡。
でもねぇ・・・思うんだ。歪んで見えた姿が、もう一つの真実だってこともあると。
僕は大笑いしたさ、"人間の正体"に!!どんな美女も歳をとれば老婆になる、
一国を治める王も贅沢に肉を食って食って食って食いまくって豚豚豚!豚になる、
将軍も戦火で穴だらけの土地を勝利の証しとしてもぎ取る!
獰猛な犬も所詮元はミルクしか飲めない弱い仔犬!醜い!本当に醜い!!
だから、人は毎日のように鏡の前に立って一生懸命自分を着飾って偽っている!
貧相な自分に厚塗りをして太く豊かに見せようとする!
見栄を張りたい!!美しくなりたい!弱い自分を隠したい!周りから良く見られたい!
何の為に!?何の為にそこまでする!?自分の為に!!人間の行いの行き着く所は自分の為!
それが人間の本性!!可笑しいだろ?恥で、惨めで?そうだろ?僕は笑いすぎて腹がよじれたね!アッハハハハ!!」
魔王は散々喋り捲り、思い出し笑いをする。
よっぽど面白いのだろう、目尻に涙を浮かべている。「あー可笑しい!」という声まで漏らす。
―――――――――――― ―すると、
「―――― ―お前の言う事はけして間違ってはいないと思う」
孔蛾は魔王の述べた事にぽつりとそう言った。
「―――― ―!おや?今回は僕の意見に賛成するんだねぇ・・・」
その発言に魔王は拍子抜けする。思わず持っている鏡を落としそうになった・・・。
「確かに、お前の言うとおり・・・人間の行いの行き着く所は自分の為、それが人間の本性なのだろう。
誰もが本当の自分を隠している部分がある。人間が人間同士の本性を目の当たりにする事は醜い、汚い。
だから、ある程度皮を被って自分を偽って生きていく。そうしなくっちゃ、とてもじゃないけどお天道様の下を歩けない。
生きていくにはこうするしかないと言えば、完全な言い訳だろう。
だが、俺はこれが恥だとは思わない。惨めだとも思わない。絶対そうかと指差されて言われれば違うけれど。
そう思いたい。だって、俺は思う―――― ―"人間の行いの行き着く所は自分の為、そして人の為"でもあると。
人間の本性は汚いだけじゃない。誰かを想う事もけして忘れないはずだ。そう遺伝子に刻み込んでいるはず。
何故ならば―――― ― "世の為人の為"と言葉があるのだから・・・・・。
有り触れた言葉だけど俺は、これは重みのある大切な言葉だと思うよ」
孔蛾は淡々とした態度で淡々と答えた。前回と違って今回は冷静だ・・・。
「―――― ―また、また奇麗事を言う・・・僕の嫌いな奇麗事を!!世の為人の為・・・松下幸之助か?
よくもそうポンポンと言葉が次から次へと出てくるものだねぇ・・・フン、君が菲薄であればいいのに!」
自分の考えに賛成と思いきや、確りと否定もされる。
魔王は、恨めしい顔してそう毒吐く。―――― ―しかし彼は切り替えが早い。
「―――― ―さて」
そう呟くと魔王は鏡を脇に抱え後ろを向く、そしてシャラッと片手でカーテンを開け放ち、ガラガラと窓も開ける。
その瞬間孔蛾は偶然にも見てしまった―――― ―脇に抱えた鏡が、
魔王の背中から生えている筈も無い"天使の翼"を映し出していた事を・・・・。
その光景が歪んで見えた、もう一つの真実かどうかは―――― ―分からない。
魔王は振り向いて「僕はもう去りますよ "風と共に"。もう用無いでしょ?
悪魔は暇じゃないからね。なんせ人間と違って日曜日がない。じゃ、失礼―――― ―」といった後、別れの会釈する。
その途端・・・・・ブァアアアア――――――――ッ!!!と突風が窓から吹き込む。
その威力は凄まじく孔蛾は目をやられまいと顔に手をやる。
―――― ―そして、風がおさまると、もうそこには魔王の姿は無かった。
「―――― ―も〜う、孔蛾さんなにやっていたんですか?遅いですよ!!随分僕達待ったんですから!」
雑居ビルから孔蛾が出てくるなり、宇佐美は不貞腐されていた。
「――― ―あっ!!鏡!?鏡持ってないじゃないですかぁ!?」
そして孔蛾が鏡を持っていない事にすぐさま気付く。
「鏡は如何したんですか!?何でもってないんです!?鏡は!?」と問い詰め始めると、
「・・・・鏡は、鏡は・・・ま〜あ、見てのォ・・・」と孔蛾は言葉を濁す。
孔蛾のこの態度で、現状はハッキリする。――― ―鏡は駄目だった。
「あ―――っもおォ―――――っ!!!何やってくれるんですかぁ!?守るって言ったくせにィ!」
「あ――っ!うるせぇ!!仕方ないだろ!取られちゃったものは取られちゃったんだから!
言っただろう?駄目だったら潔く諦めろって!!」
「嫌ですよ!!諦めたくありません!!
孔蛾さん・・・責任持ってもう一度ビルへ行って、鏡取り返してきてください!!」
「――ハァ?アホか!もうあの占い師は消えたわ!風と一緒に消えたわ!もう取り返しにいけねぇーよ」
「何訳の分からないこと言っているんですか!風と一緒に消えたって!いいから、取り返しに行って!」
「だから、行くかボケ!そんなに取り返したいのなら自分で行け!!全部自分でやってこい!!
自分が鏡持って来たんだろーが!なら自己責任だ!ほら、行けや!行ってこいや!」
「あ――っ!責任転嫁ですか?責任転嫁するおつもりですか?へぇ〜ハイハイ」
宇佐美のこの舐め腐った態度にブチッ!と来た孔蛾は思わずボゴッ!と一発グーで宇佐美の頭を殴った・・・。
――― ―おかげで、宇佐美の頭の周りにキラキラ星が飛んだ・・・そして悶絶する。
しばらくして気を取り戻した宇佐美は、
痛みの余韻で半泣きしながらも「あ――っ!暴力ですか?今暴力をふるいましたね!!貴方の物事の解決方法は全て暴力ですかぁ!えっ?暴力なのですかぁ!?」と楯突く。
あんまり煩いので孔蛾はグッと拳を上げて"また殴るぞ"と威圧を与える。
すると宇佐美はそれに怯み何も言わなくなった。
「!―――― ―!?オイ!」
孔蛾は、地べたにペタンと座って寛いでいる春日子を発見。
袋を片手にポテトチップとか摘んで食べている。
アレ?袋を片手にポテトチップとか摘んで・・・・てことは、腕に手錠がない・・・・。
「何でお前手錠はずれてるんだっ!?」
「―――― ―!あっ、孔蛾さん」
パリパリお菓子を食べながら春日子は孔蛾に気付く。
「あっ、孔蛾さんじゃねぇーよ!何ではずれてんの?手錠!手錠は?」と孔蛾が聞くと、
「何でって、外したんですよ」とさらりと春日子は答える。
「はぁ?外したぁ?」
「はい」
「えっ?どうやって?だって鍵は俺が持って・・・」
「・・・・・」
春日子は鞄の中をガサゴソと探り、パッ!と小さな何かを取り出した。
「!鍵ぃ!?」
孔蛾はそれをみて驚く・・・春日子が鞄から取り出したもの、それは手錠の鍵。
「はい、スペアキーです」
「スペア・・・」
「孔蛾さん達が僕を置いていったあと、しばらくして僕思い出したんですよね。スペアキーの存在。
それで、スペアキー入れてカチャカチャと外しました。追いかけてビルへ行こうと思ったんですけど、
なんか疲れちゃってずっとずっーとこうやって今休んでいます」
「・・・・ほぉ・・・ほほぉーん」
―――― ―心配して損した。こんな奴!!
春日子の態度に孔蛾は怒り感心する・・・。
―――― ―パリパリムシャムシャ美味そうに菓子食いやがって!!ボケ!
腹立つので孔蛾は春日子からポテトチップの袋を取り上げ、自分がパリパリとお菓子を食ってやった。
取り上げられた春日子は「―――― ―!あっ!意地汚ぁーっ!」と言って責める。
それでも孔蛾は何食わぬ顔して食ってやった。言っておくが彼は23歳の大人である。けして小学生ではない。
「―――― ―あの〜」
夏流雫が話し掛けてくる。孔蛾達が気付くと、夏流雫は「皆さん、私達に力を貸してくださって本当に有難う御座いました!
お陰で、無事で済みました。本当に本当にお世話になりました!!」と御礼の挨拶をし、深々と頭を下げた。
夏流雫の側いる海も「―――― ―有難う御座いました!!」と言って頭を下げる。
「―――― ―これからは、何があっても離れちゃ駄目ですよ」と気の利いた一言を孔蛾が言うと、
夏流雫と海は「―――― ―はい!」と返事をして、互いの顔を見合いニッコリと微笑む。
その姿に孔蛾も春日子も心和む。
「よかったよかった、めでたしめでたしですね!」
春日子が勝手に結末をつける。
―――― ――――― ―しかし、
「―――― ―僕は大損ですっ!骨折り損の草臥れ儲けの上、大事な物は返って来ない!!
何が、めでたしめでたしですかぁあああっ!!!」と宇佐美の声が天にこだまする。
彼は叫んだ、悲憤の涙を流して・・・・。
その後、宇佐美は鏡の持ち主に上手い言い訳して必死に謝った。
持ち主は「処分しようかどうか迷っていた物から、気にしない下さい」と言ってくれた。
心の広い持ち主である。
めでたしめでた・・・・・し?うん、めでたしめでたし。
***
―――――――――――― ―― ― − 春の夜空の下、一人の青年がバイクに跨ってとまっている。
信号待ちだ。
その間に青年は携帯を取り出し、ナビで自分の現在位置を確かめる。
「―――――――あれぇ〜?"マコりん"の居る町ってこっち方面であっているっけ?やべぇー俺迷った?」
青年は小首を傾げた・・・・すると一緒に、手に持っている携帯も揺れ・・・付けているストラップも揺れた。
揺れたストラップはビーズにアルファベットが刻まれ、それが積み重なって出来たストラップ。
積み重なったビーズは上から M、I、Z、U、S、I、M、A ・・・・つなげて読むと、MIZUSIMA。
MIZUSIMA―――― −ミズシマ、水島?
もしや・・・彼は、
"水島 貴一"?
その確信はTo be continued.・・・・・
Story3終了、Story4嘘つき医者へ続く。
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