前頭連合野/46野のORIGINAL NOVEL
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※著作権は前頭連合野/46野の管理人、怪物の顔(鮭)にあります。
「―――― ―では、皆様おやすみなさいませ・・・」
ピンクの水玉模様のパジャマを着た田沼が就寝の挨拶をする。
―――― −孔蛾、春日子、宇佐美の三人はバカ広いリビングに居た。
「――ジィ、電気を消すなよ!」
「はい、心得ていますとも」
「絶対にだぞ!!」
部屋を出て行く田沼に宇佐美は慌てて釘を刺す。怖いのだ、暗いのが―― −。
その宇佐美の姿に孔蛾は、このチキン野朗!と思った。
「―――では、ごゆっくり・・・」
田沼はにこやかな顔をして、最後にそう言うと部屋を出て二階の執事室へ行ってしまった。
田沼が去った後には三人といわくつきの大きな鏡だけがリビングに残っている。
何故か妙な緊張感と雰囲気が漂う―――― ―
「――――ああっ・・、ボク、もう寝ます!!」
「――オイ!」
春日子は持ってきたフカフカ毛布に全身をかぶせ、鏡を見たくないと視界をシャットアウトさせる。
宇佐美もチキン野朗だが、春日子もなかなかのチキン野朗であった・・・。
孔蛾は「――おいおい何のための見張りだよ!!寝るな!!」と呆れるが、もっと呆れるのが宇佐美である。
宇佐美は棒型懐中電灯二本を白の鉢巻を使って角のように頭に結びつけ、
着ているシルクのパジャマのポケットには御札十五枚、首には御守り三体下げ、手には木刀を握っている・・・・・・物凄い格好だ。
「お前は八つ墓村かっ!!」と孔蛾が突っ込むと、
宇佐美は「―――うるさいな!!今、僕は一生懸命念仏を唱えているんです!!邪魔しないで下さい!!」と切れる・・・・。
念仏・・・・たしかに・・・宇佐美はさっきから一人ブツブツと下を向いて何か言っていた。
頭に懐中電灯縛って木刀持って、ひたすら念仏を唱えている宇佐美・・・・鏡よりこっちの方が怖い!!
「・・・・・」
―――――――ああ・・・・なんだ・・・なんだこのダルさとしんどさは・・・・。
突如として言い知れぬ疲労感が孔蛾を襲う・・・・。
――――― ―どうして、如何してこんな面倒臭い事を今更ながら俺は引き受けてしまったのだろう・・・・・・そうだ、
これは癖だ。きっと癖に違いない!水島係りの癖に違いない!!
孔蛾は遠い中学校時代を思い返す――――― ― ――
当時彼はクラス委員長と言う名の"水島係り"をやらされていた。
水島係り、それは水島貴一(みずしま きいち)というクラスメイトを面倒見るというヤヤコシイ係りのことである。
何がややこしいかと言えば、水島はけして不良ではないのだが不良を超える問題児。
つまり問題児の中の問題児、究極問題児なのだ。やる事なすこと兎に角滅茶苦茶でぐちゃぐちゃでやりすぎ。
その凄まじさを例えるなら、人気絶頂時の野沢直子と例えておこう。
―――彼は在学中様々な伝説・・・"水島伝説"を残してきた。
その中の一つに『水島お悔やみ電報伝説』というのがある。
クラス内で一時期嫌がらせが流行っていて、水島にもそれがまわって来た。
水島が受けた嫌がらせとは、机の中に線香と菊の花を入れられるというなんとも陰湿なものだった。
この嫌がらせを受けた水島は「絶対仕返ししてやる!!」と決意。だがやった犯人がわからない。
なら、仕返しのしようがないと諦めるのが普通だが、水島は違った。
嫌がらせがあった次の日、「キャ――!!」とクラスの女子達が次々と悲鳴を上げて騒ぎ出す。
何事かと調べたら、クラス全員の机の中に火の点いた線香の束とお悔やみ電報が入っていた。
水島は全員に贈れば必ず犯人に当たると思ってやったのだ。物凄く迷惑な手口!!
お悔やみ電報は精神的苦痛をこうむらせ、火の点いた線香は小火騒ぎに・・・・とんでもない事態になった。
(この復讐の手口、水島が"葬儀屋の息子"だからやってのけられた)
他にも水島は『水島熱帯魚プール伝説』(職員室で育てている熱帯魚は、あんな狭い水槽生活で息苦しそう。
という理由で熱帯魚をプールへ逃がす・・・おかげでその日の水泳の授業は中止。責任持ってクラス全員が熱帯魚すくい。)、
『水島春の失踪伝説』(春の歓迎遠足で突如失踪。三時間後、花見の宴会場で上海の貿易会社社長と裸踊りしているところを無事発見。
いろんな意味であわや警察沙汰になるところだった。ちなみに、失踪理由は桜の匂いに誘われて・・・・)、
『水島体育祭珍事件』(中学三年の時、体育祭でリレー競技のアンカーだった水島が「俺は最後に錦をかざるんじゃあああああっ!!神様がドンパッパ!!」と意味不明な事を喚きながら全裸で疾走。
全校生徒とPTAが騒ぐ中、彼は一位でゴールした。)と色々ある。
もっと過激な伝説があるが公序良俗に反しているので封印。
このように、水島は何をやっても大なり小なり周りに迷惑と問題を振り撒くので、
担任は苦渋の決断の末"水島係り"を作ったのだ。
その水島係りを誰にやらせるかと職員会議で考えたところ、
「面倒見のいい孔蛾にやらせよう」と勝手に決定。
担任は孔蛾を呼び出し「今学期からお前がクラス委員長だ!委員長には水島係りという大役がある。確り水島の面倒を見るんだぞ!」と無理やりクラス委員長に任命。
泣いて孔蛾は拒否したが一度下された決定が覆る事は無かった。
こうして孔蛾は中学三年間『究極問題児水島貴一の面倒』という地獄を這いずり回ったのだ・・・・・。
そのせいで、面倒臭い事や困難な事を"平気と思い込む癖"が彼の中で誕生してしまった。
――――― −極めて気の毒な癖である。
「―――― ―うわあぁぁぁっ、嫌な事思い出しちゃった・・・」
孔蛾は、水島の濃い思い出を消し去るようにグシャグシャと両手で頭を掻き毟る。
おかげで天パの髪が余計広がって絡まった。なんかちょっとベートーヴェンっぽい・・・・。
それにしても・・・・自分が思い出にふけっていた間に、室内はやけに静かになっている。
―――あれ?宇佐美の鬱陶しい念仏が聞こえない。
その代わりになんか二人分の寝息が聞こえる。寝ている・・・・宇佐美も春日子もぐっすり寝ている・・・。
「――オイ!二人一緒に寝るなっ!!」
ついに見張り役が一人となってしまった・・・。
寝ている人を起こすのは忍びないので、仕方なしに孔蛾一人で鏡を見張る事になった。
――――― −ああっ・・・・クソ眠てぇっ。
鏡を前にして孔蛾はゴシゴシと目を擦る。
ふと壁に掛かっている古時計を見ると、深夜一時を既にまわっていた。
「・・・・・・」
今にも閉じそうな瞼を頑張って開きながら、ぼ〜おっと鏡を見つめる。
――――― −悪魔の鏡かぁ・・・・。
孔蛾は昼間宇佐美が言っていた事をなんとなく思い出す。
――――― −丑三つ時・・・魔の刻にこの鏡を覗いて見ると違った姿をした自分が映るらしい・・・
――――― −マジ胡散くせェ。
宇佐美と春日子にとって怯えてたまらない奇妙ないわく。
だが、孔蛾してみれば「胡散臭い」の一言で終わりである。
絶叫アトラクションは乗れないくせに、こういう肝は据わっているらしい。
――――― −だいたい、鏡が怖いなら布でも被せとけっつーの。
ホコリも被るだろうに・・・・これだから金持ちの思考は理解できん。
今更な事を思う。
――――― −つーか、明かり眩しい。目がしばしばする・・・・。
突如、孔蛾はすくっと立ち上がり電気を消しに行く。
全部消してやろうと思ったが、真っ暗だと宇佐美が起きた時何ブーブー言われるか分からないので、
取り合えず橙色の奴(まめ電)にしておいた。「これでよし」と孔蛾はトボトボ歩いて戻る。
――――― −ああっ・・・・やっぱクソ眠てぇっ・・・てか、限界だな、こりゃ・・・。
睡魔の限界が頂点と達した孔蛾は、気を失うようにガクンッ!と床に座ったまま寝てしまった。
――――― −あっ― ―やべぇ・・・意識無かった・・・・。
一時間ぐらい経つと、孔蛾は目を覚ます。
深く寝てしまいたかったが"見張らなきゃ"という気持ちがあるのでそうはならなかった。
しかし完全に起きたわけではない。まだ瞼が重い、半分閉じている。
眠そうにうつらうつらし、体が前のめりになる。
――――― −やべぇ・・・また寝る― −確りしろ俺・・・。
再び意識がとびそうなのを必死で堪え、目の前の鏡を睨む。
睡魔で霞んで見える視界に何か白いぼんやりした物が映る・・・・・。
――――― −あん?
何だろうとパチパチと瞬きをすると視界がクリアになる。その途端、孔蛾の目がグワッと見開く。
鏡が映し出している物――――― ―――― ―それは、
清潔すぎるぐらいの・・・白い白衣を着て、四角い黒のフレーム眼鏡をかけ、黒髪をオールバックにした・・・・孔蛾実――― −自分、自分自身が映っていた。
―――――――― −在り得ない、こんな事ありえない。在り得るはすが無い。こんな奴今は存在しない。
見覚えのある医務局の中、凛々しく立っている。汚れなんて一切許さない、正義と誠意に満ちた眼を向けて。
―――――――――――――――――― ―これは、コイツは"過去の自分"だ。
世界で最も大嫌いで、"一番会いたくない相手"そして ―――――― −許せない、たとえ神が許しても。
「―――――――― −消えろおおおおおぉっ!!!!!今直ぐ消えろおおおぉっ!!!」
孔蛾は気がおかしくなりそうなほど声を上げ叫び、頭を抱え蹲る。
「―――――― −!!?なっ、何事ですかぁっ!!!」
突然の孔蛾の大声に春日子が驚いて飛び起きる。同じく宇佐美も。
宇佐美は「―――― −火事!?地震!?何?なにっ??」と、寝起きで頭がパニックになり、
おろおろとその辺を行ったりきたりしている。頭に縛っていた二本の懐中電灯が一本取れていた・・・寝相が悪かったせいか?
「―――― −一体如何したんですかぁ!!?」
春日子は蹲っている孔蛾に近づき、その顔を覗き込む。
孔蛾の顔は顔面蒼白で強張り、唇が微かに震えていた・・・・・。
思わずハッとする――― −こんなに怯えて固まっている孔蛾さんをはじめて見たと・・・・。
「―――― −!気にするな・・・悪い夢に魘されていただけだ」
春日子の存在に気付き、孔蛾は我を取り戻す。
ふと横目で鏡を確認すると・・・・鏡はもう元の普通の鏡に戻っていた。
血の気が引いて冷や汗掻いた孔蛾が映っている。
「―――― −あ!ちょっと、誰ですかぁ?電気勝手に弄んないで下さいよ〜」
宇佐美も落ち着き取り戻し、電気の明かりの色が勝手に変わっている事に文句を言い出す。
「消してねぇーからいいじゃねぇーか!」と孔蛾が言い返すと、
宇佐美は「明るくしてないと駄目なんです!」と言い、膨れっ面をしてスイッチを切り替える。
部屋は途端にパッと明るくなった。
「てか、お前らが寝ている時思ったんだが・・・この鏡、布かなんか被せたほうがいいじゃねぇ〜の?
そしたら気になんないだろ?ホコリとかも被るし」
孔蛾が気づいた事を言うと、「なるほど!そうですね、今持っていきます」と宇佐美は布を取りに行く。
あっと言う間に部屋から居なくなった。残るは孔蛾と春日子の二人きり。
すると「―― −お前も一緒に行って来い!」と孔蛾はトンと春日子の背中を押す。
春日子は「何で僕も?」と不思議そうな顔をして聞く。そしたら「ついでだよ!」と言われる。
「如何してついでに行くんだだろう」と考え戸惑っていると、「いけいけ」と煩い。
それでもしぶっていると、背を向けて孔蛾は「―― −俺はもう大丈夫」と呟く。
春日子はそれを聞くと、宇佐美を追って部屋を出た。どうやら、彼女は孔蛾のことが心配だった様だ。
・・・・・・一人になった孔蛾は鏡の前へ戻る。鏡に手を付き深刻な顔をして、映った自分と向き合う。
「―――― ―塚原・・・・・・まだ憎んでいるのか?この俺を。だから、過去の俺を俺に見せたのか?
戒めなのだろう?"けして忘れるな、けして幸せになるな"という・・・・・」
鏡の向こうに話し掛けるように、孔蛾が喋る。
「でも安心しろ、"俺は俺を一生許しはしないし、幸せも手に入れない"」
彼のその独り言の奥底に一体何が隠されているかは―――― ―まだ、春日子達は何も知らない。
――――― −丑三つ時・・・魔の刻にこの鏡を覗いて見ると違った姿をした自分が映るらしい・・・
チッチッチッチッ―――― ―カチッ―――― ―古時計の針が丁度午前三時を指した。
魔の刻は終わった。