前頭連合野/46野のORIGINAL NOVEL

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※著作権は前頭連合野/46野の管理人、怪物の顔(鮭)にあります。





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「――あっ!」

着くなり、春日子は何かを発見し前を指差す。
なんと幽霊屋敷の広い庭に一台の黄色いショベルが停まっている。
今までこんな所に重機なんて無かったのに何時の間に・・・・。

「―― −何だよ!これ!?」

孔蛾は何事かと戸惑う。春日子もだ。
二人は事情を聞こうと急いでショベルへ駆け寄った。

「――― −すいませーん!すいませーん!」

春日子はショベルの運転席に向かって声を張って尋ねる。
すると、声に気付いた運転手が窓を開けこちらに顔を出す。

「―― −!!?あっ!ああっ!!」

すると孔蛾は運転手の顔を見るなり驚く。
その驚くべし運転手の正体とは・・・・

「―― −おっ、お前は!まっ、まっ、魔王!!」

髪の長い綺麗な顔した、紳士気取りの男・・・・・魔王。
彼は相変わらず凄まじく美しい。しかし、作業服着て安全ヘルメットを被った姿は余りにも顔と不釣合いだ。


「―― −おや〜?君はあの時の"テセウス"君。これはこれは、偶然ですねぇ」

魔王は孔蛾を見てニヤッと笑い、被っているヘルメットを帽子みたいにパッと外し会釈する。
やっぱり紳士気取りだ。

「・・・テセウス?」
「そう、テセウス。知らない?凶悪な牛頭人身の怪物ミノタウロスを倒した英雄テセウス。
正義感たっぷりな君にピッタリな呼び名でしょ?」
「・・・・・」

流暢に喋る魔王を孔蛾は顔をしかめて嫌悪する。
状況が呑みこめず、春日子は孔蛾に「この人誰です?知り合いですか?」と聞く。
孔蛾は「遊園地行った時、観覧車で俺たちを覗いてた変態野朗だ」と答える。
魔王は春日子とわざと目を合わせ、猫なで声で「―――お譲ちゃんも一緒だねぇ、元気ぃ?アレからぁ?

君の友達死んじゃったね、ピーターパン君・・・御愁傷様!」と話し掛けた。
春日子は、あまりのショックと驚きで呆然とし、凍ったように立ち尽くす。


―― ― −!!?何?何この人!何を言っているの!?如何して、何で自殺した小森君の事を知っているの!!?

けれども魔王は、更に残酷なことを彼女に告げていく。

「あれ?どうしたの?不思議に思った?君のお友達の事を僕が知っているの?
ああ―― −そうかぁ・・・何も知らないよねぇ〜、だいたい君は彼の背中で寝んねしていたもんねぇ。
話聞いてないよね、僕が"悪魔"で哀れなピーターパン君に"大人に成らない方法"を教えてあげたなんて!!
それにしても彼は優しいね"君を傷つけまい"と何も話さなかった訳だァ。
あれぇ?また青いよ!あの時みたいに顔が、You l ook pale!アハハッ!アハハハハッ!!」
「――――キャ――――ア −!!!」

春日子の金切り声が青空まで響く。これ以上耐えられないと、悲鳴を上げた。もう聞きたくないと耳を塞ぐ。
思い出すのだグルグルと。自殺する小森の光景を。

「アハハハハッ!!アハ!良かったね!知らない事が知れて!!アハハハッ!!Lucky!」

魔王は是見よがしにせせら笑う。

「――― −てめぇー喋るな!!!」

―――― −ガン!!!
「―― −!?」

突如ショベルが大きな音と共にガタッ!と揺れた。孔蛾が車体を凄まじい威力で蹴ったのだ。
魔王の下品で軽薄な発言に、腸が煮えくり返るような怒りと嫌悪が沸き立つ。

「・・・・優しいねぇ〜また彼女を守ろうとする」

"よくもヤッテくれたな"と魔王がニタァと笑った。

―――― −ガン!!!
「―― −!?」

再度ショベルが大きな音と共にガタッ!と揺れる。また孔蛾が蹴ったのだ。

「・・・・貴様・・いいかげんに― −」
「―――黙れ!」

―――― −ガン!!!

「この私にこんな事をして――」
「―――黙れ!」

―――― −ガン!!!

「この私に――」
「―――黙れ!」

―――― −ガン!!!

「この私――」
「黙れ!俺が質問するときだけ喋れ!!」

―――― −ガン!!!ガン!!

孔蛾は魔王が喋ろうとする度に車体を蹴っていく。

「・・・・」
「――で、まず何でお前はここに居るの?」
「・・・・」
「喋れ!」

―――― −ガン!!!

「・・・・」
「俺の質問には喋れと言っただろう!」

―――― −ガン!!!
「!―― −!?」

魔王はこのまま無視しておくつもりだったが、
孔蛾の蹴りすぎでショベルがベコベコになりそうだったので、仕方なく答える。

「――取り壊しだよ!!屋敷の!スパランツァーニの屋敷を今からぶっ壊すんだ!」

スパランツァーニ。一体、誰のことだろうか?

「スパランツァーニ、誰だそいつは!?」
「・・・スパランツァーニはイカレタ物理学者さ」
「スパランツァーニとお前はどう関係している!?」
「・・・・」
「喋れ!」

―――― −ガン!!!

「―― −スパランツァーニと俺は"取引した"仲だよ!」
「取引?」
「僕が作った動くマネキンを、彼が社交界デビューさせたいと言ったから取引として小切手を貰ったのに、
その小切手が不渡りだったんだよ!腹が立つから人形ごとこの屋敷を今から破壊する!!
ああ――折角眼鏡まで作って売って、楽しく遊んでたのに!
コッペリウスっていうブランド名まで考えてつけたのに・・・まぁ、一つしか売れなかったけど」
「!―― −眼鏡!眼鏡って、路上で売って高校生に買わせた変な眼鏡か!?」
「ああ、そうだよ・・・変な眼鏡とは失礼な」
「―― −やっぱり、てめぇーだったのか!人に妙なもん売りつけやがって!!」

―――― −ガン!!!ガン!!!ガン!!!
「!―― −!?」

三連続で車体が揺れる。

「そのクソ眼鏡を買った馬鹿なガキが今、廃墟の中にいるんだよ!
俺が中に入ってそいつを連れ出してくるまで絶対に壊すなよ!!わかったな!!」

孔蛾は魔王にそう言い放つと、急いで廃墟内へ向かう。
見ていた春日子は「―― −僕も行きます!」と言うが、腰が抜けていて立てない。
しかたなしにその場で見守ることにした。






***







「―― −宇佐美!!宇佐美!早くここを出るぞ宇佐美!!」

孔蛾は宇佐美を見つけると、確りと腕を掴み連れ出そうとする。
宇佐美は「ヤダ!!ヤメロ!!今彼女と楽しく踊っているんだ!」と拒絶し抵抗する。
見兼ねた孔蛾はもうマネキンを触らせまいと、マネキンと宇佐美を引き剥がし、マネキンを軽く投げ飛ばした。
マネキンは部屋の隅でカシャンと音を立てる。
それを見て宇佐美は、 青い顔を更に青くして「―――−!!何するんだぁあっ!!!何してくれるんだぁ彼女に!!
痛いと悲鳴を上げたじゃないか!!」とブチ切れる。

「何言っているんだ、マネキンだ!!あれはマネキンなんだよ!!
何度言ったら分かる!?いい加減目を覚ませ!!」
「マネキンじゃない!!彼女は人間だ!!そっちこそ目を覚ませ!」
「気付け!!お前は眼鏡のおかげでマネキンが人間の女に見えるだけだ!!そんな眼鏡外せ!!」
「うそつけ!眼鏡なんか関係ないっ・・・・・」

宇佐美は投げ飛ばされたマネキンに擦り寄る・・・・・。「大丈夫?痛かったね・・・」と何度も言いながら。
さすがに孔蛾も宇佐美のその姿に心打たれる・・・。

「・・・宇佐美、そんなに好きなのか?」
「―――好きだ!!大好きだ!!!」

宇佐美はマネキンと手を掴むとギュッ―と指を絡ませる。

「・・・・・・お前・・・そんなに・・。わかった、マネキン・・・
いや、彼女も一緒でいいから頼む、ここから出よう」
「――えっ?どうして?何が・・・」と宇佐美が聞き返した瞬間、

――― −パチンと指の鳴る音が聴こえる。
そしてド―――――ン!!!!!と大きな音と一緒にショベルが壁から突っ込んできた。
瞬時に「―――危ない!!」と孔蛾が宇佐美を引っ張り、ショベルから避ける。
しかしショベルの狙いは人ではない、マネキンだ。
ショベルはその有り余る力で―――バギン!!!とマネキンの首をぶっ飛ばした。
その時出た破片が宇佐美の眼鏡に直撃する。
幸い眼にケガは無かったが、レンズはパリン!と割れて砕け散っていた。

「―――うぁああああああぁぁぁん!!!」

宇佐美の悲鳴が耳を強烈につんざく。彼はパニックを起こし混乱していた。
何故なら、愛しの彼女の首がもげてぶっ飛んだだけではなく、
そこに頭の無いマネキンが座っているのだから。 これでようやく彼は気付いた。
自分が恋焦がれていた相手が、ただのマネキン人形だったと・・・・。
――― −宇佐美の足元に、ぶっ飛んだマネキンの頭がコロコロと転がってきた。
宇佐美はそれを切なそうに拾い、ギュッ――と抱きしめる。

「――――!!魔王!俺が連れ出してくるまで壊すなって言っただろう!!」

孔蛾はショベルの運転席に向かって怒鳴る。
魔王は半分ドアを開け、顔を出すと「ベぇー」と舌を出し「アハハハハ!!別に僕は君とそんな約束なんてしてないよ!
君が一方的に僕に言いつけただけにすぎないコト。アハハハ!」と言い張る。

「―― ―この悪魔!!」
「―― ―悪魔だよォ!!僕は悪魔だ!それは僕が言ったじゃないか、君とはじめて出会った時に!!」

パ――――ン!!!パッツキン!!

今度はマネキンの胴体と一緒に床に穴が開く。
恐怖で宇佐美が「ウァアアアッ!!」と泣き叫ぶ。
孔蛾は「――外に出ろ!!はやく出ろ!!このままここにいたら、死ぬぞ!」と言って、
泣く宇佐美を無理やり立ち上がらせ背中をトンと押す。
宇佐美は、壊れた眼鏡を捨て、マネキンの頭を抱きかかえたまま「―――アァァァン!!」と叫び走りながら外に出た。
すると、魔王は「アハハ!!彼、人形の首持ったまま出て行っちゃったよ!!馬鹿だね、ゴミ持っちゃって!」とゲラゲラ笑いながら言う。
孔蛾は自分もここを去ろうとしていたが魔王の心無い言葉に立ち止まり、
「笑うな!!あいつは真剣に恋していたんだ!!その相手がマネキンだった、ただそれだけだ!!」と魔王を睨みながら言った。
その睨む眼に、魔王は不機嫌な顔してこう述べる。

「恋、恋とは罪悪なり!!かの文豪、夏目漱石も自身の作品にて"恋は罪悪"と記している。
何ゆえ罪悪?恋すれば盲目になり何も見えず、
恐れ怯え暴れ回る!おかげで自分も他人にも迷惑をかける!傷つける!!それでも人は如何して恋をするのでしょう?
単に己の子孫を残すためか!?エゴの満足の為か!?それだけの行為のために恋をすると言うのなら、人間は動物と等しい・・・」



パ――――ン!!!パッツキン!!ド―――――ン!!メキメキメキッ!!!

ショベルは屋敷の中を暴れまくる。マネキンは見るも無残に砕けていく・・・・。


「―――― −違う!!」
「―――?」
「それは違う。動物とは違う。確かに人は自分の子孫を残したいが為に恋をするのかもしけない。
あるいは利己主義の為かもしれない。だがそれが全てだと俺は思えない!!
恋は盲目で見えなくなって穴に落ちる、けれどそこで愛を見つける事もあると!
人は愛を見つけるために恋をするんだ!恋は素晴らしい事なんだよ!!
もちろん愛を手に入れてもそれが本物だという証拠もないし、よく似た偽物だったりもする。
それ以前に・・・手に入らなかったりもする。
でも、怯えて暴れるだけじゃ何も得られない!!恋した意味がない!!お前が言う恋の罪悪は単なる臆病者の一例だ」

孔蛾は突如口を開くと、さっき魔王が述べたことを強く否定し反論した。・・・・・・ショベルの動きが停まる。

「・・・また、そうやって奇麗事を言う・・・・」

魔王は露骨に嫌な顔をする。
そんな魔王に孔蛾は「奇麗事じゃない、真実だ」と言った。

「―――よく、考えたね。恋について・・・なんでそんなに考えたの?よっぽど暇だったの?
それとも・・・ああ、そうかぁ・・・それは君が恋をしているからなんだねぇ・・・アハハハハ!!
そうかぁ!そうだぁ!!君は恋をしている!アハハハハハハ!!」
「――恋?俺が恋?ふざけるな!!俺は恋なんかしていない!」
「してるさ!!でも気付いていないフリをしている!!この感情はけして恋などではないと思い込ませている。
如何して?怖いからだ!!怖くなったんだ!!深く考えすぎて!考えすぎて身動き取れなくなった!!
だが恋に気付かされた時、既にもう引き返せない、抜け出せない状態だった!!
理屈がわかってもその通りに自分を運べない!!理性も融通も利かない!!
お前も臆病者と一緒じゃないか!!アレだけ散々言っといて!!」

魔王は孔蛾の心の奥底を見透かす・・・・まさにその眼は悪魔の眼、魔眼。赤く鋭く恐ろしく光る・・・・。
更に魔王はベラベラと喋り続ける。

「君は勇敢なテセウスであると同時に間抜けなキューピット"エロス"だよ!
恋に落ちまいと用心しといて結局自分の矢で自分を傷つけ、
人間の女プシュケに惚れた間抜けなエロス!!まさに君ダァ!!!」

―――― −孔蛾は何も言い返せなかった。孔蛾の負けだ。何故なら"その通り"なのだから・・・・・。
もう何も・・・何も言えない・・・・・。
――――見破られた。
孔蛾は奥歯を噛み締め、深く眉間にシワを寄せる。口惜しい。

「叶うといいね、君の恋!――― −アハハハハハッ!!アハハハハ!アハ!アハハハハ!!」

止まっていたショベルが動き出し、魔王の高笑いと共にまた屋敷を破壊していく。
孔蛾は一緒に潰されまいと、壊れゆく廃墟から急いで脱出した。






***







外に出ると、くすんだ青空から小雨が降り注いでいた。
冷たい雨粒に打たれながら、宇佐美が大きな声で泣き喚いていた。
その姿を少しはなれた所から春日子は見ている。「何事か」という顔をして。
宇佐美は腰を落とし、マネキンの頭を手に持ち見つめ、
その顔に向かって「―――大好きだったよ!!君の事が大好きだった!!本当の本当に大好きだったよ!!
僕は君が大好きだったあぁっ!!!有難う!!恋する気持ちをくれて有難う!!ありがとうぅっ!!さよならあぁあああっ――― −!!!」と彼女に告白とお礼と別れを告げた・・・。
その時、マネキンの眼からキラリと一筋光る何かがポロリと零れ落ちた・・・涙だろうか?
それとも顔が雨と宇佐美の涙で濡れているせいで、そう見えただけだったのだろうか?
けれど、孔蛾も春日子も、もう眼鏡をかけていない宇佐美にも、マネキンが本物の人間みたいに涙を零したように見えた。
零れ落ちた綺麗な綺麗な涙は瞬時に固まって、一粒のダイヤモンドになっていた。
それは恋の神様が与えた真実の証拠だったのかもしれない・・・・・・ダイヤモンド、その石言葉は"純愛"なのだから。

――― −日曜の昼下がりの出来事だった。






***







詩人ホフマンは一目惚れをした。
ローマの物理学者スパランツァーニが人形作家のコッペリウスに作らせたカラクリ人形、オランピアに。
コッペリウスの真実の姿は悪魔、その悪魔から魔法の眼鏡を買ってしまったホフマンは彼女がより一層美しく見えた。
彼女がカラクリ人形だとも知れず、恋焦がれた。
親友ニクラウスはオランピアが人形であると伝えるが、ホフマンは彼女に夢中になっている為聞き入れようとしない。
コッペリウスはオランピアの眼の支払としてスパランツァーニから貰った手形が不渡りと知り、
怒ってオランピアをバラバラに破壊してしまった・・・。
そして眼鏡の力が無くなった時、ホフマンは壊されたオランピアを見て、初めて彼女がカラクリ人形だったと気付き失意する。
この瞬間、彼は"失恋"をしたのだ。
その後彼は何度も恋をするが、恋は実らない。
けれどホフマンは愛された、光り輝く美しい"芸術の女神ミューズ"に。

――――崩れて潰れて砕けて鉄屑になっても
それでも君は、僕のオランピア
僕が恋したオランピア ― ―――

さあ、恋をしよう。一生の一度の恋でもいい。一億回目の恋でもいい。
そうすれば、素晴らしい明日が訪れるから。



STORY2終了。STORY3悪魔の鏡へつづく。

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