明くる日、眠そうな顔してパン粉を付ける孔蛾がいた。
昨日いろんなことを考えていたら眠れなくなったのだ。だが、そのくせ体は疲労で疲れている。
「あんたさ〜昨日、春日子ちゃんと夜遅くに帰ってきたけど・・・何処で何やってたんだい?」
朝から怖い顔してカヨ子がネチネチ言ってくる。
「夜遅くって、10時だろーが・・・」
「何言ってんだい!私からすれば夜の10時は立派に遅い時間だよ!」
夜10時に寝て朝4時に起きる人間(カヨ子)にとって、夜10は確かに"夜遅く"である。
けど、孔蛾は「――― −オイ!自分ルールかよ!」と心の中で突っ込む。
「まさか・・・どこかで妙な事していたんじゃないだろうねぇ〜あの子にそんなことしたら承知しないよっ!」
「!バカ!!何で俺があんなチビガキ(春日子)と!興味ねぇよ!!」
春日子との事を勝手に誤解されて孔蛾はあんまりだという顔をする。
しかし追い討ちをかけて「あらやだぁ〜ムキになっちゃって!」とカヨ子は茶化す。
堪らず、「うぜぇ―!ババァ!!」と悪態をつくも「マダムに向って失礼よ!」と怒鳴られ一発ゲンコツを食らう。
その威力は「何処がマダムだよ」と思うほどクソ痛かった・・・。
「で、何処行っていたの?昨日は。
一応私は保護者なんだからアンタ達に何かあったら困るのよ!ちゃんと言って頂戴」
今井の事は誰にも言うなと言われたし、宇佐美の事も説明したら長くなるだろうし(信じてくれなさそうでもある・・・)
もう面倒なので「・・・・天体観測」と孔蛾は言っといた。
カヨ子には「あっそう!」と呆れた顔で言われた。
「―――― −おばちゃんコロッケ一つ・・・・」
表から覇気の無い弱々しい声がする。
「―― ―は〜い!」
お客が来たとカヨ子がレジへ向う。誰かと思えば宇佐美だ。
「あら!どしたの! ?そんなやつれた顔しちゃって・・・・」
カヨ子はエッ!と驚く。何時もは爽やかな笑顔で買いに来るのに、今日の宇佐美はどんよりと陰気で暗いな空気を背負っている。
そればかりか顔色が最高に悪い。気分が大分良くなさそうだ・・・。
「徹夜でもしたの?ちゃんと寝なきゃダメよぉ〜」
「平気です・・・大丈夫・・」
宇佐美は平気と言うが、明らかにそうには見えない・・・。カヨ子は眉を八の字にして心配する。
厨房で盗み聞きしている孔蛾もレジを覗き「正気か?」と小声で呟く。
「―― −あっ!コロッケごめんね・・・パン粉付けたけどまだ揚げてないのよ・・・」
「あっ・・・そうですか・・それじゃ、仕方ないですね・・・」
コロッケが買えないと分かると宇佐美は帰ろうとする。
その姿に「――!あら!ヤダ、ちょっと待って、せめてコレ!コレ持っていって頂戴!!」
「―――えっ?いいんですか・・・・」
カヨ子は急いで大きな業務用冷蔵庫からシュークリーム2つ取り出し、
ビニール袋に入れるとそれを宇佐美に渡す。
「いいんですか?・・・」
「いいのよ!タダで持っていって!ちゃんと食べなきゃ力付かないわよ、まず甘い物を食べなさい」
「・・・有難うございます」
宇佐美は礼を言うと、フラフラと覚束ない足取りで去っていった。
しかし、彼が去っていった方向は彼が通っている学校方向じゃない・・・昨日の幽霊屋敷、廃墟がある方向だ。
それを見ていた孔蛾は「―― −まさか」と思ったが、今仕事でどうしても手を離すわけにはいかない。
追っかけて引け止めようにもそうは行かないのだ。
孔蛾は「あいつ、大丈夫か?」と首をかしげながら、パン粉を付けたコロッケを揚げていく。
***
仕方ないが矢張り心配だ。夕方、仕事を終えた孔蛾は、学校から帰ってきた春日子と一緒に廃墟に行って見ることにした。
すると案の定そこに宇佐美は居た。
何をやっているのかと覗いて見れば、なんと宇佐美はマネキンと一緒にワルツを踊っている。あのヘンテコな眼鏡をかけて・・・。
「――――!宇佐美・・・」
「宇佐美くん!」
宇佐美は二人に気付くとニッと薄く笑った。
重いマネキンを支えて、今にも倒れそうなのに表情はとても嬉しそう。
踊っているといっても宇佐美が、マネキンをほぼ一方的に動かしているといった状態だ。
いつ体力の限界がきてもおかしくない。
孔蛾は部屋の角に落ちているビニール袋を目にする。カヨ子が宇佐美にやったシュークリームのビニール袋だ。
「おい・・・宇佐美・・・宇佐美いつからここへ?まさか店でシュークリーム貰った帰りにここへ・・・」
「ああ、そうだよ・・・昨日約束したんだぁ〜彼女とワルツ踊るって」
踊りながら宇佐美は質問に答える。
"昨日約束した"ということは、昨日孔蛾たちから逃げた後、もう一度ここへ(廃墟)に帰ってきたということか・・・。
「宇佐美くん学校は?制服着ているけど学校へは行ったんですか!?」
「――― −えっ?学校・・・?何それ?」
「!何それって・・・・宇佐美くん・・・」
「それより君達も一緒踊ろうよ〜!踊り方が分からなければ、僕が教えてやってもいいぞォ」
春日子が訊ねるも宇佐美からはまともな返事が返ってこない。
そればかりか「一緒に踊ろうと」と二人を誘う。
「踊らねぇーよ!・・・・宇佐美、帰るぞ!」
冗談じゃないと孔蛾は宇佐美を捕まえ外へ連れ出そうとする。
しかし「ヤダヤダヤメロ!ヤメロ!何すんだ!?僕は彼女とワルツを踊るんだ!!」と言い、昨日のように暴れ出す。
だが体力が弱っているので孔蛾にすんなり抑えられた。それでも手はマネキンを確り掴んでいる。
「―― −宇佐美!いい加減にしろ!!」
孔蛾は怒鳴り、宇佐美の手を無理やりマネキンから剥ぎ取る。
そして強引に外へ連れ出し、
カヨ子が持っていた自治会長名簿(昼休みを利用して探り出した)から勝手にメモった住所を頼りに宇佐美を家まで送り届けた。
しかし、宇佐美は学校にも行かず、次の日もまた次の日もそのまた次の日と懲りることなく幽霊屋敷へと足を運ぶ。
その度に孔蛾と春日子の二人は宇佐美を捜しては連れて帰った。正直これでは切りが無い。
しかも屋敷へ行けば行くほど宇佐美は日に日に生気を吸われ頭も体も酷くなって行く・・・・。
あのマネキンにもう完全に心を支配されているのだ。
当然このまま放って置いていいはずがない。
何とか宇佐美を助けてやらねばと、彼是試行錯誤をするのだが結局うまくいかなかった・・・。
春日子は「如何して宇佐美くんだけ、あのマネキンが人間に見えるのでしょう?」と疑問する。
孔蛾も「・・・たしかに、何故だ?俺たちと宇佐美に何か違いがあるのか?」と考えこむ。しばらくして、
「―― ―眼鏡!眼鏡なんじゃないでしょうか?あのヘンテコな眼鏡!
あのヘンテコな眼鏡がマネキンを人間に見せているんですよ! だから眼鏡をかけていないボク等には見えないんです人間に!きっとそうです!!」
ひらめいた!と言った感じで春日子は自慢たっぷりにそう述べる。
「―― −ハッ?そんな、そんなバカなぁ〜ハハ!ある訳無いだろそんな事。漫画じゃあるまいし。
だいたい、あのだせぇー眼鏡はパーティーグッツ用にあいつが路上で・・・・!」
―――― ―パーティーグッツ用に・・・路上で・・・そうだ、
あいつは買ったんだ・・・髪の長い綺麗な顔した、紳士気取りの男から・・・もしや、
もしや・・・やっぱり、そいつはあの男なのだろうか・・自称"悪魔"のあの男・・・・魔王。
そうだとしたらヤバイ・・・ヤバいんじゃないか?不気味なあいつなら何でも出来そうだ!
「そうかもしれない。いや、そうだ!あの眼鏡が宇佐美をおかしくしているんだ。だとしたら、早く取り上げよう!!」
眼鏡が原因と結論を出した二人は、急いで廃墟へ向かった。
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