前頭連合野/46野のORIGINAL NOVEL

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※著作権は前頭連合野/46野の管理人、怪物の顔(鮭)にあります。





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舞台が在る。赤い幕が上がる。拍手が湧く。愉快な役者が現れた。
客に魔法がかかったおとぎ話の始まりだ。

「まぁ!やっぱり。あなたが、あの有名なピーターパンなのね!?」
「嗚呼そうさ、俺様はピーターパンだ!そんなことより、影を見なかったか?オイラの影を?」

ピーターパンとウェンディの軽快なお喋りが始まる。ピーターパンは小森。ウェンディは新井だ。
ウェンディーが動くために、薄黄色いドレスがヒラヒラと軽やかに揺れる。
大きく露出している胸元も大胆。
どうやら、彼女が着ているドレスは中世ヨーロッパのドレスがモチーフらしい。

「小森さん快調ですね!周りのどの人よりも、それがヒシヒシ伝わります」
「そりゃ、主役だからだろーが」

春日子と孔蛾の無駄口も始まる。二人は客席の三番目の列に座っていた。舞台が良く見える特等席だ。
しかし、孔蛾は背が高いので一人だけポッコリと頭が飛び出て浮いている。当然彼の後ろの席なんて見え難い。
孔蛾の後ろに座っている連中は、皆首を右に左に背筋を伸ばして斜めにも動かしていた。まるで亀みたい。
自分の後ろが、そんなことになっているなんて当然思いも気付きもせず、孔蛾は劇に夢中だった。
というか、新井の胸の谷間に夢中だった。

「劇の見所はどこなんでしょうね?いっぱいあるから全部でしょうかね?
孔蛾さんは、どこだと思います?」
「ウェンディの谷間・・・胸の谷間」
「そう、ウェンディのたに・・・えっ?たにっ・・・えっ!
ちょっと何言っているんですか!」
「劇の見所は、ウェンディの谷間・・・たにま」
「・・・最低です。でも、あなたに訊いたボクがとっても間違いでした」

白い目をして春日子は軽蔑する。だが、孔蛾の目線は谷間に釘付けだ。
ここまで、女の胸の谷間なんぞで夢中になれるとは、自分に正直で幸せな男である。
ただし、同時に単なる馬鹿でもある。

「大人に成りたくなければオイラについておいでよ!
ずっと大人に成らなくっていい、子供だけの夢の島、ネバーランドに行こう!」

ピーターパンがそう言うと、子供たちは目を輝かして彼についていく。そこで第一幕が終わる。
ウェンディは舞台袖へと消えてしまった。谷間も一緒に。孔蛾の集中力が途切れる。

「・・・谷間が消えた、俺の谷間が!」

孔蛾は、遊んでいたオモチャを取り上げられた子供みたいなる。
打ちひしがれる孔蛾に春日子は「また出てきますよウェンディ。
でも、孔蛾さんは観るところが間違っています」と嫌味たっぷりに言ってやった。
孔蛾は春日子の嫌味なんて全く気にはならなかったが、谷間が消えたことで楽しさが無くなった。
しかたないので、考え事でもすることにした。何を考えようかと考えていると、あの事が思い浮かぶ。
昼前に乗った観覧車の中でも少し考えてしまった『大人に成らない方法』についてだ。
――――大人に成らない方法。大人に成らない方法・・・子供じみた大人は所詮大人。大人・・大人。
孔蛾は早速考える。腕の甲に顎を乗せ『考える人』のポーズをとりながら考える。
考えだしたら、とまらなくなってくる。次の幕が開けても考えている。
あんなに夢中になっていた胸の谷間、ウェンディの事なんて忘れてしまっている。
孔蛾は全体の劇をぼんやりと眺めながらも、頭の中は考え事でいっぱい。
舞台はそんな孔蛾を置いて、どんどん進行していく。
舞台の上でピーターパンとフック船長が、船の上で戦っている。
フック船長の攻撃を、軽やかにピーターパンはかわしていく。
フック船長は真っ赤な海賊衣装にナポレオン帽を被っているが、役者が高校生なのでかなり童顔。
役柄とかみ合っていない。その上、付け髭も似合ってない。
そんなフック船長は、その不釣合いな顔を歪めて「おのれぇ!こしゃくなっ!」と声を上げる。
ピーターパンは得意げに「フン!」と鼻で笑う。二人の鮮やかな動きに、春日子は目を輝かしていた。
――――大人に成らない方法。大人に成らない方法・・・方法。あーっ!わかんねぇー!
つーか、だいたい、ピーターパンがおかしいんだよ!何で大人に成らない体なんだよ!
永遠に身も心も子供なんだろ?だったら"大人に成らないんじゃなくって、大人に成れない"じゃん。
――――はっ!大人に成らないんじゃなくって、
成れない・・・成れないは・・・成らない・・・!成らない!!
――――まっ、まさか!!そんな、まさかっ!!
やがて船の端に追い詰められたフック船長は「グフフ――」と悪意に満ちた笑みを浮かべる。
袖の中に隠し持っていた猟銃を取り出す。
そして、その銃をピーターパンの胸の中心、心臓に目掛けた。
銃の先端は鈍くピカピカと光っている。
今度はフック船長がピーターパンを船の先へと追い詰める。じりじりと。
――――まさかっ!!そんな、そんなことって、そんな馬鹿な!究極過ぎるそんな方法!!
ピーターパンを狙い定めたフック船長は、あとは銃の引き金を引くだけだ。

「馬鹿!ヤメロ――――― ――ッ!!!」

突然、孔蛾は狂ったように絶叫し、席から立ち上がりステージへと駆け出す。
慌てて警備員が孔蛾を取り押さえる。その姿を目にして客席が一斉にどよめく。
隣に座っていた春日子も何事かと驚いている。フック船長も思わず構えた銃をおろしてしまう。
しかし孔蛾は、警備員にもめくちゃにされながらも諦めず抵抗し「馬鹿!はなせっ!はなせっ!!ヤメロー!撃つな!撃たせるなぁ―――!」と叫ぶ。 この時、シーンがシーンだけに、周囲は孔蛾を「劇にのめり込み過ぎた、迷惑な客」と思っていた。
春日子も「・・・孔蛾さんどうしたんだろう?あんなに胸の谷間に夢中だったのに。
何時からそんなに劇のほうに夢中になっていたの?でも、行き過ぎなんじゃ・・・」と心の中で疑問する。
突然の孔蛾の行動に驚いて、唖然としたままのフック船長だったが「これ以上、舞台をダメにしてはいけない。
続けなければ」と思い。再び銃を構えピーターパンを狙い定める。
すると、ピーターパンはゆっくりと両手を広げ水平にする。
そして突然、台本には無いアドリブを言い出だした。

「重い体、魂抜けたら軽くなる。僕はピーターパン」

孔蛾は、自分を奥へと引き摺る警備員の腕をガブリ!と思いっきり噛む。
「痛っ!」と声を上げ、警備員が怯む。怯んだ隙に孔蛾は逃げ出し、ステージへ。だが、既に時遅し。
フック船長は銃の引き金を引いてしまった。

「ヤメロ――――――――― ――ッ!!!」

孔蛾の絶叫と同時に、

バ――ン――――― ――ッ!!!!!という重い音が鳴り響く。

「――――空飛ぶピーターパン」

ピーターパンは胸の後ろから、おびただしい血を噴出しながら船から落ち、バタン!と倒れる。

キャ――――――――― ――ッ!!!とウィンディが悲鳴を上げる。辺りは騒然とする。
銃を撃ったフック船長はその場にへたり込み、撃った銃を捨て、
「俺じゃない!俺がやったんじゃない!!そんな、まさか本物だったなんて、まさか、避けないなんて・・・そんな!そんなこっとて!!そんなぁ――――アァッアアアアッァアア!!!」と絶叫しながら、両手で狂ったように髪を掻き毟る。
台本ではフック船長が撃った弾をピーターパンが避けるはずだった。
しかも、当然銃は良く出来たレプリカで、撃つ弾も派手な音だけの空砲のはず。
なのに・・・・銃は実弾の入った本物で、ピーターパンはそれをまったく避けなかった。
まるで全てを待ちかねていた様に。

「なんで、何でこんな馬鹿な事をするんだ!何でこんな方法を選んだ!何でたった一つの命を捨てる!!大人に成らない方法が、死ぬことだなんて!間違っている!間違っているよ!!そんなにお前は大人を拒むのか!?そんなに子供を永久(とわ)のピーターパンと過信するのか!?違う!間違っている!世の中には大人と変わらないぐらい、汚い賢いガキが沢山いる!!ずるい大人を利用する子供だっている!悪意で人を殺す奴だっている!!子供の王様だっているんだよ!服を着ていると勘違いしている、裸の王様が!大人になるということは、けして絶望なんかじゃない!子供の裸の王様に教えてやれるんだ、お前は服を着ていないって!大人にだって言えるんだよ!言える大人がいるんだよ!大人に成るということは子供を守れる立場に成るってことなんだ!!素晴らしい事なんだよ!」

孔蛾はそう激しく言いながらピーターパン・・・小森の上半身を起こし、肩を掴む。
小森は薄れてゆく意識の中、ぼんやりと孔蛾の顔を見てニコッと笑い、ゴフッ!と血を吐いた。
孔蛾の顔に真っ赤な血飛沫がピシャッ!と飛び散り、ベットリとへばり付く。

「!!オイ!死ぬな!死ぬんじゃないっ!!オイ、死ぬな!!俺の命の恩人が言ってたぞ!
命を粗末にしてはいけません。命を粗末にするとバチが当たるって!!
言っている意味解るか?お前これから、死んでからバチが当たるって事だぞ!死んでも罰に当たらなくちゃいけないんだぞ!
だから死ぬな!!勿体無いお化けだって出てくるぞ!!
オイ!!馬鹿!!聞いているのか!?オイ!オーイッ!!」

何処からか、誰かの"パチンと指を鳴らす音"が微かに聴こえる。
その音が小森の耳に届くと、小森の呼吸がピタリと停まった。酸素を吸わない。
それは、終わりの合図。孔蛾の問いかけも空しく、小森は息絶えたのだ。
その最後の顔は何かを成し遂げたかのような、誇らしげな笑い顔だった。

人間の血の勢いというものは凄まじく激しい。 皮肉な事に、彼の心臓から噴水の様に湧いて噴出した血潮は床へ散らばり、落ちたとき背中に付いて、紅い翼を見事に絵描いていた。
ピーターパンはその翼で飛んでいってしまったのだ。夢の島、ネバーランドへ。

「―――――馬鹿っ・・・馬鹿野朗!!大馬鹿野朗!!!ア――――チクチョウ――!」

涙を流しながら孔蛾は叫んだ。
一方、観客席では真っ青な顔をして春日子が突っ立っていた。
小森の惨劇を直視してしまったのだ。完全に血の気が引いている。
それに気付いた孔蛾は小森から離れ、慌ててステージから飛び降り春日子に駆け寄よる。
そして彼女の目を手で覆い、きつく体を抱きしめた。絶対に小森の亡骸を見せないようにする。

「――お前は見るな!もう何も見るなっ!!見るなっ!!」

孔蛾の涙と小森の吐血の後が春日子の頬に触れる。悲しみの跡だ。冷たい。とても冷たい。
体の力が一気に抜け崩れる。孔蛾の腕の中で、春日子は気を失ってしまった。
誰かが通報した救急隊が押し寄せる。救急隊はあっと言う間に、既に息絶えた小森を囲む。
残酷にも今日の観客は小さな子供を連れた家族ばかり。
死の意味をまだ理解出来ぬ幼児にすら、この出来事は人生において一生のシコリとなることだろう。
もう、この中央広場にはパニックになった観客達と遅れてやってきた救急隊しか何も見えない。
舞台が消える。赤い幕が下る。拍手は無い。愉快な役者が死んだ。客の魔法があっと言う間にとけた。
おとぎ話は終わってしまった。






***







孔蛾は気絶した春日子を背負い混雑した広場から抜け出そうとする。
その時、背が高く髪の長い男の後ろ姿を目撃する。その男には見覚えがある。
そう、そうだ、アイツだ。自分たちを覗いていた、あの観覧車の男だ。間違いない。
孔蛾はあの時の事で文句の一つでも言ってやろうと思い、急いで男の後ろ姿を追いかける。
春日子を背負っているのでスピードがあまり出ない。
だが、男はゆっくり歩いているので直ぐ追いついた。

「オイ!お前!」

孔蛾は男を呼び止める。男は声に気付き振り向く。
人間離れした美しい顔をこっちに向け、「何か僕に御用ですかぁ?」と紳士気取りな挨拶をした。

「お前、観覧車でずっと俺たちのこと覗いていただろ! しかもニタニタ笑って!!どういう趣味してんだよ!」

さっそく孔蛾は観覧車の事を責める。

「別に。たまたま目に入ったものが面白くって笑っていた。ただそれだけのコト」

男は悪びれた様子も無く、淡々とそう答えた。
そして突然、孔蛾の顔を指差すと、「――――アハ八ハハッ!アハハハ!アハッ!!」と馬鹿笑いする。
男の奇怪な行動に「・・・何笑ってんだよ。何が可笑しいんだ !」と孔蛾は怒鳴った。
すると男は「君の顔は真っ赤なのに、彼女の顔が真っ青だから」と答える。
それの何処が面白いのか分からないか、男は笑っている。

「真っ赤・・・」

孔蛾は左手で自分の顔を触る。ネッチョリとした嫌な感触がした。
触った手をはなす。手の平を見つめると、赤い血が付いている。小森の吐血の血だ。かけられた事をすっかり忘れていた。
孔蛾は袖で顔をゴシゴシと擦り、付いた血を拭う。それを見て男は「まるで猫が顔を洗っている様だ」と笑って言った。

「・・・・お前、何者なんだよ!」

このどうにもこうにも掴めない男に、孔蛾は何者かと問い掛ける。

「俺?俺は魔王。悪魔だよ」

男はそう答え、ふと笑う。

「・・・魔王?悪魔?」

孔蛾は眉をひそめる。
春先が近いから、早くも馬鹿がうろついているのかと思うと、嫌悪感が湧く。

「そう、悪魔だよ。俺は悪魔。どんな願いも命と引き換えに叶えてあげる、悪魔。
言っておくけど嘘じゃないよ、さっきだって願いを叶えてやったばかりだ。ピーターパンの」
「―――!?ピーターパン!」

孔蛾は息を呑んだ。ピーターパン・・・小森の事だ。
広場でこの男を見つけられたという事は、この男が広場にいたという事。
まさか、この男が死んだ小森と何らかの関係があるのでは?孔蛾は思い出す。
以前、小森が「悪魔と取引をした」と言っていたことを。
孔蛾は思わず男に向って「まさか、お前が小森さんを殺したのか!?答えろ!どうなんだ!!」と問い詰めた。

「殺しただなんて人聞きが悪い。彼は自殺だよ。僕は何一つ手を下しちゃいない。
唯一した事といえば、僕が"大人に成らない方法"を彼に教えただけだよ。
なんせ僕と彼は"取引"をしたのだからね。
なかなか面白かったよ、彼との取引は。
でも、彼は無様に死んだね!しかも公衆の面前で。傍迷惑だよ、あの死に方は!
掃除の大変以前に、もうあのステージは二度と使えないね。遊園地もイメージダウンだ!
本当に飛んで逝っちゃったね彼、空飛ぶ哀れなピーターパン!アハハ!アハハハハ!!アハ!アハハハハ!!」

男の高笑いが蒼い天に響く。

「笑うな!人が死んだのに、笑うな!!笑うんじゃない!!!
お前に笑う権利は無い!!!ぜったいにぃ!!」
なんだ、その馬鹿にした態度は。孔蛾は声を酷く荒げた。
そして、かつて無いほどの怒りが込み上げてくる。

「アハハ・・・だって、しかたないじゃん。可笑しいんだもん。我慢できないね。笑うのは。
それに、我慢するのは体にもよくないし。
もし、僕が不健康に成ったら君のせいだよ?そうだ、君も笑ったら?楽しいよ、アハハ」
「ふざけるなっ!!!俺は死んだ人を笑ったりしない!失礼だ!笑えない!笑えるものか!!」

腹の底から孔蛾は叫ぶ。男はその迫力に一瞬顔をキョトンとさせ、突然パチパチと拍手を送り出す。
そして「君は素晴らしい!常識人だ!正義感溢れる好青年だ!偉い!」と孔蛾を褒め称え出した。
だが、孔蛾は黙って、ひたすら男を睨みつける。すると男はこう続けて言った。
「そんな正義感の強い君に"ちょっとした哲学"なコトを教えてあげるよ!
一番手っ取り早く幸福を手に入れたいと思うなら、持っているモノを捨てるコトだね。
できれば、全てのモノを捨てる。何も持たない。そうすれば"何も無いという幸福"が得られる。
意味解るかい?何も無いということは、何も奪われないし、何も無くさない。
つまり、持っていることによる不幸がない!何も無い!
だから、彼は捨てたんだよ!自分を不幸にしてしまう、邪魔な体!大人に成ってしまう体を!」と。

「うるさい!」

孔蛾は腹が立って、腹が立って、たまらなく腹が立って、怒りで目頭が熱くなる。 唇もわなわなと震わせる。

「おかげで彼は、大人に成らずに済んだ!子供のままでいられた!」

追い討ちをかけるように男は言い続ける。とても面白がっている。

「もう、大人に成るという不幸を抱えないで済んだ!」
「喋るな!」
「根本的なコトさ!」
「だまれっ!」

ついに男の言葉に耐えかねて、孔蛾は押さえ潰す様に怒鳴った。眼は涙ぐんでいる。
そして、続けて「黙れ!黙れ!このペテン師!!」と貫くように言い放つ。
男は「――ペテン師!」と言う言葉に反応し、眉をつり上げ、そして不機嫌になった。

「ペテン師?ペテン師?この俺がペテン師だと?
あること無いことボロクソ書く、ゴシップ週刊誌の記者と一緒にするな!違う。
俺は正直者だ、真実の語りべだ!」

男は怖い顔して言い返す。

「いいや、お前はペテン師だ!知った振りして、人を騙して、いいように糸で操っているんだ!」
「俺は人なんて騙しちゃいない。何時も真実を語っているだけさ」
「違う!あんなのは真実とは言わない。"何も無いという幸福"なんて悲しすぎる!空っぽすぎる!
そんな虚無なモノ、幸福なんて言わない!捨てるなんて、単に楽になりたいだけだ!
手っ取り早い幸せなんてない!何の苦労もしないで幸福なんて得ることはできない!
もし、全部捨てることで幸福が得られるなら人は何のために"何かを手に入れようとする"んだ!得ようとするんだ!
そこに"意味があるから"なんだ。
何かを手に入れることで、その何かが幸せを運んでくるかもしれない、悪かったモノも良いモノに変わることだってある。
だから"何かがあるという幸福"がある!それに身を入れることが必要だ!」

孔蛾はキッパリと言ってやった。
男の幸福論を、暗黒を強い光が切り裂くように切り捨てた。
まるで正義の弁論者。
だが、男は不意に笑い「俺は奇麗事は大嫌いだ。それは幼稚な奇麗事だ」と呟く。
孔蛾は、「別に分かっているさ。でも奇麗事なしでは人は絶望して前へは進めない」と言い返す。

「君は、なかなか利口だな。今まで俺が出会った人間の中で二番目。二番目に見つけた、お利口さんだ。
一番目は女だった。地位も誉もある若い女」
「・・・・だからなんだ」
「褒めてやってるんだよ!」
「五月蝿い」
「・・・お利口さんだが、頑固で気の短い男だな。感情的になって攻め立てる癖もある。
そうだ、これだけは覚えておくといい、
1あなたの動機は、必ずしもあなた自分自身で思っているほど
  利他的ではないことを忘れてはいけない。
2あなた自身の長所を過大評価してはいけない。
3あなたが自分自身に寄せているほどの大きな関心を
  ほかの人も寄せていると期待してはならない。
4たいていの人は、あなたを迫害してやろうと特別に思うほど
  あなたのことを考えていない。
これはラッセルの"被害妄想"についての論さ。
つまり、僕はアナタに危害を加えようとか、陥れてやろうとか、そういう悪しき考えは持っていないこと。
君が僕を呼び止めた、だから君と会話をした。そしたら君が怒った。
その原因はボクの言動が君の逆鱗に触れたから。ただし、この言動に僕は僕自身の悪意は全く無い。
これらの切欠は、たまたま僕と君は2度も偶然出会った。ただそれだけの事。
君は偶然起こり得た事を、何か必然的にしくまれたのではないかと、何か意味があるのではないかと、深く考えそうなタイプたから、変な被害妄想はおよし下さい。
ま、人間なんて動物は"一度出会えば偶然"と思い。
二度会えば"運命から与えられた必然的な導き"なんぞ勝手に妄想する。
ま、実の所ただ単に互いの、行動範囲の狭さのせいでたまたまよく出会うってだけなのに。
アハハ!くだらねぇ!じゃ、失礼」

男は貴族紳士の様なお辞儀をペコリとし、去り際のついでに一言こう言った。

  「僕の仕事はただ一つ、僕がパチンと指を鳴らす。
すると、たちまち世界が滅びるのさ――― ―」


突然、強い風か四方八方から吹き、男の長い髪を踊らせる。孔蛾は突風で巻き起こった砂埃にやられ一瞬目をそらす。
風がおさまって、目を開けた時にはもう、男の姿は無かった。風と一緒に消えてしまったのだろうか。
まだ空が明るいのに一番星が輝く。一番星とは一体どの星のことを言っているのかと問えば、よくいわれる正体は太陽系の二番目の惑星、金星である。
ちなみにこの金星という惑星、ルシフェルとも呼ばれている。
ルシフェルとは、それはそれは美しい大天使だったが神に歯向かったため地の底へ叩き落とされた堕天使の事で、後に彼は地獄の君主になり、こう呼ばれるようになった"魔王"と。

STORY1終了。STORY2オランピアの恋へつづく。

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