前頭連合野/46野のORIGINAL NOVEL

※ 無断転載等、持ち帰り等はしないで下さい。
※著作権は前頭連合野/46野の管理人、怪物の顔(鮭)にあります。





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日曜日、鮮やかな青色が空一面に塗り広げられている。
賑やかな笑い声と話し声が四方八方から聞こえる。 色彩豊かなお城に華やかなパレード。ここは愉快な遊園地。

「遊園地とか行くの5年ぶりだなぁ〜」
「そうですか、ボクは初めてです!」

春日子と孔蛾は入場門の前でそう話す。
門の上には『ようこそ!ゴールドアップルランドへ』と大きな看板が掲げられている。
孔蛾はそれを見て「ゴールドアップル・・・眩しそうな名前だな。
あと、硬そう。口に入れた瞬間全部の歯が砕け散る」などと変な想像を思わずしてしまった。

「―― ―ごゆっくりどうぞー」

抜群のスマイルで遊園地のお姉さんは入場券を切る。
散歩あるくと二人の目の前には、沢山の色が散りばめられたアトラクションがあちこちに建っていた。
この巨大なオモチャたちに春日子は目をキラキラと輝かせる。 なんせ、彼女にとって遊園地なんて初体験。
一人テンションが上がり過ぎて変になっていた。

「劇が始まるのは2時からです。それまで何か乗って遊びましょう!」

春日子は孔蛾の腕をつかむ。

「・・・何乗るの?」

孔蛾は嫌そうな顔でする。彼は入場門をくぐった時からわかっているのだ。
どのアトラクションも込んでいて並ばなければならんと。実に面倒臭い。

「アレがいいです!」

春日子は元気いっぱい右を指差す。
右を見るとジェットコースターが物凄いスピードでレールを滑り、
乗っている客はムンクの叫びみたいな顔になって「キャ―― −!!」と絶叫している。

「・・・・・アレはダメ。絶対ダメ。アレ乗ったら俺、泡吹く」

孔蛾は青い顔を横に振り拒絶。
実はこの男、絶叫マシンが大の苦手であった。

「・・・わかりました。じゃ、アレはどうでしょう!」

乗って泡を吹いてしまうのでは仕方ない。ジェットコースターは諦めよう。
春日子は気を取り直して、今度は力いっぱい左を指差す。
左には、メリーゴーランドがあり、おとぎの国に出てきそうな乙女チックな馬たちがクルクル回っている。
その周りには幼児とお父さんお母さんしかいない。

「ダメ!アレに大人は乗らないの」

「何で?」と聞く春日子に、
「何でって、いい歳した大人がメリーゴーランドなんかに乗らなきゃいけないんだ、恥ずかしいだろが!」と孔蛾は猛抗議。
青かった顔がトマトみたいに真っ赤に変わっている。

「えっ・・・じゃ、アレ」

ジェットコースターもダメ、メリーゴーランドもダメ。
なら、もうこれでいいやといった感じで春日子は前を指差す。
指の先は、この遊園地の大目玉である大観覧車を示している。


「観覧車か・・・」

孔蛾は独り言のようにそう呟いた。






***







ど〜んと上から下を見下げていく、
園内は人間が豆粒から米粒にどんどん変わっていく。音も無く空へと近づく。
直径100mもする大観覧車の姿はダイナミックだが、中は静かで、ゆっくりと回る。
二人を乗せて。


「孔蛾さん、遊園地には色んな乗り物がいっぱいあるんですね!
一体どれぐらい在るんでしょうね?」

春日子は台から食い入るように下を見下ろす。

「70」

対面して座っている孔蛾がそう答えた。

「ホントですか?凄い!なんで分かるんですか!
超能力の素質あるんじゃないんですか!?」

手品でも観たかのように驚く春日子に孔蛾は「そうかも。俺、第二のユリ・ゲラーに成れるかも・・・」と、とぼけた口調で答えた。
「今更なんだ、アトラクションの数や種類なんて、貰った園内マップに書いていたじゃねぇーか。
俺に聞くなよ、気になるならソレ見ろよ!てか、そこに気付けよ!」そう心の中で突っ込む。
孔蛾には、はしゃぎ過ぎている春日子が余りにも幼稚に思えた。

「春日子お前、遊園地も初めてなら観覧車も初めてなわけ?」

ぶっきら棒に孔蛾が聞く。

「違いますよ、観覧車はこれで二回目です。
最初に観覧車に乗ったのは去年の秋でした。 絵理加先生に連れて行ってもらいました。
大きなデパートの屋上にある、赤い観覧車に絵理加先生と二人で乗りました。
下から見る風景は全部背の高いビルだったから、コンクリートジャングルを上から見ている感じでした。面白かったです。
絵理加先生は、今度は夜に乗ろう。夜の方が街のネオンが見られて、とっても綺麗だからって言っていました。
だど・・・あれから絵理加先生は連れて行ってくれません。お仕事が忙しいから仕方ないでしょうけど・・・・」

春日子は子供の作文みたいに喋って答える。

「へぇ〜」

孔蛾は生返事をする。
自分で聞いておきながら、「別にどうでもいい」といった感じだ。ただ横を向いて景色をぼんやりと眺めている。
「そういえば、劇がある中央広場って何処だったっけ?」とふと思い、ガサガサとコートのポケットからマップを取り出す。
ちなみに孔蛾が着ているコートは、自殺し損ねた日に着ていた、あのカーキ色のコートだ。
どうにもこのコート、彼の愛用品らしい。
というか、これ一着しか持っていない。
―――― あっ、余計なものまで出てきちゃった。
ポケットの中から案内マップと一緒に、入り口で千切られた入場券の半券も出てくる。
半券の左上には『大人(一般)』と、ちょっと目立つような中文字で印刷されている。
――――大人かぁ・・・大人、大人。
「大人」という字を目にして孔蛾は昨日の小森の言葉を思い出す。
「―――孔蛾さん、 あなたは大人にならない方法を知っていますか?」と言ったあの言葉。
――――大人に成らない方法かぁ・・・それって、マナー違反で、世間知らずで、礼儀知らずで、迷惑極まりない、超自己チューな大人として生きろってこと? そりゃ〜ないだろ。よく、子供!子供!て言うけどさー。
この手の大人は単に、親の仕付けが成ってないまんまデカくなっただけ。
確かにそいつの脳味噌はガキと同じだろうけど、図体は確実に大人。子供とは言えない。
ただの、子供みたいな大人だ。つまりダメ人間。大人に成らない方法とは言えないな。
あっ!そうだ、中央広場探してるんだった。ヤベ―忘れるところだったよ。
孔蛾は肝心なことを思い出し、慌ててマップを広げる。
「げっ、観覧車と中央広場って結構離れてんだなー。歩くのメンドクサ!」と独り言を言う。
そして、他には何が在るのか、トイレや食事の場は何処か、などもそれとなくチックする。


「春日子さー、園内にレストランが二箇所あんだけど、
洋食の店と和食の店。お昼どっちで食う?」

マップから目を上げる、春日子に目を向ける。
春日子は「う〜んと」と洋食と和食どちらにしようかと悩む。
孔蛾の視界には春日子はもちろん、春日子の後ろの背景も入ってくる。
ふと目線が背景へ飛ぶ。どうしてか、凄くそれが気になる。
普通なら背景なんて気にならないのだが、なんか違和感が湧く。
如何してだろうか?どうにも後ろの青い台から視線を感じる。
台の中には黒くって分度器みたいな半円が見える。最初何だろと思ったが、
よく見ると人の頭半分だとわった。徐々にそれは全体の姿を現していく。頭の次は青白い顔が見える。
顔は一瞬女性に見えたが、アゴの先が四角く尖っているので、男の顔だ。
男の顔は、この世のものとは思えぬ美しい顔をしている。
しかし同時に不気味で恐怖を漂わしている。まるで"悪魔"の様に。
――――やっぱり。こっちを見ている。
孔蛾は男と目が合う。男はニタニタと不気味に薄ら笑う。挑発的な態度だ。
――――コ、コイツ!
思わず孔蛾は立ち上がり、対面する春日子の方へと歩く。
荒く足を動かすので台がギイギイと少し揺れる。
孔蛾は眉をきつく寄せ、眉間のしわを深くさせる。
春日子はそんな怖い顔で近づいてくる孔蛾に戸惑い、冷や汗を浮かべる。
――――ボクが早くどっちにするか、決めないから怒っているだ孔蛾さん・・・。
春日子は勝手にそう思い込み、「早く決めなくっちゃ」と焦る。
一方孔蛾は春日子にズンズン近づき、しまいには春日子とほぼ密着に近い距離になる。
孔蛾は春日子が座っている段との差があるので、バランスを崩し前に倒れこまないようにと、後ろのガラスにペタンと手をつく。
向かいの男の全体がよく見えた。
細い胴体に、自分よりも高そうな身長、黒くってストレートな長い髪。
服装は、ビジュアルバンドマンが着てそうな格好をしていた。
一方、春日子には孔蛾の喉がよく見えた。
なんか満員電車の中、吊り革を持っている人を見上げている感じだ。
首を落とせば孔蛾の胸で窒息しそうになる。本当に距離がない。

「しろじろ見るな!あっち向け!」

男に向かって孔蛾は大きな声で怒鳴り、右手で「しっしっ」と猫を追い払う様なジェスチャーをする。
声が伝わらなくっても、何とか口の形とジェスチャーで伝えようと必死だ。
何よりも自分は怒っているのだと言いたい。


「み、見るなと言われても・・・・あっち向けって言われても・・・身動きができない・・」

思い込んでいる春日子は自分が怒鳴られていると誤解している。
再度「こっち見るな!」と怒鳴る孔蛾に、男は余計ニタニタと笑う。 三日月みたいな口が余計ムカツク。
――――露骨に笑うな、一体何がそんなに面白い。
孔蛾はガラスをドンドンと激しく叩き、「オイ、お前聞いてんのか!?」といった感じで必死に怒りをアピールする。
たが、男は愉快に笑っている。
「オイ!コラ!」と怒鳴るが、空しくも観覧車は動いているので、
何時しか現れた男は何時しか消える。徐々に男の姿は見えなくなってしまった。


「ヒッ!よォ、よ、洋食!よよっ・・・洋食のお店でいいです!」

突然春日子はうわずった変な声を出す。
また自分が怒鳴られたと思って反射的に口走ったら、こうなってしまった。
孔蛾は「!えっ、洋食?よ、洋食ね。ハイ」と慌ててそう返す。
不意を突かれた感じだ。男の事でレストランのことなんてスッカリ忘れていた。
ガラス越しに孔蛾の気の抜けた馬鹿っぽい顔が映る。孔蛾はポカンと口を開いていた。







***







「なんだ、ボクに怒鳴っていたんじゃなかったんですね」

春日子は、美味そうな照り焼きハンバーグを口に運びながら喋る。

「覗きだよ!の・ぞ・き!俺たちのことを、ずっと覗いていた奴がいたんだよ!」

カツにカレーをドパドパかけながら孔蛾は会話を返す。
春日子と孔蛾はパクパクと次から次へと食べ物を口に詰める。
観覧車を降りた二人は園内の洋食レストラン『裸の王様』にいた。


「お客様、お冷やのオカワリよろしいですか?」

ヒラヒラの白いエプロンを着けた可愛いおねぇーちゃんが、
お冷やのポットを手に二人の前でニッコリ笑う。
「ボクはいいです」と断る春日子と対象に孔蛾は「下さい」と言い、満面の笑顔でコップを差し出す。
やましい心が丸見えだ。「どうぞ」とニッコリ笑って、
従業員のおねぇーちゃんは孔蛾のコップにトプトプと水を注ぐ。
「ありがとう!」と大きな声でおねぇーちゃんにお礼を言う。
おねぇーちゃんは「いえ」と苦笑いをし「失礼します」と言って去っていく。
孔蛾は彼女の後ろ姿を潤んだ目で見つめる・・・・・。
――――き、気持ち悪い。
この変な空気を変えたい春日子は「その覗いていた人、どんな感じですか?」とさっきの話題を孔蛾にふる。

「えっ?あー、なんかさー見た目からして、陰気で気持ちの悪い奴なんだよ!
ビジュアルバンドマンみたいな格好しちゃっててさ!
長髪に黒のシャツに銀のエナメルのパンツだよ!
そんで、そこへんにシルバーアクセなんか付けちゃって!
全然遊園地に溶け込んでねぇーの!なんで来たんだろーな、一人だったし」
「なんか、変な人ですね」
「観覧車降りたら、真っ先にソイツ見つけて文句言ってやろーと思ったら、もういやしねぇーの! あー腹立、キ―――――ッ!」

孔蛾はハンカチを噛む様に、食べているカツカレーのカツを噛み千切る。
カツの豚肉がブチブチと引き裂かれる。
そして肉の切れ端を口へ押し込み、クチャクチャと音を立てて噛む。

「・・・・孔蛾さんテーブルマナー最悪です。
汚い食べ方をしてはいけませんって、絵理加先生が言っていました」

クチャクチャと音をたてて食べる孔蛾に春日子は「テーブルマナーがなっていない」と注意する。

「――― ―あん?」

孔蛾は顔をしかめ、ガラの悪い顔になっている。
喧嘩前のヤンキーみたいだ。口の中の肉が上手く噛めないので、
こんな顔になってしまったらしい。

「孔蛾さん、クチャクチャ音を立てないで下さい。ガムじゃないんですから!」
「しかたねぇーじゃん、俺ストレスでアゴの噛み合せが悪くなって、 おかげで肉が上手く噛めないんだよ!」

孔蛾は左で自分の頬を労わる様に優しくさする。

「だったら、肉の入ったカツカレーなんて食べないで下さい!」
「別にいいじゃねぇーか、人が何食っても肉食っても!」
「個人一人でなら何もいいませんが、人前でクチャクチャ音を立てて食べるのは気になります」
「じゃ〜気にするな」
「ボクはどうしても気になってしまいます!」
「我慢しろよ」
「孔蛾さんが我慢してください!」
「やだね!俺は肉を食い続ける」
「子供じゃないんですから、もっと周りに気を使って下さい!」

孔蛾の肉の食い方について、何時しか口論となる。
二人は互いに一歩も引かない。

「おい、子供ってピーターパンじゃあるまいし」
「何ですかそれ?」
「男は皆ピーターパンなんだよ、ピーターパンに憧れるんだよ!」
「はぁ?」
「夢見る少年なんだよ!ロマンチストで無邪気なんだよ」
「・・・まったく言いたいことがわかりませんが、
孔蛾さんの口からロマンチストという言葉が出てきて気持ち悪いのは確かです」
「――― ―うっ!」

「孔蛾さんの口からロマンチストという言葉が出てきて気持ち悪い」と言われ孔蛾は顔を歪めた。
確かに、自分でも「ロマンチスト」言った自分が気持ち悪い。
孔蛾は情けなくなって春日子から視線を外す。

「ボクはピーターパンよりも、フック船長の方が面白くって好きでした。
格好いいじゃないですか、フック船長のあの帽子!
ボクも男の子なので海賊には興味があるんだと思います」

突然春日子は訳のわからない事を言い出す。

「へぇ、何言っちゃってるの?お前女じゃん!」

春日子には、ふくよかな胸が有る、身体も丸い、声も低くない。
女だ、どっからどう見ても女だ。確実に女だ。
なのに、彼女は「ボクも男の子なので―――― 」と言った。

「違いますボクは、本当は男の子です。
今は女の子だけど、悪い奴の魔法が解けたら男の子に戻れるんです」

春日子は真面目な顔をして平然と語る。
とても冗談なんて言っている様には絶対見えない。

「お前、それ本気?本気で言てるの?」

孔蛾は訝しげに眉をひそめ、問う。
サラダの和風ドレッシングみたいに、さらりと春日子は答えた。

「・・・・きっとお前の夢だよ、
熱出している時うなされながら見たんだって!夢だよ、ゆ・め!」

孔蛾は「信じられない」という顔して言う。
宇宙人の存在を認めない科学者の態度そっくりだ。

「夢じゃありません、事実です!」と反論する春日子に、孔蛾は「夢、ゆ・め!ユメ!」と言うばかりで相手をしない。
とうとう春日子は「もういいです、孔蛾さんにはもうこの話はしません!」と拗ねてしまった。

「じゃーさー話題かえよーぜ!これ知ってる?『使えば使うほど減ってしまうもの』ってな〜んだ?」

思いついたように孔蛾は謎々をする。
「それ知ってますよ、答えは鉛筆でしょ?」と春日子が答えると。
孔蛾は「はい、ブッブー!正解は"軟骨"でした」と突飛な答えを言う。

「何ですか、その答え!」
「俺もわかる、その気持ち。俺も鉛筆って答えたもん。
実はこのナゾナゾさー水島が考えて俺に出したんだよ。
なんか、歳とともに軟骨の成分であるコラーゲンは減っていくらしいよ」
「知りません!そんなの!意地悪クイズでも出しませんよ、こんなマニアックな問題!
だいたい、軟骨の成分であるコラーゲンとか、健康食品のCM情報じゃあるまいし!
てか、水島って誰です?」
「あと、カメレオンってさー綺麗だけど、なんか目が微妙に気持ち悪いよな。
あっ?これも水島が言い出したんだっけ?いや、宮内だっけ?」

水島についての疑問を無視して、次の話題にうつる。
そして何故か、カメレオンの話をチョイスする孔蛾。

「ま、どっちでもいいか。兎に角さ、視線が『この世の末路を見ています』って感じしない?」

すっごく活き活きと喋る。こんな活き活きとした彼の姿は、
2年前懇親の願いを込めて握り締めた馬券が春の天皇賞で一発当てた時以来だ。
その時はあまりの嬉しさに、涙を流して見知らぬ隣のオッサンと抱き合った。
それは良き思い出として置いといて、春日子は鬼の形相で「しません!」とキッパリ言う。
孔蛾は迫力負けして、お口を閉じた。
こうして二人の食事の会話は、何故かカメレオンの話で終わってしまった。




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