前頭連合野/46野のORIGINAL NOVEL

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※著作権は前頭連合野/46野の管理人、怪物の顔(鮭)にあります。





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暗いレーズン色した空の下はコンピューターのマザーボードみたいに複雑でゴチャゴチャガチャガチャしていた。
そのガチャガチャゴチャゴチャした風景の中、とある青年が脚立の上に両足乗せて右手にはロープの輪を握っていた。
握っているロープの先は彼の頭上にある橋の手すりに、しっかりと固く結ばれている。
そして脚立の下には、汚い雑な字で『遺書』と書かれた白い封筒がポツンと置かれていた。
どうやらこの男、自殺するつもりだ。
皮肉なことに目の前に建っている民家の窓には、テルテル坊主が吊り下げられてある。
今朝の雨に濡れて、ふやけてしまった体にダラリと項垂れた首。実に悲惨。
残念ながら、これから自分はコレと同じ運命になるのだ。




いざ覚悟を決めて、青年は余った左手もロープを掴む。
すると突如、彼の脳にフラッシュバックがやってきた。
一流企業に入ったのに三ヶ月で会社がまさかの倒産。
めげずに興した事業は失敗し破産、
おまけに信頼していた知人に裏切られ多額の借金を背負う始末。
しかも、裏切った知人はヤミ金融に手を出していたので利子はべら棒に高い。
気がつけば借金は一億をとっくに超えていた。
当然そんな金、返せるわけも無く。借金取りに毎日毎日脅され強請られ追いかけられる日々。
―――――23年間の短い人生だったが、全く良いこと無かったな俺・・・・。
なんせ、昨日も今日も借金取りに追いまわされる始末だもんな。
他人からの最後の言葉も「金返せ」だし。
辛くて辛くてもう死んじゃいたい・・・・いや、もういっそ死んで楽になろう。
覚めない悪夢にピリオドを。
―――――苦しい思い出と共に溢れ出る苦難の想い。蒸し返すとゾッとし、震えがこみ上げてくる。
最後の最後まで恐ろしいままは嫌だ・・・・。
青年は一旦ロープから手を離し、着ているカーキ色をしたコートのポケットからカップ酒を取り出した。
最後の晩餐ならぬ最後の一杯にと自販機で買ってきた、とっておきのやつ。
どうせ死ぬなら気分良くあの世へ逝きたい。
カパッとフタを開け、グィッと一気に中身を飲み干し、プハーッと息を吐く。
この最後の一杯は今まで飲んだどの一杯よりも美味く感じた。
しばらく空になったビン底をじっと見つめる。
すると何故か、じ〜んと何か熱いものが込み上げてきて、
顔が熱くなり目からは涙が零れ落ちていく。


「さよなら!」

力いっぱいこの世への別れの挨拶を済ませると、ついに青年はロープの輪へ首を突っ込んだ。
後はもう脚立から足を離せばいい、ボンとつま先で脚立を蹴る。
すると、もちろん脚立はバタンと倒れるのだが、 如何したことか、ブチンと大きな音と共に青年も一緒にバタンと倒れてしまった。


「―― −ええっ!えっ、うっそー!」

信じられない。何これ。どうして!?
あまりにもアンビリーバボーな出来事に思わず声を荒げて驚く。
幸か不幸か首にくくったロープが切れたのだ。
そんな・・・どうもおかしい。あんなに確り縛っておいたのに・・・・何度も何度も確認したのに。
どうにもこうにも納得がいかないので、青年は切れたロープの先を確かめようと上を見上げた。


「――― −あっ!!」

すると、再び青年は声を荒げる。なんと彼の視線の先には、ハサミを手にした少女が立っていた。

少女の容貌は、小柄で髪はショートカットにしている。歳は14〜16ぐらいだろうか。
黄色と黒の横縞のトーレーナーを着ている。少女は青年に向かって笑窪を見せてニカッと天使の様に微笑えんだ。
そして手に持っているハサミをチョキチョキと鳴らす。
あのハサミ・・・よく見れば、園芸に使う枝切り用の切れ味抜群のハサミ・・・・あれでロープをパチン。
どうにも、彼が死にそこなった原因はこの少女の様だ。


「てめぇ何すんだよ!何してくれたんだよ、邪魔すんなよっ!!馬鹿!馬鹿野朗!」

沸々と怒りが込み上げてきた青年は、酷い言葉を少女にぶつける。
そして「・・・はぁ〜」と溜め息を漏らすと、急に黙り込み俯く。
―――――けっこう準備に時間かかったのに。死にそこなった・・・。俺の苦労は豆腐御殿か?
もろい。 一気に強く湧いてくる脱力感。
―――――まったくの無駄。無駄。無駄。全て無駄。このガキのせいで無駄。おじゃん。
なんとまあ滑稽で惨めな格好であろうか、この姿。
そんな彼を、少女の大きな黒い瞳は映し、さっき受けた罵声に怯むこと無く淡々とこう述べてみせた。

「命を粗末にしてはいけません。命を粗末にするとバチが当たるよ」
「はあ?」
「それに、粗末にすると勿体無いお化けが出てきます。絵理加先生がそう言っていました」

青年は何を訳のわからないことを言い出すのやら・・・・と思ったが、
何処となく正論。そして大人が、おいたをした幼児に言い聞かす様な柔い口調。
何故かソコが愉快に思えた。
――――命を粗末にしてはいけません。命を粗末にするとバチが当たる。
・・・・なんだよ行き成り・・・・・・・・コイツ、何とも、もっともらしい事を言うじゃん。
青年はほんの少し顔を上げ、堪らず小さく笑う。この時彼は半分気がふれていたのかもしれない。
きっと頭のおネジが一本飛んでいる。

「絵理加先生って誰だよ」

可笑しくって可笑しくって、しかたがない。思わず聞いてみる。
なんかもー自分が今日死のうとした事さえ、馬鹿馬鹿しく思えてきた。
なんて実に下らないことで俺は悩んでいたんだろうか。
微風が珈琲色に染められた青年の髪を左右に少し揺らす。

「・・・絵理加先生は今井絵理加という名前で、ボクの先生です」

少女は律儀に答える。どうやら、そういう性格らしい。

「―――― −お前が可笑しいから、死ぬのやめた!もーめんどくせぇーし馬鹿馬鹿しい」

青年の心は吹っ切れた。

「それは、変な理由ですが善い事です」
「・・・そうだな」
「あっ!そうだ、絵理加先生が言っていました。初対面の人と会ったら、
挨拶をして名前を名乗らなければいけません。
今晩は、はじめまして。ボク、春日子。大島春日子」

これまた律儀に、少女は挨拶付きの自己紹介をした。
「・・・どうも、孔蛾・・・実です」と面倒臭そうにだが、青年も応えて名を名乗る。
二人の目が同時に合う。その瞬間、互いの顔から自然に笑みがこぼれた。
青年はクスクスと笑うと、足元に見える自ら書いて置いた遺書を、手にとりビリビリと破いて千切り捨てる。
細かく千切れた遺書は風に乗って、
バラバラと散り散りになって遠くへ遠くへと飛んでいった。


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